古典ライブラリー

更級日記 第18章

宮の友と和泉への旅

暮らしに不足もなく、作者は子の成長と夫の昇進を願いながら物詣でを楽しむ。越前に下った旧友との雪の贈答、西山の奥の桜、太秦での入相の鐘、宮仕えの友との磯の歌のやりとり、筑前に下った友を夢に見た月の歌。秋には和泉に下り、高浜の遊女、住吉の浦の夕べを見て、帰りの大江の浦で嵐に遭う。

  1. 1何事なにごと何事なにごとなにごとももも心こころ心こころこころにににかなはかなはかなわぬぬぬ事こと事ことこともももなきなきなきまゝまゝままににに、、、かやうかやうかようににに立た立たたちちち離はな離はなはなれれれたるたるたる物もの物ものものまうでまうでもうでをををしししてててももも道みち道みちみちのののほどほどほどををををかしをかしおかしとととももも苦くる苦くるくるしししとととももも見み見みみるるるににに、、、おのづからおのづからおのずから心こころ心こころこころももも慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめ、、、さりともさりともさりともたのもしうたのもしうたのもしゅうさしさしさしあたりあたりあたりてててなげかしなげかしなげかしなどなどなど覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆる事こと事ことことどもどもどもないないないまゝまゝままににに、、、唯ただ唯ただただをさなきをさなきおさなき人々ひとびと人々ひとびとひとびとをををいつしかいつしかいつしか思おも思おもおもふふうさまさまさまにににしししたてゝたてゝたてて見み見みみむむんととと思おも思おもおもふふうににに、、、年月としつき年月としつきとしつきののの過す過すすぎぎぎ行ゆ行ゆゆくくくををを心こころ心こころこころもとなくもとなくもとなく、、、たのむたのむたのむ人ひと人ひとひとだにだにだにひとひとひとのののやうやうようなるなるなるよろこびよろこびよろこびしししてててはははとととのみのみのみ思おも思おもおもひひい渡わた渡わたわたるるる心こころ心こころこころちちちたのもしたのもしたのもしかしかしかし。。。
  2. 2いにしへいにしへいにしえいみじういみじういみじゅうかたらひかたらひかたらい夜晝よるひる夜晝よるひるよるひる歌うた歌うたうたなどなどなどよみよみよみかはしかはしかわしさむらふさむらふさむらう人ひと人ひとひとののの、、、ありありありありありありてててもももいといといと昔むかし昔むかしむかしのののやうやうようにににこそこそこそあらあらあらねねね、、、絕た絕たたえええずずずいひいひいいわたるわたるわたる。。。越前ゑちぜん越前ゑちぜんえちぜんののの守かみ守かみかみのののよめよめよめにににてててくだりくだりくだりしししががが、、、かきかきかき絕た絕たたえええ音おと音おとおともももせせせぬぬぬににに、、、辛から辛からからうじてうじてうじてたよりたよりたより尋たづ尋たづたずねねねててて、、、これこれこれよりよりより、、、
  3. 3「「「たえたえたえざりざりざりししし思おも思おもおもひひいももも今いま今いまいまははは絕た絕たたえええにににけりけりけりこしこしこしのののわたりわたりわたりののの雪ゆき雪ゆきゆきのののふかさふかさふかさににに」」」。。。
  4. 4ととといひいひいいたるたるたるかへりごとかへりごとかえりごとににに、、、
  5. 5「「「ののの雪ゆき雪ゆきゆきのののしたしたしたなるなるなるさゞれさゞれさざれいしいしいしののの中なか中なかなかのののおもひおもひおもいははは消き消ききえええむむんものものものかはかはかは」」」。。。
  6. 6やよひやよひやよいのののついたちついたちついたちごろごろごろににに西山にしやま西山にしやまにしやまののの奥おく奥おくおくなるなるなる所ところ所ところところにににいきいきいきたるたるたる、、、人ひと人ひとひと目め目めめももも見み見みみえええずずずのどのどのどのどのどのどとととかすみかすみかすみわたりわたりわたりたるたるたるににに、、、あはれあはれあわれににに心こころ心こころこころぼそくぼそくぼそく花はな花はなはなばかりばかりばかり咲さ咲ささきききみだれみだれみだれたりたりたり。。。
  7. 7「「「里さと里さとさととほみとほみとおみあまりあまりあまりおくおくおくなるなるなるやまやまやま路ぢ路ぢじにににははは花はな花はなはな見み見みみにににとてもとてもとても人ひと人ひとひとこここざりざりざりけりけりけり」」」。。。
  8. 8世よ世よよののの中なか中なかなかむつかしうむつかしうむつかしゅう覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるころころころ、、、うづまさうづまさうずまさにににこもりこもりこもりたるたるたるににに、、、宮みや宮みやみやにににかたらひかたらひかたらい聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる人ひと人ひとひとののの御許おほんもと御許おほんもとおおんもとよりよりより文ふみ文ふみふみあるあるある、、、返かへ返かへかえりりり事ごと事ごとごと聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるほどほどほどににに鐘かね鐘かねかねのののおとおとおとののの聞きこ聞きこきこゆれゆれゆればばば、、、
