更級日記 第14章
宮の同僚と春秋の問答
宮家の同僚と冬の夜に語り明かした思い出の歌、池の水鳥に寄せた独り言の歌、薄に託した戯れの歌。十月の暗い時雨の夜、読経を聞きに出た戸口で、作者はある殿上人と出会う。春の霞の月、秋の澄んだ月、冬の雪の夜と、季節の美しさを語る男に、作者は春の朧月を選んで答える。
- 1わかれわかれわかれわかれわかれわかれしししつゝつゝつつまかでまかでまかでしししををを思思おもひひい出出いでででけれけれければばば、、、「「「月月つきもももなくなくなく花花はなもももみみみざりざりざりしししふゆふゆふゆののの夜夜よのののこゝろこゝろこころにににしみしみしみてててこひしきこひしきこいしきやややなぞなぞなぞ」」」。。。
- 2我我わもももさささ思思おもふふうことことことなるなるなるををを、、、同同おなじじじ心心こころなるなるなるもももをかしうをかしうおかしゅうててて、、、
- 3「「「さえさえさえししし夜夜よのののこほりこほりこおりははは袖袖そでにににまだまだまだとけとけとけででで冬冬ふゆののの夜夜よながらながらながら音音ねをををこそこそこそはははなけなけなけ」」」。。。
- 4御前御前おまえにににふしふしふしてててきけきけきけばばば、、、池池いけののの鳥鳥とりどもどもどものののよもすがらよもすがらよもすがら聲々聲々こえごえはふきはふきはふきさわぐさわぐさわぐ音音おとのののするするするににに目目めもももさめさめさめててて、、、「「「わがわがわがことことことををを水水みずのののうきねうきねうきねにににあかしあかしあかしつゝつゝつつうはうはうわ毛毛げののの霜霜しもをををはらひはらひはらいわぶわぶわぶなるなるなる」」」
- 5とととひとりごちひとりごちひとりごちたるたるたるををを、、、傍傍かたわらににに臥臥ふししし給給たまへへえるるる人人ひと聞聞ききききつけつけつけててて、、、
- 6「「「ましてましてまして思思おもへへえ水水みずのののかりねかりねかりねのののほどほどほどだにだにだにもももうはげうはげうわげののの霜霜しもをををはらひはらひはらいわびわびわびけるけるける」」」。。。
- 7かたらふかたらふかたらう人人ひとどちどちどち局局つぼねのののへだてへだてへだてなるなるなる遣戶遣戶やりどをををあけあけあけ合合あわせせせててて、、、物語物語ものがたりなどなどなどしししくらすくらすくらす日日ひ、、、又又またかたらふかたらふかたらう人人ひとのののうへうへうえににに物物ものししし給給たまふふうをををたびたびたびたびたびたびよびよびよびおろすおろすおろすににに、、、「「「せちせちせちににに事事ことあらあらあらばばばいかいかいかむむん」」」とととあるあるあるににに、、、枯枯かれれれたるたるたる薄薄すすきのののあるあるあるにににつけつけつけててて、、、
- 8「「「冬冬ふゆがれがれがれのののしのゝしのゝしののをずゝきをずゝきおずすき袖袖そでたゆみたゆみたゆみまねきまねきまねきもももよせよせよせじじじかぜかぜかぜにににまかせまかせまかせむむん」」」。。。
- 9上達部上達部かんだちめ殿上人殿上人てんじょうびとなどなどなどににに對面對面たいめんするするする人人ひとははは定定さだまりまりまりたるたるたるやうやうようなれなれなればばばうひうひしきうひうひしきういういしき里人里人さとびとはははありありありなしなしなしをををだにだにだに知知しらららるるるべきべきべきにににもももあらあらあらぬぬぬににに、、、十月十月かんなづき朔日朔日ついたちごろごろごろのののいといといと暗暗くらききき夜夜よ、、、ふだんふだんふだん經經きょうににに聲聲こえよきよきよき人々人々ひとびと讀讀よむむむほどほどほどなりなりなりとてとてとて、、、そなたそなたそなた近近ちかききき戶口戶口とぐちににに二人二人ふたりばかりばかりばかり立立たちちち出出いでゝでゝでて、、、聞聞ききききつゝつゝつつ物語物語ものがたりしししてててよりよりよりふしふしふしてててあるあるあるににに、、、
