竹取物語 第8章
龍の首の玉(二)
家来が戻らないので、大納言は自ら船に乗って龍を探しに出るが、筑紫の沖で暴風と雷に襲われる。楫取の勧めで龍に許しを請い、命からがら明石の浜に吹き寄せられた大納言は、病で目をすももを付けたように腫らして帰る。かぐや姫を大盗人とののしり、世の人は「あな堪へがた」と笑った。
- 1遣遣つかわしゝしゝしし人人ひとははは夜夜よる晝晝ひる待待まちちち給給たまふふうににに、、、年年とし越越こゆるゆるゆるまでまでまでももも音音おともももせせせずずず、、、心心こころもとなもとなもとながりがりがりててて、、、いといといと忍忍しのびびびてててたゞたゞただ舍舍とね人人り二二ふた人人りめしめしめしつぎつぎつぎとととしししてててやつれやつれやつれ給給たまひひいててて、、、難難な波波にわにににおはしましおはしましおわしましててて問問とひひい給給たまふふうことことことははは「「「大大おお伴伴ともののの大大だい納納な言言ごんののの人人ひとややや、、、船船ふねににに乘乘のりりりててて龍龍たつ殺殺ころしししててて、、、そそそががが首首くびののの玉玉たまとれとれとれるるるとととややや聞聞きくくく」」」ととと問問とはははするするするににに、、、船船ふな人人びと答答こたへへえててていはくいはくいわく、、、怪怪あやしきしきしきことことことかなかなかなととと笑笑わらひひいててて「「「さるさるさるわざわざわざするするする船船ふねもももなしなしなし」」」ととと答答こたふるふるうるににに、、、ことことことするするする船船ふな人人びとにににもももあるあるあるかなかなかな、、、えええ知知しらららでででかくかくかくいふいふいうとととおぼしおぼしおぼしててて「「「我我わががが弓弓ゆみののの力力ちからははは、、、龍龍たつあらあらあらばばばふとふとふと射射い殺殺ころしししててて首首くびののの玉玉たまはははとりとりとりてててむむん。。。遲遲おそくくく來來くるるるやつやつやつばらばらばらををを待待またたたじじじ」」」とととのたまひのたまひのたまいててて、、、船船ふねににに乘乘のりりりててて、、、海海うみごとごとごとにににありきありきありき給給たまふふうににに、、、いといといと遠遠とおくくくててて、、、筑筑つく紫紫しののの方方かたののの海海うみににに漕漕こぎぎぎいでいでいで給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 2いかゞいかゞいかがしししけむけむけん、、、はやきはやきはやき風風かぜ吹吹ふきききててて、、、世世せ界界かいくらくらくらがりがりがりててて、、、船船ふねををを吹吹ふきききもてもてもてありくありくありく。。。いづれいづれいずれののの方方かたとととももも知知しらららずずず、、、船船ふねををを海海うみ中中なかにににまかりまかりまかり入入いりりりぬぬぬべくべくべくふきふきふきまはしまはしまわしててて、、、浪浪なみははは船船ふねにににうちうちうちかけかけかけつゝつゝつつまきまきまき入入いれれれ、、、ははは落落おちちちかゝるかゝるかかるやうやうようにににひらめきひらめきひらめきかゝるかゝるかかるににに、、、大大だい納納な言言ごんははは惑惑まどひひいててて「「「まだまだまだかゝるかゝるかかるわびしきわびしきわびしきめめめははは見見みずずず。。。いかならいかならいかならむむんとととするするするぞぞぞ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。かぢかぢかじとりとりとり答答こたへへえてててまうすまうすもうす「「「こゝらこゝらここら船船ふねににに乘乘のりりりてててまかりまかりまかりありくありくありくににに、、、まだまだまだかくかくかくわびしきわびしきわびしきめめめををを見見みずずず、、、御御み船船ふね海海うみののの底底そこににに入入いらららずずずばばば神神かみ落落おちちちかゝりかゝりかかりぬぬぬべしべしべし。。。もしもしもしさいはひさいはひさいわいににに神神かみののの助助たすけあらあらあらばばば、、、南南なん海海かいにににふかふかふかれれれおはしおはしおわしぬぬぬべしべしべし。。。うたてうたてうたてあるあるあるぬしぬしぬしのののみみみ許許もとにににつかへつかへつかえまつりまつりまつりててて、、、すゞろすゞろすずろなるなるなる死死しにににをををすすすべかべかべかめるめるめる」」」とてとてとて揖揖かじ取取とりなくなくなく。。。
