竹取物語 第10章
帝の求婚
かぐや姫の評判を聞いた帝は、内侍を遣わして姫の容貌を見させようとするが、姫は会おうとしない。帝は翁に官位を約束して姫を差し出させようとし、ついには御狩の行幸を装って姫の家を訪れる。連れ帰ろうとすると姫は影になって姿を消し、帝はあきらめて帰るが、その後は歌を交わし合う。
- 1さてさてさてかぐやかぐやかぐや姫姫ひめかたちかたちかたち世世よににに似似にずずずめでたきめでたきめでたきことことことををを、、、帝帝みかどきこしめしきこしめしきこしめしててて、、、內內ない侍侍し中中なか臣臣とみのののふさふさふさにににののの給給たまふふう、、、「「「多多おおくくくののの人人ひとののの身身みをををいたづらいたづらいたずらににになしなしなしてててあはあはあわざざざなるなるなるかぐやかぐやかぐや姫姫ひめははは、、、いかいかいかばかりばかりばかりののの女女おんなぞぞぞととと、、、罷罷まかりりりててて見見みててて參參まいれれれ」」」とととののの給給たまふふう。。。ふさふさふさ子子こ承承うけたまわりりりてててまかれまかれまかれりりり。。。竹竹たけ取取とりののの家家いえにににかしこまりかしこまりかしこまりててて請請しょうじじじ入入いれれれてててあへあへあえりりり。。。嫗嫗おうなににに內內ない侍侍しのたまふのたまふのたまう、、、「「「おほせおほせおおせごとごとごとににに、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめのののかたちかたちかたちいういういうにににおはすおはすおわすとととなりなりなり、、、能能よくくく見見みてててまゐるまゐるまいるべきべきべきよしよしよしのたまはのたまはのたまわせせせつるつるつるににになむなむなん參參まいりりりつるつるつる」」」ととといへいへいえばばば、、、さらばさらばさらばかくかくかくととと申申もうししし侍侍はべらららむむん」」」ととといひいひいいててて入入いりりりぬぬぬ。。。
- 2かぐやかぐやかぐや姫姫ひめににに「「「はやはやはや御御おん使使つかいににに對對たい面面めんししし給給たまへへえ」」」ととといへいへいえばばば、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめ「「「よきよきよきかたちかたちかたちにににもももあらあらあらずずず。。。いかでいかでいかでかかか見見みゆゆゆべきべきべき」」」ととといへいへいえばばば「「「うたてうたてうたてももものたまふのたまふのたまうかなかなかな。。。帝帝みかどののの御御おん使使つかいをををばばばいかでいかでいかでかかかおろかおろかおろかにににせせせむむん」」」ととといへいへいえばばば、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめ答答こたふるふるうるやうやうよう「「「帝帝みかどののの召召めしししてててのたまはのたまはのたまわむむんことことことかしこしかしこしかしこしとととももも思思おもははわずずず」」」ととといひいひいいててて、、、更更さらににに見見みゆゆゆべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。うめうめうめるるる子子このののやうやうようにににはははあれあれあれどどど、、、いといといと心心こころ耻耻はずかしししげげげにににおろそかおろそかおろそかなるなるなるやうやうようにににいひいひいいけれけれければばば、、、心心こころのののまゝまゝままにににもももえええ責責せめめめずずず。。。