- 10まゐりまゐりまいりたるたるたる人人ひとのののあるあるあるををを、、、にげにげにげ入入いりりりててて局局つぼねなるなるなる人々人々ひとびと、、、呼呼よびびびあげあげあげなどなどなどせせせむむんももも見見みぐるしぐるしぐるし、、、さばれさばれさばれ唯唯ただをりをりおりからからからこそこそこそかくかくかくてててだにだにだにととといふいふいう。。。いまいまいま一人一人ひとりのののあれあれあればばば、、、傍傍かたわらにににててて聞聞きききき居居いたるたるたるににに、、、おとなしくおとなしくおとなしくしづやかしづやかしずやかなるなるなるけはひけはひけわいにににてててものものものなどなどなどいふいふいう。。。
- 11「「「口口くちをしからをしからおしからざらざらざらなりなりなり、、、今今いま一人一人ひとりははは」」」などなどなど問問とひひいててて世世よののの常常つねのののうちつけうちつけうちつけのののけさうびけさうびけそうびてててなどなどなどもももいひいひいいなさなさなさずずず。。。世世よののの中中なかののの哀哀あわれなるなるなる事事ことどもどもどもなどなどなどまめやかまめやかまめやかにににいひいひいい出出いでゝでゝでて、、、さすがさすがさすがにににきびしうきびしうきびしゅう引引ひききき入入いりりりかたかたかたはははふしぶしふしぶしふしぶしありありありててて、、、我我わももも人人ひとももも答答こたへへえなどなどなどするするするををを「「「まだまだまだ知知しらららぬぬぬ人人ひとのののありありありけるけるける」」」などなどなどめづらしがりめづらしがりめずらしがりててて、、、とみとみとみにににたつたつたつべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬほどほどほど、、、
- 12星星ほしののの光光ひかりだにだにだに見見みえええずずず暗暗くらきききににに、、、うちうちうちしぐれしぐれしぐれつゝつゝつつ木木きののの葉葉はにににかゝるかゝるかかる音音おとのののをかしきをかしきおかしきををを、、、なかなかなかなかなかなかににに艶艶えんにににをかしきをかしきおかしき夜夜よかなかなかな。。。月月つきのののくまくまくまなくなくなくあかゝらあかゝらあかからむむんもももはしたなくはしたなくはしたなくまばゆかりまばゆかりまばゆかりぬぬぬべかりべかりべかりけりけりけり。。。
- 13春春はる秋秋あきののの事事ことなどなどなどいひいひいいててて時時ときにににしたがひしたがひしたがい見見みるるることことことにににははは春霞春霞はるがすみおもしろくおもしろくおもしろく空空そらももものどかのどかのどかにににかすみかすみかすみ、、、月月つきのののおもておもておもてもももいといといとあかうあかうあこうもももあらあらあらずずず、、、遠遠とおうううながるゝながるゝながるるやうやうようににに見見みたるたるたるににに、、、琵琶琵琶びわのののゆるやかゆるやかゆるやかににに彈彈ひきききならしならしならしたるたるたる、、、いといといといみじくいみじくいみじく聞聞きこゆるゆるゆるににに、、、