- 3大大だい納納な言言ごんこれこれこれををを聞聞ききききてててのたまはくのたまはくのたまわく「「「船船ふねににに乘乘のりりりてててははは揖揖かじ取取とりののの申申もうすすすことことことをををこそこそこそ高高たかききき山山やまととともももたのめたのめたのめ。。。などなどなどかくかくかくたのもしたのもしたのもしげげげなきなきなきことことことををを申申もうすすすぞぞぞ」」」とととあをあをあおをををつきつきつきてててのたまふのたまふのたまう。。。揖揖かじ取取とり答答こたへへえてててまうすまうすもうす、、、「「「神神かみならならならねねねばばばなになになにわざわざわざをををかかか仕仕つこううう奉奉まつらららむむん。。。風風かぜ吹吹ふききき浪浪なみはげしけれはげしけれはげしけれどもどもども、、、神神かみさへさへさへいたゞきいたゞきいただきににに落落おちちちかゝるかゝるかかるやうやうようなるなるなるははは、、、龍龍たつををを殺殺ころさささむむんととと求求もとめめめ給給たまひひいさふらへさふらへさうらえばばばかくかくかくあああなりなりなり。。。はやてはやてはやてももも龍龍たつののの吹吹ふかかかするするするなりなりなり。。。はやはやはや神神かみににに祈祈いのりりり給給たまへへえ」」」ととといへいへいえばばば、、、よきよきよきことことことなりなりなりとてとてとて「「「揖揖かじ取取とりののの御御おん神神かみきこしめせきこしめせきこしめせ。。。おぢなくおぢなくおじなく心心こころ幼幼おさなくくく龍龍たつををを殺殺ころさささむむんととと思思おもひひいけりけりけり。。。今今いまよりよりより後後のちははは毛毛け一一ひと筋筋すじをををだにだにだに動動うごかしかしかし奉奉たてまつらららじじじ」」」とととをををはなちはなちはなちててて、、、たちたちたちゐゐいなくなくなくなくなくなく呼呼よばひばひばい給給たまふふうことことこと、、、千千ちたびたびたびばかりばかりばかり申申もうししし給給たまふふうけけけにににやややあらあらあらむむん、、、やうやうやうやうようよう神神かみなりなりなりやみやみやみぬぬぬ。。。
- 4少少すこしししあかりあかりあかりててて、、、風風かぜはははなほなほなおはやくはやくはやく吹吹ふくくく。。。揖揖かじ取取とりのののいはくいはくいわく「「「これこれこれははは龍龍たつのののしわざしわざしわざにににこそこそこそありありありけれけれけれ。。。このこのこの吹吹ふくくく風風かぜはははよきよきよき方方かたののの風風かぜなりなりなり。。。あしきあしきあしき方方かたののの風風かぜにににはははあらあらあらずずず。。。よきよきよき方方かたににに赴赴おもむきききててて吹吹ふくくくなりなりなり」」」ととといへいへいえどもどもども、、、大大だい納納な言言ごんははは是是これををを聞聞きききき入入いれれれ給給たまははわずずず。。。三三み四四よ日日かありありありててて吹吹ふききき返返かえしししよせよせよせたりたりたり。。。濱濱はまををを見見みれれればばば、、、播播はり磨磨まののの明明あか石石しののの濱濱はまなりなりなりけりけりけり。。。大大だい納納な言言ごん南南なん海海かいののの濱濱はまににに吹吹ふききき寄寄よせせせられられられたるたるたるにににやややあらあらあらむむんととと思思おもひひいててて、、、息息いきつきつきつき臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。