- 3嫗嫗おうな內內ない侍侍しののの許許もとににに歸歸かえりりり出出いでゝでゝでて「「「口口くちをしくをしくおしくこのこのこの幼幼おさなきききものものものはははこはくこはくこわく侍侍はべるるるものものものにににててて對對たい面面めんすすすまじきまじきまじき」」」ととと申申もうすすす。。。內內ない侍侍し「「「かならずかならずかならず見見み奉奉たてまつりりりてててまゐれまゐれまいれととと、、、仰仰おおせせせ事事ごとありありありつるつるつるものものものををを、、、見見み奉奉たてまつらららででではははいかでいかでいかでかかか歸歸かえりりり參參まいらららむむん、、、國國こか王王おうのののおほせおほせおおせごとごとごとををを、、、まさにまさにまさに世世よににに住住すみみみ給給たまははわむむん人人ひとののの承承うけたまわりりり給給たまははわででではははありありありなむなむなんややや。。。いはいはいわれれれぬぬぬことことことなななししし給給たまひひいそそそ」」」ととと詞詞ことばはづかしくはづかしくはずかしくいひいひいいけれけれければばば、、、これこれこれををを聞聞ききききててて、、、ましてましてましてかぐやかぐやかぐや姫姫ひめきくきくきくべくべくべくもももあらあらあらずずず、、、「「「國國こか王王おうのののおほせおほせおおせことことことををを背背そむかかかばばばはやはやはや殺殺ころししし給給たまひひいてててよよよかしかしかし」」」ととといふいふいう。。。
- 4このこのこの內內ない侍侍し歸歸かえりりり參參まいりりりててて、、、このこのこのよしよしよしををを奏奏そうすすす。。。帝帝みかどきこしめしきこしめしきこしめしててて「「「多多おおくくくののの人人ひとををを殺殺ころしししてててけるけるける心心こころぞぞぞかしかしかし」」」とととのたまひのたまひのたまいててて止止やみみみけれけれけれどどど、、、猶猶なおおぼしめしおぼしめしおぼしめしおはしましおはしましおわしましててて、、、このこのこの女女おんなのののたばかりたばかりたばかりにににやややまけまけまけむむんととと思思おぼしめししめししめしててて竹竹たけ取取とりののの翁翁おきなををを召召めしししててて仰仰おおせせせたまふたまふたまう、、、「「「汝汝なんじががが持持もちちちててて侍侍はべるるるかぐやかぐやかぐや姫姫ひめををを奉奉たてまつれれれ。。。かほかほかおかたちかたちかたちよしよしよしととときこしめしきこしめしきこしめしててて、、、御御み使使つかいをををたびたびたびしかしかしかどどど、、、かひかひかいなくなくなく見見みえええずずずなりなりなりにににけりけりけり。。。かくかくかくやややはははならはすならはすならわすべきべきべき」」」ととと仰仰おおせせせらるらるらる。。。
- 5翁翁おきなかしこまりかしこまりかしこまりててて御御おんかへりかへりかえりごとごとごと申申もうすすすやうやうよう「「「このこのこのめめめのののわらはわらはわらわゝゝは、、、絕絕たえええててて宮宮みや仕仕づかえつかうつかうつこうまつるまつるまつるべくべくべくもももあらあらあらずずず侍侍はべるるるををを、、、もてもてもてわづらひわづらひわずらい侍侍はべりりり。。。さりともさりともさりとも罷罷まかりりりててて仰仰おおせせせ給給たまははわむむん」」」ととと奏奏そうすすす。。。是是これををを聞聞きこししし召召めしししててて仰仰おおせせせ給給たまふふうやうやうよう、、、「「「などてなどてなどて翁翁おきなののの手手てにににおほしおほしおおしたてたてたてたらたらたらむむんものものものををを、、、心心こころににに任任まかせせせざらざらざらむむん、、、このこのこの女女おんなもしもしもし奉奉たてまつりりりたるたるたるものものものならならならばばば、、、翁翁おきなにににをををなどなどなどかかかたばたばたばせせせざらざらざらむむん」」」。。。
- 6翁翁おきな喜喜よろこびびびててて家家いえににに歸歸かえりりりててて、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめにににかたらふかたらふかたらうやうやうよう、、、「「「かくかくかくなむなむなん帝帝みかどののの仰仰おおせせせ給給たまへへえるるる。。。なほなほなおやややははは仕仕つこうううまつりまつりまつり給給たまははわぬぬぬ」」」ととといへいへいえばばば、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめ答答こたへへえててていはくいはくいわく「「「もはらもはらもわらさささやうやうようののの宮宮みやづかへづかへずかえつかうつかうつこう奉奉まつらららじじじととと思思おもふふうををを、、、强强しひひいてててつかうつかうつこうまつらまつらまつらせせせ給給たまははわゞゞば消消きええよ失失うせせせなむなむなんずずず。。。