  9. 9「「「しげかりしげかりしげかりしししうきうきうき世よ世よよのののことことことももも忘わす忘わすわすららられれれずずず入相いりあひ入相いりあひいりあいののの鐘かね鐘かねかねのののこゝろぼそさこゝろぼそさこころぼそさににに」」」
  10. 10ととと書か書かかきききてててやりやりやりつつつ。。。うらうらうらうらうらうらとととのどかのどかのどかなるなるなる宮みや宮みやみやにににててて、、、同おな同おなおなじじじこゝろこゝろこころなるなるなる人ひと人ひとひと三人みたり三人みたりみたりばかりばかりばかり、、、物語ものがたり物語ものがたりものがたりなどなどなどしししてててまかでゝまかでゝまかでて又また又またまたののの日ひ日ひひつれづれつれづれつれづれなるなるなるまゝまゝままににに、、、こひしうこひしうこいしゅう思おも思おもおもひひい出い出いいでででらるれらるれらるればばば、、、二人ふたり二人ふたりふたりががが中なか中なかなかににに、、、
  11. 11「「「袖そで袖そでそでぬるゝぬるゝぬるるあらあらあらいそいそいそ浪なみ浪なみなみととと知し知ししりりりながらながらながらともともともにににかづきかづきかずきをををせせせしししぞぞぞこひしきこひしきこいしき」」」
  12. 12ととと聞きこ聞きこきこえええたれたれたればばば、、、
  13. 13「「「あらあらあら磯いそ磯いそいそはははあされあされあされどどど何なに何なになにのののかひかひかいなくなくなくてててうしほうしほうしおにににぬるゝぬるゝぬるるあまあまあまのののそでそでそでかなかなかな」」」。。。
  14. 14いまいまいま一人ひとり一人ひとりひとり、、、
  15. 15「「「みるめみるめみるめ生お生おおふるふるうる浦うら浦うらうらにににあらあらあらずずずばばば荒磯ありそ荒磯ありそありそのののなみまなみまなみまかぞふるかぞふるかぞうるあまあまあまもももあらあらあらじじじををを」」」。。。
  16. 16同おな同おなおなじじじ心こころ心こころこころにににかやうかやうかようにににいひいひいいかはしかはしかわし、、、世よ世よよののの中なか中なかなかののの憂う憂ううきききもももつらきつらきつらきもももをかしきをかしきおかしきもももかたみかたみかたみににに言い言いいひひいかたらふかたらふかたらう人ひと人ひとひと、、、筑前ちくぜん筑前ちくぜんちくぜんにににくだりくだりくだりててて後のち後のちのち、、、月つき月つきつきのののいみじういみじういみじゅう明あか明あかあかきききににに、、、かやうかやうかようなりなりなりししし夜よ夜よよ、、、宮みや宮みやみやにににまゐりまゐりまいりてててあひあひあいてててははは露つゆ露つゆつゆまどろままどろままどろまずずずながめながめながめあかしゝあかしゝあかししものものものををを、、、戀こひ戀こひこいしくしくしく思おも思おもおもひひいつゝつゝつつ寢ね寢ねね入い入いいりりりにににけりけりけり。。。
  17. 17宮みや宮みやみやにににまゐりまゐりまいりあひあひあいててて現うつつ現うつつうつつにににありありありしししやうやうようにににてててありありありととと見み見みみててて、、、うちうちうち驚おどろ驚おどろおどろきききたれたれたればばば夢ゆめ夢ゆめゆめなりなりなりけりけりけり。。。月つき月つきつきももも山やま山やまやまののの端は端はは近ちか近ちかちこうううなりなりなりにににけりけりけり。。。「「「さめさめさめざらざらざらましましましををを」」」ととといとゞいとゞいとどながめながめながめられられられててて、、、
  18. 18「「「夢ゆめ夢ゆめゆめさめさめさめてててねざめねざめねざめのののとことことこのののうくうくうくばかりばかりばかり戀こひ戀こひこいひひいきききとととつげよつげよつげよ西にし西にしにしへへへゆくゆくゆく月つき月つきつき。。。
  19. 19さるさるさるべきべきべきようようようありありありててて秋あき秋あきあきごろごろごろにににくだるくだるくだるににに、、、淀よど淀よどよどととといふいふいうよりよりよりしししててて道みち道みちみちのののほどほどほどのののをかしうをかしうおかしゅうあはれあはれあわれなるなるなることことこと言い言いいひひい盡つ盡つつくすくすくすべうべうびょうもももあらあらあらずずず。。。高濱たかはま高濱たかはまたかはまととといふいふいう所ところ所ところところにににとゞまりとゞまりとどまりたるたるたる夜よ夜よよ、、、いといといとくらきくらきくらきににに夜よ夜よよいたういたういとう更ふ更ふふけけけててて舟ふね舟ふねふねののの楫かぢ楫かぢかじののの音おと音おとおと聞きこ聞きこきこゆゆゆとふとふとうなれなれなればばば、、、あそびあそびあそびのののきたるきたるきたるなりなりなりけりけりけり。。。