- 14またまたまた秋秋あきににになりなりなりててて月月つきいみじういみじういみじゅうあかきあかきあかきににに空空そらははは霧霧きりりり渡渡わたりりりたれたれたれどどど、、、手手てにににとるとるとるばかりばかりばかりさやかさやかさやかにににすみすみすみわたりわたりわたりたるたるたるににに、、、風風かぜののの音音おと蟲蟲むしのののこゑこゑこえとりとりとりあつめあつめあつめたるたるたる心地心地ここちするするするににに、、、箏箏そうののの琴琴ことかきかきかきならさならさならされれれたるたるたる平調平調ひょうじょうののの吹吹ふきききすまさすまさすまされれれたるたるたるははは何何なにののの春春はるとととおぼゆおぼゆおぼゆかしかしかし。。。
- 15又又またさるさるさるととと思思おもへへえばばば冬冬ふゆののの夜夜よののの空空そらさへさへさへさえさえさえわたりわたりわたり、、、いみじきいみじきいみじきににに雪雪ゆきののの降降ふりりり積積つもりりりひかりひかりひかりあひあひあいたるたるたるににに、、、篳篥篳篥ひちりきのののわなゝきわなゝきわななき出出いでででたるたるたるははは春春はる秋秋あきももも皆皆みな忘忘わすれれれぬぬぬかしかしかしととといひいひいいつゞけつゞけつづけててて「「「いづれいづれいずれにににかかか御心御心みこころとゞまるとゞまるとどまる」」」ととと問問とふふうににに、、、秋秋あきののの夜夜よににに心心こころをををよせよせよせててて答答こたへへえ給給たまふふうををを、、、さささのみのみのみ同同おなじじじさまさまさまにににはははいはいはいわじじじとてとてとて、、、
- 16「「「あさみどりあさみどりあさみどり花花はなもももひとつひとつひとつにににかすみかすみかすみつゝつゝつつおぼろおぼろおぼろににに見見みゆるゆるゆる春春はるののの夜夜よののの月月つき」」」
- 17ととと答答こたへへえたれたれたればばば、、、かへすがへすかへすがへすかえすがえすうちうちうちずんじずんじずんじててて「「「さささははは秋秋あきののの夜夜よはははおぼしおぼしおぼし捨捨すてててつるつるつるななななりなりなりななな。。。
- 18こよひこよひこよいよりよりより後後のちののの命命いのちのののもしもしもしもももあらあらあらばばばさささははは春春はるののの夜夜よをををかたみかたみかたみととと思思おもははわむむん」」」
- 19ととといふいふいうににに、、、秋秋あきにににこゝろこゝろこころよせよせよせたるたるたる人人ひと、、、「「「人人ひとはははみなみなみな春春はるにににこゝろこゝろこころをををよせよせよせつつつめりめりめりわれわれわれのみのみのみややや見見みむむんあきあきあきののの夜夜よののの月月つき」」」
現代語訳
(夜が明けると)別れ別れに退出したのを思い出したので、(同僚が)「月もなく花も見なかった冬の夜が、心にしみて恋しいのはなぜでしょう」。
わたしもそう思っていたことなので、同じ気持ちなのもうれしくて、
「冴えた夜の氷は袖の上でまだとけないで、冬の夜のまま、(わたしも)声をあげて泣いています」。
宮の御前に横になって聞いていると、池の水鳥たちが一晩じゅう声々に羽ばたきして騒ぐ音がするので目も覚めて、「わたしと同じように、水の上の浮き寝で夜を明かしては、上毛の霜を払いかねているようだ」
とひとりごとを言ったのを、そばに寝ていらっしゃった人が聞きつけて、
「まして(わたしのことも)思ってください。水鳥のかりそめの浮き寝の間でさえ、上毛の霜を払いかねているのですから(宮仕えのわたしたちはなおさらです)」。
親しく語り合う者どうしで、局の仕切りになっている遣戸をあけはなして、物語などをして暮らす日、また親しくしている人が(宮の)御前に上がっていらっしゃるのを、たびたび呼び下ろすと、「どうしても用事があるなら行きましょう」と言うので、枯れた薄があるのに添えて、
「冬枯れの篠の小薄は袖もくたびれて、もう手招きもしますまい。風に任せましょう」。