みみみつかさつかさつかさかうぶりかうぶりこうぶりつかうつかうつこうまつりまつりまつりててて死死しぬぬぬばかりばかりばかりなりなりなり」」」。。。翁翁おきないらふるいらふるいらうるやうやうよう「「「なななしししたまひたまひたまいそそそ、、、つかさつかさつかさかうぶりかうぶりこうぶりももも、、、我我わががが子子こををを見見み奉奉たてまつらららでででははは何何なににににかかかはははせせせむむん。。。さささはははありありありともともともなどなどなどかかか宮宮みやつかへつかへつかえをををししし給給たまははわざらざらざらむむん。。。死死しににに給給たまふふうやうやうようやややはははあるあるあるべきべきべき」」」ととといふいふいう。。。
- 7「「「なほなほなおそらそらそらごとごとごとかかかととと、、、仕仕つこうううまつらまつらまつらせせせててて死死しなななずずずやややあるあるあるととと見見み給給たまへへえ。。。あまたあまたあまたののの人人ひとののの志志こころざしおろかおろかおろかならならならざりざりざりしししををを空空むなしくしくしくなしなしなしてててしししこそこそこそあれあれあれ、、、昨日昨日きのう今日今日きょう帝帝みかどののののたまはのたまはのたまわむむんことことことにににつかつかつかむむん、、、人人ひときゝきゝききやさしやさしやさし」」」ととといへいへいえばばば。。。翁翁おきな答答こたへへえててていはくいはくいわく「「「天天あめののの下下したののの事事ことはははとととありありありともともともかゝりかゝりかかりともともとも、、、御御おん命命いのちのののあやふさあやふさあやうさこそこそこそ大大おおきききなるなるなるさはりさはりさわりなれなれなれ。。。猶猶なお仕仕つこうううまつるまつるまつるまじきまじきまじきことことことをををまゐりまゐりまいりててて申申もうさささむむん」」」とてとてとて參參まいりりり申申もうすすすやうやうよう、、、「「「仰仰おおせののの事事ことのののかしこさかしこさかしこさににに、、、かのかのかのわらはわらはわらわををを參參まいらせらせらせむむんとてとてとて仕仕つこうううまつれまつれまつればばば、、、宮宮みや仕仕づかえにににいだしいだしいだしたてたてたてなななばばば死死しぬぬぬべしべしべしとととまうすまうすもうす。。。造造みやつこ麿麿まろががが手手てにににうまうまうませせせたるたるたる子子こにににてててもももあらあらあらずずず、、、むかしむかしむかし山山やまにににててて見見みつけつけつけたるたるたる。。。かかれかかれかかればばば心心こころばせばせばせももも世世よののの人人ひとににに似似にずずずぞぞぞ侍侍はべるるる」」」ととと奏奏そうせせせさすさすさす。。。
- 8帝帝みかどおほせおほせおおせ給給たまはくはくわく、、、「「「造造みやつこ麿麿まろががが家家いえははは山山やま本本もとちかちかちかゝゝかなりなりなり。。。御御み狩狩かりののの行行み幸幸ゆきしししたまはたまはたまわむむんやうやうようにににててて見見みてててむむんややや」」」とととのたまはすのたまはすのたまわす。。。造造みやつこ麿麿まろががが申申もうすすすやうやうよう、、、「「「いといといとよきよきよきことことことなりなりなり。。。何何なにかかか心心こころもももなくなくなくててて侍侍はべらららむむんににに、、、ふとふとふと行行み幸幸ゆきしししててて御御ご覽覽らんぜぜぜられられられなむなむなん」」」ととと奏奏そうすれすれすればばば、、、帝帝みかど俄俄にわかににに日日ひををを定定さだめめめててて、、、御御み狩狩かりにににいでいでいでたまひたまひたまいててて、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめののの家家いえににに入入いりりり給給たまひひいててて見見み給給たまふふうににに、、、光光ひかり滿滿みちちちてててけうらけうらきょうらにににててて居居いたるたるたる人人ひとありありあり。。。