  20. 20人々ひとびと人々ひとびとひとびと興きよう興きようきょうじじじててて舟ふね舟ふねふねにににさしさしさしつけつけつけさせさせさせたりたりたり。。。遠とほ遠とほとおききき火ひ火ひひののの光ひかり光ひかりひかりににに單衣ひとへぎぬ單衣ひとへぎぬひとえぎぬののの袖そで袖そでそでながやかながやかながやかににに扇あふぎ扇あふぎおうぎさしさしさしかくしかくしかくしててて歌うた歌うたうたうたひうたひうたいたるたるたるいといといとあはれあはれあわれににに見み見みみゆゆゆ。。。
  21. 21又また又またまたののの日ひ日ひひ山やま山やまやまののの端は端ははににに日ひ日ひひのののかゝるかゝるかかるほどほどほど住吉すみよし住吉すみよしすみよしののの浦うら浦うらうらをををずぐずぐずぐ。。。空そら空そらそらもももひとつひとつひとつににに霧き霧ききりりり渡わた渡わたわたれれれるるる、、、松まつ松まつまつののの梢こずゑ梢こずゑこずえももも海うみ海うみうみのののおもておもておもてももも浪なみ浪なみなみのののよせよせよせくるくるくる渚なぎさ渚なぎさなぎさのののほどほどほどももも、、、繪ゑ繪ゑえににに書か書かかきききてててもももおよぶおよぶおよぶべきべきべきかたかたかたなうなうのうおもしろしおもしろしおもしろし。。。
  22. 22「「「いかにいかにいかにいひいひいい何なに何なになににににたとへたとへたとえてててかたらかたらかたらましましまし秋あき秋あきあきのののゆふべゆふべゆうべのののすみよしすみよしすみよしののの浦うら浦うらうら」」」
  23. 23ととと見み見みみつゝつゝつつ綱手つなで綱手つなでつなでひきひきひき過す過すすぐるぐるぐるほどほどほど、、、顧かへり顧かへりかえりみみみのみのみのみせせせられられられててて飽あ飽ああかかかずずずおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
  24. 24冬ふゆ冬ふゆふゆににになりなりなりててて上のぼ上のぼのぼるるるににに大江おほえ大江おほえおおえととといふいふいう浦うら浦うらうらににに舟ふね舟ふねふねににに乘の乘ののりりりたるたるたるににに、、、そのそのその夜よ夜よよ雨あめ雨あめあめ風かぜ風かぜかぜ岩いは岩いはいわももも動うご動うごうごくくくばかりばかりばかりふりふりふりふゞきふゞきふぶきててて神かみ神かみかみさへさへさへなりなりなりててて轟とどろ轟とどろとどろくくくににに、、、浪なみ浪なみなみののの立た立たたちちちくるくるくる音おと音おとおとなひなひない、、、風かぜ風かぜかぜののの吹ふ吹ふふききき惑まど惑まどまどひひいたるたるたるさまさまさま、、、おそろしげおそろしげおそろしげなるなるなることことこと命いのち命いのちいのちかぎりかぎりかぎりととと思おも思おもおもひひい惑まど惑まどまどははわるるる。。。
  25. 25岡をか岡をかをかのののうへうへうえににに舟ふね舟ふねふねをををひきひきひきあげあげあげててて夜よ夜よよをををあかすあかすあかす。。。雨あめ雨あめあめはははやみやみやみたれたれたれどどど風かぜ風かぜかぜ猶なほ猶なほなお吹ふ吹ふふきききててて舟ふね舟ふねふねいだざいだざいだざずずず。。。ゆくへゆくへゆくえもももなきなきなき岡をか岡をかをかのののうへうへうえににに五六日いつかむいか五六日いつかむいかいつかむいかををを過す過すすぐすぐすぐす。。。
  26. 26辛から辛からからうじてうじてうじて風かぜ風かぜかぜいさゝかいさゝかいささかやみやみやみたるたるたる程ほど程ほどほど、、、舟ふね舟ふねふねのののすだれすだれすだれまきまきまきあげあげあげててて見み見みみ渡わた渡わたわたせせせばばば、、、夕潮ゆふしほ夕潮ゆふしほゆうしおたゞたゞただみちみちみちににに滿み滿みみちちちくるくるくるさまさまさまとりとりとりもももあへあへあえずずず。。。入江いりえ入江いりえいりえのののたづたづたずののの聲こゑ聲こゑこえをををしましましまぬぬぬもももをかしくをかしくおかしく見み見みみゆゆゆ。。。
  27. 27國くに國くにくにののの人々ひとびと人々ひとびとひとびとあつまりあつまりあつまりきききててて「「「そのそのその夜よ夜よよこのこのこの浦うら浦うらうらををを出い出いいでででさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて石津いしづ石津いしづいしづにににつかつかつかせせせ給たま給たまたまへへえらららましかましかましかばばば、、、やがてやがてやがてこのこのこの御舟みふね御舟みふねみふねなごりなごりなごりなくなくなくなりなりなりなななましましまし」」」などなどなどいふいふいう。。。心こころ心こころこころぼそうぼそうぼそう聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  28. 28「「「荒あ荒ああるゝるゝるる海うみ海うみうみににに風かぜ風かぜかぜよりよりよりさきさきさきににに舟出ふなで舟出ふなでふなでしししててていしづいしづいしづののの浪なみ浪なみなみととときえきえきえなななましかましかましかばばば」」」。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

