竹取物語 第7章
龍の首の玉(一)
大納言大伴御行は家来たちを集め、龍の首の五色に光る玉を取ってくるよう命じて、屋敷の財物を持たせて送り出す。家来たちは主人の無理な命令をそしり、物を分け取ってそれぞれ勝手な所へ行ってしまう。大納言はかぐや姫を迎えるための豪華な家を建て、もとの妻たちを追い出して一人で待ち暮らす。
- 1大大おお伴伴とものののみゆきみゆきみゆきののの大大だい納納な言言ごんははは、、、我我わががが家家いえにににありありありとととあるあるある人人ひとををを召召めししし集集あつめめめてててののの給給たまはくはくわく「「「龍龍たつののの首首くびににに「「「五五ご色色しきののの光光ひかりあるあるある玉玉たまあるあるあるなりなりなり。。。それそれそれをををとりとりとりててて奉奉たてまつりりりたらたらたらむむん人人ひとにににははは、、、願願ねがははわむむんことことことをををかなへかなへかなえむむん」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
- 2をのこをのこおのこどもどもども仰仰おおせせせののの事事ことををを承承うけたまわりりりててて申申もうさくさくさく「「「仰仰おおせののの事事ことはははいといといとももも尊尊とうとししし。。。たゞしたゞしただし此此こののの玉玉たまたはたはたわやすくやすくやすくえええとらとらとらじじじををを、、、况况いわんややや龍龍たつののの首首くびののの玉玉たまはははいかゞいかゞいかがとらとらとらむむん」」」ととと申申もうしししあへあへあえりりり。。。大大だい納納な言言ごんのたまふのたまふのたまう「「「君君きみののの使使つかいととといはいはいわむむんものものものははは、、、命命いのちををを捨捨すてゝてゝててももも己己おのががが君君きみののの仰仰おおせせせ事事ごとをををばばばかなへかなへかなえむむんとととこそこそこそ思思おもふふうべけれべけれべけれ。。。このこのこの國國くにににになきなきなき天天てん竺竺じく唐唐もろ土土こしののの物物ものにににもももあらあらあらずずず。。。このこのこの國國くにののの海海うみ山山やまよりよりより龍龍たつはははおりおりおりのぼるのぼるのぼるものものものなりなりなり。。。いかにいかにいかに思思おもひひいてててかかか汝汝なんじ等等ら難難かたききき物物ものととと申申もうすすすべきべきべき」」」。。。
- 3をのこをのこおのこどもどもども申申もうすすすやうやうよう「「「さらばさらばさらばいかゞいかゞいかがはははせせせむむん、、、難難かたきききものものものなりなりなりともともとも、、、仰仰おおせ事事ごとににに從從したがひひいてててもとめもとめもとめにににまからまからまからむむん」」」ととと申申もうすすす。。。大大だい納納な言言ごん見見み笑笑わらひひいててて「「「汝汝なんじ等等ら君君きみののの使使つかいととと名名なををを流流ながしししつつつ。。。君君きみののの仰仰おおせせせ事事ごとをををばばばいかゞいかゞいかがははは背背そむくくくべきべきべき」」」とととののの給給たまひひいててて、、、龍龍たつののの首首くびののの玉玉たまとりとりとりにににとてとてとて出出いだしししたてたてたて給給たまふふう。。。このこのこの人人ひと々々びとののの道道みちのののかてかてかてくひくひくいものものものににに、、、殿殿とのののの內內うちののの絹絹きぬ綿綿わた錢錢ぜになどなどなどあるあるあるかぎりかぎりかぎりとりとりとり出出いてゝてゝててそへそへそえててて遣遣つかははわすすす。。。「「「此此こののの人人ひと々々びとどもどもども歸歸かえるるるまでまでまでをををしししててて我我われははは居居おらららむむん。。。このこのこの玉玉たまとりとりとり得得えでででははは家家いえににに歸歸かえりりりくくくななな」」」とととののの給給たまははわせせせけりけりけり。。。
- 4おのおのおのおのおのおの仰仰おおせ承承うけたまわりりりててて罷罷まかりりりいでいでいでぬぬぬ。。。龍龍たつののの首首くびののの玉玉たまとりとりとり得得えずずずばばば歸歸かえりりりくくくなななとととのたまへのたまへのたまえばばば、、、いづちいづちいずちもももいづちいづちいずちももも足足あしのののむきむきむきたらたらたらむむんかたかたかたへへへいないないなむむんとととすすす。。。かゝるかゝるかかるすきすきすきごとごとごとをををししし給給たまふふうことことことゝゝとそしりそしりそしりあへあへあえりりり。。。賜賜たまははわせせせたるたるたる物物ものはははおのおのおのおのおのおの分分わけけけつゝつゝつつとりとりとり、、、或或あるははわ己己おのががが家家いえにににこもりこもりこもりゐゐい或或あるははわおのおのおのがががゆかゆかゆかまほしきまほしきまほしき所所ところへへへいぬいぬいぬ。。。「「「親親おや君君きみととと申申もうすすすともともともかくかくかくつきなきつきなきつきなきことことことををを仰仰おおせせせ給給たまふふうことことこと」」」とととことことことゆかゆかゆかぬぬぬものものものゆゑゆゑゆえ、、、大大だい納納な言言ごんをををそしりそしりそしりあひあひあいたりたりたり。。。