これこれこれならならならむむんとととおぼしおぼしおぼしててて、、、近近ちかくくくよらよらよらせせせ給給たまふふうににに、、、逃逃にげげげててて入入いるるる。。。袖袖そでをををとらへとらへとらえ給給たまへへえばばば、、、おもておもておもてをををふたぎふたぎふたぎてててさふらへさふらへさうらえどどど、、、はじめはじめはじめよくよくよく御御ご覽覽らんじじじつれつれつればばば、、、たぐひたぐひたぐいなくなくなくおぼえおぼえおぼえさせさせさせ給給たまひひいててて、、、許許ゆるさささじじじとととすすすとてとてとてゐゐいててておはしまさおはしまさおわしまさむむんとととするするするににに、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめ答答こたへへえててて奏奏そうすすす、、、「「「おのおのおのががが身身みはははこのこのこの國國くにににに生生うまれれれててて侍侍はべらららばばばこそこそこそつかひつかひつかい給給たまははわめめめ、、、いといといとゐゐいててておはしおはしおわし難難がたくくくややや侍侍はべらららむむん」」」ととと奏奏そうすすす。。。
- 9帝帝みかど「「「などなどなどかかかさささあらあらあらむむん」」」、、、猶猶なお率率いててておはしまさおはしまさおわしまさむむん」」」とてとてとて御御み輿輿こしををを寄寄よせせせたまふたまふたまうににに、、、このこのこのかぐやかぐやかぐや姫姫ひめきときときと影影かげににになりなりなりぬぬぬ。。。はかなくはかなくはかなく口口くちをしをしおしとととおぼしおぼしおぼしててて、、、げにげにげにたゞたゞただ人人びとにににはははあらあらあらざりざりざりけりけりけりとととおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「さらばさらばさらば御御お供供ともにににはははゐゐいててていかいかいかじじじ。。。もともともとののの御御おんかたちかたちかたちとととなりなりなり給給たまひひいねねね。。。それそれそれををを見見みてててだにだにだに歸歸かえりりりなむなむなん」」」ととと仰仰おおせせせらるれらるれらるればばば、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめもともともとのののかたちかたちかたちににになりなりなりぬぬぬ。。。帝帝みかどなほなほなおめでたくめでたくめでたくおぼしおぼしおぼし召召めさささるゝるゝるることことことせきせきせきとめとめとめがたしがたしがたし。。。かくかくかく見見みせせせつるつるつる造造みやつこ麿麿まろををを悅悅よろこびびびたまふたまふたまう。。。さてさてさて仕仕つこうううまつるまつるまつる百百もも官官つかさののの人人ひと々々びとににに、、、いかめしういかめしういかめしゅうつかうつかうつこうまつるまつるまつる。。。
- 10帝帝みかどかぐやかぐやかぐや姫姫ひめををを留留とどめめめててて歸歸かえりりり給給たまははわむむんことことことををを、、、飽飽あかかかずずず口口くちをしくをしくおしくおぼしおぼしおぼしけれけれけれどどど、、、たましひたましひたましいををを留留とどめめめたるたるたる心心ここちちちしししてててなむなむなん歸歸かえらららせせせ給給たまひひいけるけるける。。。御御み輿輿こしににに奉奉たてまつりりりててて後後のちにににかぐやかぐやかぐや姫姫ひめににに、、、
- 11「「「かへるさかへるさかえるさのののみゆきみゆきみゆきものものものうくうくうくおもほえおもほえおもおえてててそむきそむきそむきてててとまるとまるとまるかぐやかぐやかぐやひめひめひめゆゑゆゑゆえ」」」。。。
- 12御御おんかへりかへりかえりことことことををを、、、
- 13「「「葎葎むぐらはふはふはう下下したにににもももとしとしとしははは經經へぬるぬるぬる身身みのののなになになにかかかはははたまたまたまのののうてなうてなうてなをををもももみむみむみむ」」」。。。