- 5船船ふねにににあるあるあるをのこをのこおのこどもどもども國國くにににに告告つげげげたれたれたればばば國國くにののの司司つかさ詣詣もうででで訪訪とぶらふらふらうにににももも、、、えええおきおきおきあがりあがりあがり給給たまははわででで船船ふな底底ぞこにににふしふしふし給給たまへへえりりり。。。松松まつ原原ばらにににみみみ席席むしろ敷敷しきききててておろしおろしおろし奉奉たてまつるるる。。。そのそのその時時ときにににぞぞぞ南南なん海海かいにににあらあらあらざりざりざりけりけりけりととと思思おもひひいててて、、、辛辛からうじてうじてうじて起起おきききあがりあがりあがり給給たまへへえるるるををを見見みれれればばば、、、いといといとおもきおもきおもき人人ひとにににててて、、、腹腹はらいといといとふくれふくれふくれ、、、こなたこなたこなたかなたかなたかなたののの目目めにににははは、、、すもゝすもゝすももををを二二ふたつつつつけつけつけたるたるたるやうやうようなりなりなり。。。これこれこれををを見見み奉奉たてまつりりりてててぞぞぞ、、、國國くにのののつかさつかさつかさもももほゝゑみほゝゑみほほえみたるたるたる。。。
- 6國國くにににに仰仰おおせせせ給給たまひひいててて、、、作作つくらららせせせたまひたまひたまいててて、、、によふによふにようににになはなはなわれれれててて家家いえににに入入いりりり給給たまひひいぬるぬるぬるををを、、、いかでいかでいかで聞聞ききききけむけむけん、、、遣遣つかわしゝしゝししをのこをのこおのこどもどもども參參まいりりりててて申申もうすすすやうやうよう「「「龍龍たつののの首首くびののの玉玉たまをををえええとらとらとらざりざりざりしかしかしかばばばなむなむなん殿殿とのへへへもももえええ參參まいらららざりざりざりししし。。。玉玉たまのののとりとりとり難難がたかりかりかりしししことことことををを知知しりりり給給たまへへえれれればばばなむなむなん、、、勘勘かん當當どうあらあらあらじじじとてとてとて參參まいりりりつるつるつる」」」ととと申申もうすすす。。。
- 7大大だい納納な言言ごん起起おききき出出いでゝでゝでてのたまはくのたまはくのたまわく「「「汝汝なんじ等等らよくよくよくもてもてもて來來こずずずなりなりなりぬぬぬ。。。龍龍たつはははなるなるなる神神かみののの類類たぐひひいにににてててこそこそこそありありありけれけれけれ。。。それそれそれががが玉玉たまをををとらとらとらむむんとてとてとて、、、そこらそこらそこらののの人人ひと々々びとののの害害がいせせせられられられなむなむなんとととしししけりけりけり。。。ましてましてまして龍龍たつををを捕捕とらへへえたらたらたらましかましかましかばばば、、、またまたまたことことこともももなくなくなく我我われははは害害がいせせせられられられなななましましまし。。。よくよくよく捕捕とらへへえずずずなりなりなりにににけりけりけり。。。かぐやかぐやかぐや姫姫ひめてふてふてう大大おお盜盜ぬす人人びとのののやつやつやつががが、、、人人ひとををを殺殺ころさささむむんとととするするするなりなりなりけりけりけり。。。家家いえのののあたりあたりあたりだにだにだに今今いまははは通通とおらららじじじ。。。をのこをのこおのこどもどもどもゝゝもなななありきありきありきそそそ」」」とてとてとて家家いえににに少少すこししし殘殘のこりりりたりたりたりけるけるけるものものものどもどもどもははは、、、龍龍たつののの玉玉たまとらとらとらぬぬぬものものものどもどもどもにににたびたびたびつつつ。。。
- 8これこれこれををを聞聞ききききててて、、、離離はなれ給給たまひひいしししもともともとのののうへうへうえははは、、、腹腹はらをををきりきりきりててて笑笑わらひひい給給たまふふう。。。糸糸いとをををふかふかふかせせせててて作作つくりりりししし屋屋やははは、、、鳶鳶とび烏烏からすののの巢巢すににに皆皆みなくひくひくいもてもてもていにいにいにけりけりけり。。。世世せ界界かいののの人人ひとのののいひいひいいけるけるけるははは「「「大大おお伴伴ともののの大大だい納納な言言ごんははは、、、龍龍たつののの首首くびののの玉玉たまやややとりとりとりててて坐坐おわしししたるたるたる」」」、、、「「「いないないなさささもももあらあらあらずずず、、、みみみまなこまなこまなこ二二ふたつつつにににすもゝすもゝすもものののやうやうようなるなるなる玉玉たまをををぞぞぞ添添そへへえててていましいましいましたるたるたる」」」ととといひいひいいけれけれければばば「「「あなあなあな堪堪たへへえがたがたがた」」」ととといひいひいいけるけるけるよりよりよりぞぞぞ世世よにににあはあはあわぬぬぬ事事ことをををばばばあなあなあなたへたへたえとととはははいひいひいい始始はじめめめけるけるける。。。