何事も心にかなわないということもないままに、このように遠く離れた所への物詣でをしても、道中を趣深いとも苦しいとも見るうちに、自然と心も慰められ、それでも頼もしく、さしあたって嘆かわしいと思われることもないままに、ただ幼い子どもたちを、早く思いどおりに育て上げて見たいと思うにつけても、年月の過ぎてゆくのがもどかしく、頼みとする人(夫)だけでも人並みの任官の喜びをしてくれたらとばかり思い続ける気持ちは、頼もしいことだ。

昔、たいそう親しく語り合い、夜も昼も歌などを詠み交わした人が、時が過ぎて、昔のようではないけれど、絶えず便りをくれていた。(その人が)越前守の嫁として下ったが、すっかり便りもなくなったので、やっとのことでつてを探して、こちらから、

「絶えることのなかった(あなたの)思いも、今は絶えてしまったのですね。越路のあたりの雪の深さのために」。

と詠んだ返事に、

「白山の雪の下にあるさざれ石の中の火のように、わたしの心の中の思いは消えたりするものでしょうか」。

三月の初めごろ、西山の奥にある所に行ったところ、人の姿も見えず、のどかに一面かすんでいて、しみじみと心細く、花だけが咲き乱れていた。

「里が遠いので、あまりに奥にある山路には、花見にといっても人は来ないのだなあ」。

世の中がわずらわしく思われるころ、太秦に籠っていると、宮家で親しくしていただいている人のもとから手紙が来た。返事を書き申し上げているときに鐘の音が聞こえたので、

「わずらわしかったつらい世の中のことも忘れられません。入相の鐘の心細さに」

と書いて送った。うららかにのどかな宮家で、同じ心の友三人ほどで語り合ったりして退出して、次の日、所在ないままに恋しく思い出されたので、二人の友に、

「袖がぬれる荒磯の波(宮仕え)と知りながら、ともに潜いた(ともに仕えた)ことが恋しいことです」

と申し上げたところ、

「荒磯は探してみても何のかいもなくて、潮にぬれる海人の袖ですね(宮仕えは甲斐もなく、涙に袖をぬらすばかりです)」。

もう一人は、

「海松布の生える浦(あなたに会えるところ)でなかったら、荒磯の波間を数える海人もいないでしょうに(あなたに会えるからこそ宮仕えもするのです)」。

同じ心でこのように歌を詠み交わし、世の中のつらいことも悲しいことも楽しいことも、互いに語り合った人が、筑前に下ったあと、月がたいそう明るいので、こういう夜には宮家に参って会っては、少しも眠らずに眺め明かしたものなのにと、恋しく思いながら寝入ってしまった。