- 14これこれこれををを帝帝みかど御御ご覽覽らんじじじててていとゞいとゞいとど歸歸かえりりり給給たまははわむむんそらそらそらもももなくなくなくおぼさおぼさおぼさるるる。。。御御み心心こころははは更更さらににに立立たちちちかへるかへるかえるべくべくべくもももおぼさおぼさおぼされれれざりざりざりけれけれけれどどど、、、さりとてさりとてさりとて夜夜よををを明明あかししし給給たまふふうべきべきべきにににもももあらあらあらねねねばばば、、、歸歸かえらららせせせ給給たまひひいぬぬぬ。。。常常つねににに仕仕つこうううまつるまつるまつる人人ひとををを見見み給給たまふふうににに、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめのののかたはらかたはらかたわらににに寄寄よるるるべくべくべくだにだにだにあらあらあらざりざりざりけりけりけり。。。ことことこと人人びとよりよりよりはははけうらけうらきょうらなりなりなりとととおぼしおぼしおぼしけるけるける人人ひとののの、、、かれかれかれにににおぼしおぼしおぼしあはすれあはすれあわすればばば人人ひとにににもももあらあらあらずずず。。。かぐやかぐやかぐや姫姫ひめのみのみのみ御御み心心こころにににかゝりかゝりかかりててて、、、たゞたゞただ一一ひと人人りすぐしすぐしすぐしたまふたまふたまう。。。よしなくよしなくよしなくててて御御お方方かた々々がたにににももも渡渡わたりりり給給たまははわずずず、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめののの御御お許許もとにににぞぞぞ御御お文文ふみををを書書かきききててて通通かよははわさせさせさせ給給たまふふう。。。御御おん返返かえり事事ごとさすがさすがさすがににに憎憎にくからからからずずず聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまひひいててて、、、おもしろきおもしろきおもしろき木木き草草くさにににつけつけつけてててももも、、、御御おん歌歌うたををを詠詠よみみみてててつかはすつかはすつかわす。。。
現代語訳
さて、かぐや姫の容貌が世に比べるものがないほどすばらしいことを帝がお聞きになって、内侍の中臣房子におっしゃる。「多くの人の身を滅ぼしても結婚しないというかぐや姫は、どれほどの女なのかと、行って見てまいれ」とおっしゃる。房子は承って出かけた。竹取の家では恐縮して招き入れて会った。嫗に内侍がおっしゃるには、「帝のおおせで、かぐや姫の容貌がすぐれていらっしゃるそうだ、よく見てまいれとおっしゃったので参りました」と言うので、嫗は「それでは、そのように申し伝えましょう」と言って奥へ入った。
嫗がかぐや姫に「早く御使いにお会いなさい」と言うと、かぐや姫は「よい器量でもありません。どうしてお目にかかれましょう」と言うので、「情けないことをおっしゃいますね。帝の御使いをどうしておろそかにできましょう」と言うと、かぐや姫が答えるには、「帝がお召しになっておっしゃることを、恐れ多いとも思いません」と言って、まったく会おうとしない。自分が産んだ子のように思ってはいるが、たいそうこちらが気後れするほど冷淡な様子で言ったので、思うように責めることもできない。
嫗は内侍のもとに戻って、「残念なことに、この幼い者は強情でございまして、お会いしそうにありません」と申し上げる。内侍は「必ずお会いしてまいれと帝のおおせがあったのに、お会いしないでどうして帰参できましょう。国王のおおせを、この世に住んでいらっしゃる人がお受けしないでいられましょうか。道理に合わないことをなさいますな」と、言葉きびしく言ったので、これを聞いて、かぐや姫はいっそう聞き入れそうにもなく、「国王のおおせに背くというのなら、早く殺してくださればよいのです」と言う。
この内侍は宮中に帰って、このことを奏上する。帝はお聞きになって、「多くの人を殺してしまった心であるよ」とおっしゃって、そのときはそれきりになったが、やはり姫のことを思い続けていらっしゃって、この女の計略に負けてなるものかとお思いになって、竹取の翁を召しておおせになるには、「お前が持っているかぐや姫を差し出せ。容貌がよいと聞いて使いを遣わしたが、そのかいもなく会えずに終わった。このように不都合なふるまいをさせておいてよいものか」とおおせられる。