現代語訳
大納言は、遣わした家来たちを昼も夜もお待ちになっていたが、年を越すまで何の音沙汰もないので、待ち遠しく思って、ごく内密に舎人二人だけを従者として、身なりをやつしなさって難波においでになり、お尋ねになることには、「大伴の大納言の家来が、船に乗って龍を殺して、その首の玉を取ったと聞いているか」と尋ねさせると、船頭が答えて言うには、「妙なことを聞くものだ」と笑って、「そんなことをする船はない」と答えるので、大納言は「意気地のないことを言う船頭だなあ。わが身の力も知らずにこう言うのだ」とお思いになって、「わが弓の力をもってすれば、龍がいたら、さっと射殺して首の玉はきっと取ってやろう。遅れてやってくる家来どもを待つまい」とおっしゃって、船に乗って、あちこちの海を回りなさるうちに、たいそう遠くまで行って、筑紫の方の海に漕ぎ出しなさった。
どうしたことだろうか、激しい風が吹いて、あたり一面が暗くなって、船を吹きもてあそぶ。どの方角ともわからず、船を海の中に沈めてしまいそうなほど吹き回して、波は船に打ちかかっては巻きこみ、雷は落ちかかるようにひらめきかかるので、大納言は途方に暮れて、「まだこんなひどい目にあったことはない。どうなろうとするのか」とおっしゃる。楫取が答えて申し上げる。「長年船に乗って行き来しておりますが、まだこんなひどい目にあったことはありません。お船が海の底に沈まなければ、雷が落ちかかるにちがいありません。もし幸いに神のお助けがあれば、南海に吹き流されていらっしゃるでしょう。とんでもない主人のおそばにお仕えして、思いがけない死に方をするにちがいないようだ」と言って、楫取は泣く。
大納言はこれを聞いておっしゃるには、「船に乗ったら、楫取の申すことこそを高い山のように頼りにするのだ。どうしてこう頼りにならないことを申すのか」と、青へどを吐いておっしゃる。楫取が答えて申し上げる。「私は神ではないので、何をしてさしあげられましょう。風が吹き波が激しいうえに、雷までが頭の上に落ちかかるようなのは、龍を殺そうとお探しになっているから、こうなるのです。疾風も龍が吹かせているのです。早く神にお祈りなさいませ」と言うので、大納言は「それはよいことだ」と言って、「楫取の神様、お聞きください。意気地もなく、愚かにも龍を殺そうと思いました。今から後は、龍の毛一筋さえ動かし申しますまい」と祈りの言葉を唱えて、立ったり座ったり泣く泣く呼びかけなさること、千回ほど申し上げなさったせいであろうか、しだいに雷が鳴りやんだ。
少し明るくなって、風はなおも激しく吹く。楫取が言うには、「これは龍のしわざだったのだ。この吹く風はよい方角へ向かう風だ。悪い方角の風ではない。よい方角に向かって吹いているのだ」と言うけれども、大納言はこれを聞き入れなさらない。三、四日たって、船を吹き戻して岸に寄せた。浜を見ると、播磨の明石の浜であった。大納言は南海の浜に吹き寄せられたのだろうかと思って、ため息をついて横になっていらっしゃる。
船にいる家来たちが国府に知らせたので、国司が参上してお見舞い申し上げるけれども、大納言は起き上がることもできずに船底に横になっていらっしゃる。松原に御むしろを敷いて、船から下ろし申し上げる。そのときになって初めて、南海ではなかったのだと思って、やっとのことで起き上がりなさったのを見ると、ひどい風病にかかった人で、腹はたいそうふくれ、左右の目には、すももを二つつけたように腫れあがっている。これを見申し上げて、国司も思わずほほえんだ。
大納言は国府に命じなさって、手輿を作らせなさって、うんうんうめきながら担がれて家にお入りになったのを、どうして聞いたのだろうか、遣わした家来たちが参上して申し上げるには、「龍の首の玉を取ることができなかったので、お屋敷にも参上できませんでした。玉の取りにくいことをご存じになったでしょうから、お咎めはあるまいと思って参上いたしました」と申し上げる。