宮家に参って会い、現実にあったときのようにしていると夢に見て、はっと目覚めると夢だった。月も山の端近くに傾いていた。「覚めないでいればよかったのに」と、いっそう物思いにふけって、

「夢が覚めて、寝覚めの床が浮くほど(涙を流して)恋しく思ったと告げておくれ、西へゆく月よ。

しかるべき事情があって、秋ごろ和泉の国に下ったが、淀という所から(舟で下る)道中の、趣深くしみじみとしたことは、言い尽くせそうもない。高浜という所に泊まった夜、たいそう暗い中、夜がすっかり更けてから、舟の櫓の音が聞こえるというので(たずねると)、遊女がやって来たのだった。

人々はおもしろがって、(遊女の舟を)こちらの舟に寄せさせた。遠くの火の光に、単衣の袖を長々と見せて、扇で顔を隠して歌をうたっているのは、たいそうしみじみと見える。

次の日、山の端に日がかかるころ、住吉の浦を通る。空も一つに霧がかかり、松の梢も、海の面も、波の寄せてくる渚のあたりも、絵に描いても及ばないほど趣深い。

「どのように言い、何にたとえて語ればよいだろう。この秋の夕べの住吉の浦を」

と眺めながら、綱手を引いて通り過ぎるあいだ、ふり返ってばかりいて、見飽きない思いがする。

冬になって上京するとき、大江という浦で舟に乗ったところ、その夜、雨や風が岩も動くほど降り荒れて、雷までも鳴りとどろくので、波の打ち寄せる音や、風の吹き荒れるようすが恐ろしいことは、命もこれまでかと思いまどわずにはいられない。

岡の上に舟を引き上げて夜を明かす。雨はやんだけれど、風はなお吹いていて舟を出さない。行く先もない岡の上で五、六日を過ごす。

やっとのことで風が少しおさまったころ、舟の簾を巻き上げて見わたすと、夕潮がどんどん満ちてくるようすは、取るものも取りあえないほどである。入江の鶴が声を惜しまず鳴くのも趣深く見える。

国の人々が集まって来て、「あの夜この浦をお出になって、石津にお着きになっていたら、そのままこのお舟は跡かたもなくなっていたでしょう」などと言う。心細く聞こえる。

「荒れる海に、風より先に舟出をして、石津の波と消えていたなら(どうなっていただろう)」。

意訳

晩年の作者は、暮らしに大きな不足もなく、子の成長と夫の昇進を願いながら物詣でを楽しんでいた。「たのむ人だにひとのやうなるよろこびしては」は、受領の妻として、夫が国司に任じられることを願う心である。

越前に下った旧友と雪にちなむ歌を交わし、西山の奥で人知れず咲く桜を詠み、太秦で入相の鐘に心細さを詠む。宮仕えはやめても、宮家の友との交わりは続いていた。

宮家の友三人の歌のやりとりは、宮仕えを荒磯の海女の仕事にたとえ、つらくてもともに過ごした日々を恋しむ。作者にとって宮仕えの最大の喜びは、心の通う友を得たことだった。

筑前に下った友を夢に見て目覚め、西へ傾く月に、恋しさを伝えてほしいと詠む。友のいる西の空へ向かう月に、思いを託す歌である。

和泉への旅では、高浜の遊女、住吉の浦の秋の夕べと、少女時代の上京の旅を思わせる情景が続く。住吉の浦の美しさは、言葉にも絵にも尽くせないという。帰りの大江の浦では嵐に遭い、もし舟を出していたら波に消えていたと聞いて、命拾いを実感する。

語釈・文法注

白山
加賀・越前の国境にある山。雪の深い山として歌に詠まれた。
和泉
和泉の国(今の大阪府南部)。作者の兄定義が和泉守だったので、それを訪ねたとされる。

文法

「たのむ人」
頼みとする人。夫の橘俊通。
「さむらふ人」
底本のまま。「さぶらふ人」に同じ。
「こしのわたり」
越路のあたり。越前を含む北陸地方。
「入相の鐘」
日暮れに寺でつく鐘。
「かづきをせし」
海女が水に潜ること。宮仕えのたとえ。
「夢さめて…西へゆく月。」
底本はこの歌の終わりに「」」を刷らない。
「聞ゆとふなれば」
「とふ」は「といふ」の約。聞こえるというので。
「住吉の浦をずぐ」
底本は「ずぐ」と刷る。「すぐ(過ぐ)」の誤植とみられる。
「舟いだざず」
底本は「いだざず」と刷る。「いださず(出さず)」の誤植とみられる。
「とりもあへず」
取るものも取りあえないほど、すばやく。