翁はかしこまってご返事申し上げるには、「この娘は、まったく宮仕えをしそうにもございませんので、もてあましております。それでも、帰っておおせを申し聞かせましょう」と奏上する。これをお聞きになっておおせになるには、「どうして翁の手で育てた者を、思いどおりにできないことがあろうか。この女をもし差し出したならば、翁に五位の位をどうして授けないことがあろうか」。
翁は喜んで家に帰って、かぐや姫に話すには、「このように帝がおおせになった。それでもお仕えなさらないのか」と言うと、かぐや姫が答えて言うには、「決してそのような宮仕えはいたすまいと思っておりますのに、無理にお仕えさせなさるなら、消えうせてしまうでしょう。あなたに官位をいただかせて、私は死ぬだけです」。翁が答えるには、「そんなことはなさいますな。官位も、わが子を見申し上げないでは何になろう。それにしても、どうして宮仕えをなさらないのか。死になさるというわけがあろうか」と言う。
「やはり嘘かと思うなら、お仕えさせて、死なないでいられるかどうか見てください。大勢の人の並々でない愛情をむだにしてしまったのに、昨日今日帝がおっしゃることに従うのは、世間の聞こえも恥ずかしいことです」と言う。翁が答えて言うには、「この世のことはどうであっても、あなたのお命の危うさこそ大きな妨げだ。やはりお仕えできないことを参上して申し上げよう」と言って、参上して申し上げるには、「おおせの恐れ多さに、あの子を差し出そうとして努めましたところ、宮仕えに出したら死んでしまうと申します。この造麻呂が自分の手で生ませた子でもありません。昔、山で見つけた子です。そういうわけで、気だても世間の人とは違っております」と、人を介して奏上させる。
帝がおおせになるには、「造麻呂の家は山のふもとに近いそうだな。御狩の行幸をするようにして、姫を見ることができようか」とおっしゃる。造麻呂が申し上げるには、「たいそうよいことです。姫が何の心構えもなくおりますときに、急に行幸なさってご覧になれば、きっとご覧になれましょう」と奏上すると、帝は急に日を決めて、御狩にお出かけになり、かぐや姫の家にお入りになってご覧になると、光が満ちあふれて、清らかに美しい様子で座っている人がいる。これがそうだろうとお思いになって、近くにお寄りになると、奥へ逃げて入る。袖をおとらえになると、顔を袖でふさいで控えているが、最初によくご覧になったので、比べるものもないほどすばらしくお思いになって、「放すまいぞ」と言って連れていこうとなさると、かぐや姫が答えて奏上する。「私の身がこの国に生まれた者でございましたら、お召し使いにもなれましょうが、とても連れていらっしゃることはできないでしょう」と奏上する。
帝は「どうしてそんなことがあろうか。やはり連れて行こう」とおっしゃって、御輿をお寄せになると、このかぐや姫はさっと影になって姿を消してしまった。帝は、はかなく残念だとお思いになって、なるほど普通の人ではなかったのだとお思いになって、「それでは連れて行くまい。もとのお姿におなりなさい。せめてその姿だけでも見て帰ろう」とおおせられると、かぐや姫はもとの姿になった。帝はいっそうすばらしいとお思いになる気持ちを抑えることができない。このように姫を見せてくれた造麻呂に感謝なさる。そして、お供の百官の人々に、翁は盛大なもてなしをしてさしあげる。
帝はかぐや姫を残してお帰りになることを、心残りで残念にお思いになったけれど、魂を姫のもとに残したような気持ちでお帰りになった。御輿にお乗りになってから、かぐや姫に、
「帰り道の行幸はもの憂く思われて、つい振り返ってとどまってしまうことだ。私に背いてここにとどまるかぐや姫のために」
そのご返事として、
「葎の生い茂る粗末な家で年月を過ごしてきた身が、どうして玉の台のような宮中を見ることがありましょう」