大納言は起き上がっておっしゃるには、「お前たちは、よくぞ持ってこなかった。龍は雷の仲間だったのだ。その玉を取ろうとして、多くの人々が殺されそうになった。まして龍を捕らえたりしていたら、また何のこともなく私は殺されていただろう。よくぞ捕らえずにすんだものだ。かぐや姫という大盗人めが、人を殺そうとしたのだ。家のあたりさえ、今はもう通るまい。家来たちもあそこへ行ってはならぬ」と言って、家に少し残っていた財物は、龍の玉を取らなかった家来たちに与えてしまった。
これを聞いて、離縁なさったもとの奥方は、腹をかかえてお笑いになる。糸を葺かせて作った家は、鳶や烏が巣を作るために、すっかりくわえて持って行ってしまった。世間の人が言ったことには、「大伴の大納言は、龍の首の玉を取っていらっしゃったのか」「いやいやそうではない、両の目に、すもものような玉をつけていらっしゃった」と言ったので、「ああ、食べがたい(堪えがたい)」と言ったことから、世の中で道理に合わないことを「あな、たへがた」と言うようになった。
意訳
家来たちが戻らないのに業を煮やした大納言は、自分の弓の腕を誇り、自ら龍退治に乗り出す。ところが海に出ると、たちまち暴風と雷に襲われ、さっきまでの威勢はどこへやら、青へどを吐いて楫取に泣きつき、龍に向かって千度も許しを請う始末である。やっと陸に着いても南海の果てに流されたと思いこみ、明石の浜とわかって起き上がった顔は、目がすももを二つ付けたように腫れあがっている。家来たちには「よくぞ取ってこなかった」と褒美を与え、かぐや姫を「大盗人」とののしる。強がりと臆病、権力と無力が次々と入れかわる、五つの求婚譚の中でもっとも笑いの多い話である。
語釈・文法注
- おぢなき
- 「怖(お)ぢ無し」。意気地がない、臆病だ。大納言が船頭を臆病者と見下している。
- 神
- 雷。「鳴る神(いかづち)」の意。
- あをへど
- 「青反吐」。船酔いなどで吐く、青くなるほどの反吐。
- よごと
- 「寿詞・善言」。神に申し上げる祈りの言葉。
- 風
- 「風病(ふうびやう)」。風邪や中風など、風が体に入って起こると考えられた病気の総称。
- たごし
- 「手輿」。前後二人で手で腰のあたりに持ち上げて運ぶ輿。
- によふによふ
- 「呻吟(によふ)」。苦しそうにうめき声をあげるさま。
- あなたへがた
- 「あな堪へ難」(ああ、たえがたい)に、「あな、食(た)べ難(がた)」(すももは食べにくい)をかけた語源説話。
文法
- 「とりてむ」
- 完了(強意)の助動詞「つ」の未然形「て」+意志の助動詞「む」。きっと取ってやろう。
- 「すべかめる」
- 当然の助動詞「べし」の連体形「べかる」に推定の「めり」がついた「べかるめる」の撥音便無表記。きっと〜するにちがいないようだ。
- 「捕へたらましかば〜害せられなまし」
- 「ましかば〜まし」で反実仮想を表す。もし捕らえていたら、殺されていただろう。
- 「なありきそ」
- 禁止の「な〜そ」。歩き回ってはならない。
解説
大伴御行の話は、五つの求婚譚の中でもっとも長く、滑稽な場面が多い。海上で嵐にあって神に祈る場面は、仏典や説話に見える海難譚の形をふまえたものと考えられるが、物語では主人公の臆病さを際立たせるための笑いの場面に仕立てられている。
目をすももを二つ付けたように腫らした姿や、家来たちに「よくぞ取ってこなかった」と褒美を与える場面、龍の首の玉の代わりに「すももの玉」を付けて帰ったという世間の噂など、大納言の失敗は徹底的に戯画化されている。
最後の語源説明「あな、たへがた」は、「ああ、堪えがたい」と「ああ、(すももは)食べがたい」をかけたものと解されている。こじつけの語源譚によって話を締めくくる形は、ほかの求婚譚と共通している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(竹取物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、13–15頁(コマ10–11)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日