上達部や殿上人などに応対する女房は決まっているようなので、宮仕えに不慣れな里住みの者は、いるかいないかさえ知られるはずもないのに、十月の初めごろのたいそう暗い夜、不断経を声のよい僧たちが読む時刻だというので、そちらに近い戸口に二人ほどで出て、聞きながら話をして寄りかかっていると、
(殿上人が)参上したので、逃げこんで局にいる人々を呼んだりするのも見苦しい、ままよ、ただこういうおりなのだから、このままでいようと(同僚が)言う。もう一人がいるので、(わたしは)そばで聞いていると、落ち着いて物静かなようすで話などする。
「(ここにいるのは)なかなかの人のようだ、もう一人の方は」などとたずねて、世間によくある、出会ったばかりの色めいたことなども言わない。世の中のしみじみとしたことなどを、まじめに話し出して、それでもわたしたちも、きっぱりと引っこんでしまうわけにもいかないふしぶしがあって、わたしも同僚も返事などをすると、「まだ知らない人がいたのですね」などとめずらしがって、すぐに立ち去りそうもないうちに、
星の光さえ見えず暗い中に、さっと時雨が降っては木の葉にかかる音が趣深いのを、(男は)「かえって優艶で趣深い夜ですね。月が隅々まで明るかったら、きまりが悪くまぶしいことだったでしょう」(と言う)。
春と秋のことなどを語って、「季節ごとに見る中では、春霞が趣深く、空もうららかにかすんで、月の表面もそれほど明るくはなく、遠く流れるように見えているときに、琵琶の風香調をゆるやかに弾き鳴らしているのは、たいそうすばらしく聞こえます。
また秋になって、月がたいそう明るく、空には霧が一面にかかっているけれど、手に取るようにくっきりと澄みわたっているときに、風の音や虫の声が一つに集まったような心地がするところに、箏の琴をかき鳴らし、平調の笛が澄んだ音で吹かれているのは、春など何だろうと思われます。
また、そうかと思えば、冬の夜の空までも冴えわたって、ひどく寒いときに、雪が降り積もって(月の光と)照り映えているところに、篳篥の音が震えるように響いてくるのは、春も秋もみな忘れてしまいますね」と言い続けて、「どの季節にお心がひかれますか」とたずねるので、(同僚は)秋の夜に心を寄せてお答えになったが、(わたしは)そう同じように答えるまいと思って、
「浅緑の空に、花も一つにかすみながら、おぼろに見える春の夜の月(にひかれます)」
と答えると、(男は)くり返し口ずさんで、「それでは、秋の夜はお見捨てになったようですね。
今夜から先、もし命があったら、それでは春の夜を、今夜の形見と思うことにしましょう」
と言うので、秋に心を寄せた同僚は、「人はみな春に心を寄せてしまったようです。わたしだけが見ることになるのでしょうか、秋の夜の月を」
意訳
国文大観の本文は、ここで第6章の終わりの宮仕えの記事に戻る。宮家の同僚と冬の夜に語り明かし、明け方に別れ別れに退出した思い出を、同僚と歌に詠み交わす。月も花もない冬の夜が恋しいという歌に、宮仕えの中で心の通う友を得た喜びがにじむ。
宮の御前で寝ていて、池の水鳥の羽音を聞き、浮き寝して霜を払いかねる水鳥に自分を重ねる。紫式部の水鳥の歌を思わせる、宮仕えの不安定な身の上の嘆きである。
十月の暗い夜、作者は同僚と戸口で読経を聞いていて、ある殿上人と出会う。男は色めいたことを言わず、まじめに世の中のことを語る。作者が宮仕えの中で出会った、もっとも心に残る人である。
男は春秋冬の夜の美しさを、琵琶や箏や篳篥の音にたとえて語り、どの季節が好きかとたずねる。同僚が秋と答えたのに対し、作者はあえて春の朧月を選ぶ。男はその歌をくり返し口ずさみ、今夜を春の夜の形見にしようと応える。暗い時雨の夜の一度きりの語らいは、作者の生涯のひそかな思い出となった。
語釈・文法注
- ふがうてう
- 風香調。琵琶の調子の一つ。
文法
- 錯簡