これを帝はご覧になって、ますますお帰りになる気持ちもなくなってしまわれる。お心はとても立ち帰れそうにもお思いになれなかったけれど、だからといって夜を明かしなさるわけにもいかないので、お帰りになった。いつもおそばに仕えている女たちをご覧になると、かぐや姫のそばに寄れそうな者さえいなかった。ほかの人よりは美しいとお思いになっていた人も、かぐや姫と比べてみると人並みでもない。かぐや姫ばかりがお心にかかって、ただ一人でお過ごしになる。わけもなくお后がたのところにもお渡りにならず、かぐや姫のもとにだけ手紙を書いてお通わせになる。姫のご返事も、さすがに情のこもったものでお互いにやりとりなさって、趣のある木や草につけても、帝は御歌を詠んでお贈りになる。
意訳
五人の貴公子の失敗のあと、ついにこの世の最高権力者である帝が登場する。帝はまず内侍を遣わすが、かぐや姫は「帝のお召しも恐れ多いとは思わない」と言い放ち、「背くというなら殺せ」とまで言う。翁を官位で釣ろうとしても、姫は「無理に宮仕えさせるなら消えてしまう」と拒む。そこで帝は狩りを装って自ら姫の家を訪れ、その美しさに心を奪われて連れ帰ろうとするが、姫は影となって消え、人間ではないことを示す。力ずくではどうにもならないと悟った帝は、姫の家を去ったあとも思いを断てず、後宮の女性たちにも心を向けなくなる。それでも姫は帝との歌のやりとりには応じるようになり、二人のあいだに初めて心の通い合いが生まれる。
語釈・文法注
- ふさ子
- 内侍の中臣房子。内侍は内侍司の女官で、天皇のそばに仕えて取り次ぎなどをした。
- たいだいし
- 「怠怠し」。不都合だ、けしからぬ。
- かうぶり
- 「冠」。叙爵、つまり五位の位を授けること。五位になると貴族の仲間入りをし、冠をつけて昇殿できた。
- あるじ
- 主人として客をもてなすこと。饗応。
文法
- 「さらばかくと申し侍らむ」
- 底本では閉じの「」」だけがあり、開きの「「」がない。そのまま翻刻した。
- 「殺し給ひてよかし」
- 「て」は完了の助動詞「つ」の未然形、「よ」は命令形語尾、「かし」は念押しの終助詞。殺してくださいな。
- 「消え失せなむず」
- 「なむず」は完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」+推量の助動詞「むず」。きっと消えうせてしまうでしょう。
- 「侍らばこそつかひ給はめ」
- 「こそ〜め」は係り結び。逆接的に下に続き、お召し使いにもなれましょうが(実際はそうではない)、の意。
和歌
かへるさのみゆきものうくおもほえてそむきてとまるかぐやひめゆゑ
- 詠者
- 帝
- 状況
- 御狩の行幸の帰り、御輿の中からかぐや姫に贈った歌。
修辞
- 掛詞
- 「みゆき」に「行幸」と「深雪」、「そむきて」に「背きて」と「(振り)向きて」をかける説がある。
葎はふ下にもとしは經ぬる身のなにかはたまのうてなをもみむ
- 詠者
- かぐや姫
- 状況
- 帝の歌への返歌。宮中に入ることを丁重に断っている。
修辞
- 対比
- 「葎はふ下」(粗末な家)と「たまのうてな」(美しい宮殿)を対比させている。
解説
帝の求婚の段では、五人の貴公子のような滑稽な失敗談はなく、物語の調子が一転して優美で抒情的になる。この世の最高の権力をもってしても、かぐや姫を思いどおりにすることはできないという点で、姫が地上の秩序を超えた存在であることが強調されている。
かぐや姫が「きと影になりぬ」と姿を消す場面は、姫の異界性をはっきり示す場面で、後半の月への帰還の伏線となっている。
帝とかぐや姫は結婚しないまま、歌をやりとりする関係を三年続ける。この心の交流が、昇天の場面で姫が帝に手紙と不死の薬を残す結末につながっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(竹取物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、18–21頁(コマ13–14)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日