和歌

たえざりし思ひも今は絕えにけりこしのわたりの雪のふかさに

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
越前守の嫁として下った旧友から便りが絶えたので、つてを探して送った歌。

修辞

掛詞
「こし」に「越(越前)」と「越し」を掛ける。
対句的表現
「たえざりし」と「絕えにけり」を対照させる。

白山の雪のしたなるさゞれいしの中のおもひは消えむものかは

詠者
越前に下った旧友
状況
作者の歌への返歌。

修辞

掛詞
「おもひ」に「思ひ」と「火」を掛ける。さざれ石の中の火は、石を打てば出る火。
反語
「消えむものかは」で、消えはしないと詠む。

里とほみあまりおくなるやま路には花見にとても人こざりけり

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
三月の初め、西山の奥の人気のない所で、花だけが咲き乱れているのを見て詠んだ歌。

修辞

ミ語法
「とほみ」で、遠いのでの意を表す。

しげかりしうき世のことも忘られず入相の鐘のこゝろぼそさに

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
太秦に籠っていたとき、宮家の友からの手紙に返事を書いていて、入相の鐘を聞いて詠んだ歌。

修辞

倒置
理由の「入相の鐘のこゝろぼそさに」を末尾に置く。

袖ぬるゝあらいそ浪と知りながらともにかづきをせしぞこひしき

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
宮家で友と語り合って退出した翌日、二人の友に送った歌。

修辞

見立て
宮仕えを、荒磯で潜く海女の仕事に見立てる。
縁語
「袖ぬるゝ」「あらいそ」「浪」「かづき」。

あら磯はあされど何のかひなくてうしほにぬるゝあまのそでかな

詠者
宮家の友
状況
作者の歌への返歌。

修辞

掛詞
「かひ」に「貝」と「甲斐」を掛ける。
縁語
「あら磯」「あされ」「かひ」「うしほ」「あま」。

みるめ生ふる浦にあらずば荒磯のなみまかぞふるあまもあらじを

詠者
もう一人の宮家の友
状況
作者の歌への返歌。

修辞

掛詞
「みるめ」に海藻の「海松布」と「見る目(会うこと)」を掛ける。
反実仮想
会える所でなかったら、宮仕えなどしないと詠む。

夢さめてねざめのとこのうくばかり戀ひきとつげよ西へゆく月

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
筑前に下った友を夢に見て目覚め、西へ傾く月を見て詠んだ歌。

修辞

掛詞
「うく」に、涙で床が「浮く」と「憂く」を掛ける。
擬人
西へゆく月に、筑前の友への伝言を頼む。

いかにいひ何にたとへてかたらまし秋のゆふべのすみよしの浦

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
和泉へ下る途中、霧のたちこめる秋の夕べの住吉の浦を見て詠んだ歌。

修辞

名詞止め
「すみよしの浦」で結ぶ。
反語的な疑問
言葉にもたとえにも尽くせない美しさを表す。

荒るゝ海に風よりさきに舟出していしづの浪ときえなましかば

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
和泉からの帰り、大江の浦で嵐に遭い、出航していたら石津で遭難していたと国の人に聞いて詠んだ歌。

修辞

反実仮想
「ましかば」で、もし舟出していたらと詠み、下の句を言いさして余情を残す。
掛詞
「いしづ」に地名の「石津」を詠みこむ。

解説

この章は、天喜年間(1053〜1058)ごろ、作者四十代後半の記事とされる。宮仕えから離れても、作者は宮家の友と歌を詠み交わし、物詣でを楽しむ穏やかな日々を送っていた。

和泉への旅は、兄の菅原定義が和泉守として赴任していたのを訪ねたものと考えられる。淀川を舟で下り、住吉の浦を経て和泉に至る旅で、帰りの大江の浦(淀川の河口付近)で嵐に遭った。

国文大観の本文では、この章は第17章に続いて、通行本文と同じ順である。底本には誤植と思われる字(ずぐ・いだざず)があり、底本のまま翻刻して文法注に断った。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(更級日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、492–495頁(コマ258–259)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日