- 5「「「かぐやかぐやかぐや姫姫ひめすゑすゑすえむむんにににははは例例れいのののやうやうようにににははは見見みにくしにくしにくし」」」とととのたまひのたまひのたまいててて麗麗うるわしきしきしき屋屋やをををつくりつくりつくり給給たまひひいててて、、、漆漆うるしををを塗塗ぬりりり蒔蒔まき繪繪えをををししし、、、いろへいろへいろえしししたまひたまひたまいててて、、、屋屋やののの上上うえにににははは糸糸いとををを染染そめめめててていろいろいろいろいろいろににに葺葺ふかかかせせせててて、、、內內うち々々うちのののしつらひしつらひしつらいにににははは、、、いふいふいうべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬ綾綾あや織織おり物物ものににに繪繪えををを書書かきききててて、、、まままにににはりはりはりたりたりたり。。。もともともとのののめめめどもどもどもははは皆皆みな追追おひひい拂拂はらひひいててて、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめををを必必かならずあはあはあわむむんととと設設もうけけけしししててて獨獨ひとり明明あかししし暮暮くらしししたまふたまふたまう。。。
現代語訳
大伴御行の大納言は、自分の家にいるすべての家来を呼び集めておっしゃるには、「龍の首に五色に光る玉があるという。それを取ってきて私に献上した者には、望みをかなえてやろう」とおっしゃる。
家来たちはご命令を承って申し上げるには、「ご命令はまことに恐れ多いことです。ただ、この玉はたやすくは取れないでしょうに、まして龍の首の玉などどうして取れましょうか」と口々に申し上げた。大納言がおっしゃるには、「主君の使いと言われる者は、命を捨ててでも自分の主君の命令をかなえようとこそ思うべきだ。この国にない天竺や唐土の物でもない。この国の海や山から龍は昇り降りするものだ。どう思って、お前たちは難しい物などと申すのか」。
家来たちが申すには、「それならば、しかたがありません。難しい物であっても、ご命令に従って探しに参りましょう」と申し上げる。大納言は満足して笑って、「お前たちは主君の使いとして名を知られている。主君の命令にどうして背けようか」とおっしゃって、龍の首の玉を取りに出発させなさる。この人々の道中の食料に、屋敷の中の絹・綿・銭などをありったけ取り出して添えて遣わす。「この者たちが帰るまで、私は精進潔斎をして待っていよう。この玉を取ることができないうちは、家に帰ってくるな」とおっしゃった。
家来たちはそれぞれご命令を承って出発した。「龍の首の玉を取ることができなければ帰ってくるな」とおっしゃるので、どこへなりと足の向いた方へ行ってしまおうとする。「このような物好きなことをなさるとは」と非難し合った。いただいた物はめいめいで分けて取り、ある者は自分の家にこもり、ある者は自分の行きたい所へ行ってしまう。「親や主君と申しても、このような無理なことをおっしゃるとは」と、納得がいかないので、大納言を非難し合った。
大納言は「かぐや姫を迎え住まわせるには、ふつうの家では見苦しい」とおっしゃって、美しい家をお造りになり、漆を塗り、蒔絵をして、彩りを施しなさって、屋根の上には糸を染めて色とりどりに葺かせて、室内の飾りつけには、言いようもないほどみごとな綾織物に絵を描いて、柱の間ごとに張った。もとからいた妻たちはみな追い出して、かぐや姫と必ず結婚しようと準備をして、一人で日々を明かし暮らしていらっしゃる。
意訳
四人目の大伴御行は、前の三人と違って、自分では何も動かず、家来に命令して龍の首の玉を取らせようとする。「主君のためなら命を捨てよ」と言い放ち、玉を取れなければ帰ってくるなとまで言う大納言に、家来たちは表向き従いながら、陰ではそしり合い、渡された財物を分け取って散ってしまう。一方の大納言は、まだ玉も手に入らないうちから、かぐや姫を迎える豪華な家を建て、長年の妻たちを追い出してしまう。権力を笠に着た横暴さと、獲物を手にする前から有頂天になる浅はかさが、次章の大失敗の伏線になっている。
語釈・文法注
- いもひ
- 「斎(いもひ)」。飲食や行いを慎んで身を清めること。精進潔斎。
- まごと
- 「間ごと」。柱と柱のあいだごと。部屋の壁面ごと。
文法
- 「龍の首に「五色の」
- 底本では「首に」のあとに「「」があり、そのまま翻刻した。
- 「えとらじを」
- 「え〜じ」は不可能の推量。取ることはできないだろうに。
- 「况や〜いかゞとらむ」
- 「いはんや〜(をや)」は、まして〜はなおさらだ、の意の構文。
- 「歸りくな」
- 「な」は禁止の終助詞。帰ってくるな。
解説
大伴御行は実在の大納言で、大伴氏は古くから武門の名家として知られる。物語では、その武人の家柄らしく、自らの弓の力を誇る人物として描かれ、次章ではそれが災いを招くことになる。
龍の首の玉は、中国の『荘子』に見える「驪龍(りりょう)の頷下(がんか)の珠」(黒い龍のあごの下にある千金の珠)をふまえたものといわれる。命がけでなければ得られない宝のたとえである。
家来たちが主人の命令をそしりながら財物を持ち逃げする場面は、権力者の命令が実際には行われないさまを皮肉に描いており、物語の作者の社会を見る目のするどさを感じさせる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(竹取物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、12–13頁(コマ10)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日