- 底本は第13章の東山の記事のあと、宮仕えのころの記事「わかれわかれしつゝまかでしを思ひ出でければ」に続く。通行本文では、第6章の「冬になりて……殿の御かたにさぶらふ人々と物語し明しつゝ、明くれば立ち別れ立ち別れしつつ、まかでしを思ひ出でければ」と続く。
- 「聲々はふきさわぐ」
- 声々に羽ぶき(羽ばたき)騒ぐ。「はふき」は羽振き。
- 「うは毛」
- 上毛。鳥の羽の表面の毛。
- 「うへに物し給ふを」
- 宮の御前に上がっていらっしゃるのを。
- 「さばれ」
- 「さはあれ」の約。ままよ、どうにでもなれ。
- 「口をしからざらなり」
- つまらなくはない(なかなかの)人のようだ。「なり」は推定。
- 「引き入りかたは」
- 底本のまま。通行本文は「引き入りがたい(ふしぶし)」で、すっかり引っこんでしまうわけにもいかないの意。
- 「何の春と」
- 春など何であろう、春など問題にならない。
- 「おぼし捨てつるななりな」
- 「つるなるなりな」の撥音便「つるなんなりな」の撥音を表記しない形。お見捨てになったようですね。
和歌
月もなく花もみざりしふゆの夜のこゝろにしみてこひしきやなぞ
- 詠者
- 宮家の同僚
- 状況
- 冬の夜に宮家で語り明かし、明け方に別れ別れに退出したことを思い出して、同僚が送ってきた歌。
修辞
- 反語・疑問
- 「なぞ」で、月も花もない冬の夜がなぜ恋しいのかと問う形で、語らいのなつかしさを表す。
さえし夜のこほりは袖にまだとけで冬の夜ながら音をこそはなけ
- 詠者
- 作者(菅原孝標女)
- 状況
- 同僚の歌への返歌。
修辞
- 見立て
- 袖の涙が凍った氷を、冬の夜の冴えにたとえる。
- 係り結び
- 「こそ……なけ」。
わがことを水のうきねにあかしつゝうは毛の霜をはらひわぶなる
- 詠者
- 作者(菅原孝標女)
- 状況
- 宮の御前で寝ていて、池の水鳥が一晩じゅう羽ばたいて騒ぐ音を聞いて、ひとりごとに詠んだ歌。
修辞
- 掛詞
- 「うきね」に「浮き寝」と「憂き寝」を掛ける。
- 擬人
- 水鳥を自分と同じように眠れずにいるものと見る。
まして思へ水のかりねのほどだにもうはげの霜をはらひわびける
- 詠者
- そばに寝ていた同僚
- 状況
- 作者のひとりごとの歌を聞きつけて詠んだ歌。
修辞
- 掛詞
- 「かりね」に「仮寝」と「(水鳥の)雁寝」を響かせる。
冬がれのしのゝをずゝき袖たゆみまねきもよせじかぜにまかせむ
- 詠者
- 作者(菅原孝標女)
- 状況
- 御前に上がっている同僚をたびたび呼んだが、「よほどの用事なら」と言われたので、枯れた薄に添えて送った歌。
修辞
- 見立て
- 風になびく薄の穂を、人を招く袖に見立てる。
- 縁語
- 「袖」「まねき」。
あさみどり花もひとつにかすみつゝおぼろに見ゆる春の夜の月
- 詠者
- 作者(菅原孝標女)
- 状況
- 時雨の夜に出会った殿上人に、春と秋のどちらにひかれるかと問われ、同僚が秋と答えたのに対して、あえて春を選んで詠んだ歌。
修辞
- 名詞止め
- 「春の夜の月」で結ぶ。
- 色彩
- 浅緑の空と花の色が霞に溶けあう情景を描く。
こよひより後の命のもしもあらばさは春の夜をかたみと思はむ
- 詠者
- 殿上人(源資通とされる)
- 状況
- 作者の歌をくり返し口ずさんで詠んだ歌。
修辞
- 仮定
- 「もしもあらば」で、今夜の出会いを形見として春の夜を思おうと応える。
人はみな春にこゝろをよせつめりわれのみや見むあきの夜の月
- 詠者
- 秋を選んだ同僚
- 状況
- 作者と殿上人が春の夜を詠み交わしたのを受けて詠んだ歌。
修辞
- 対比
- 春を選んだ人々と、ひとり秋の月を見る自分とを対比する。
解説
国文大観の本文では、この章は錯簡のため、東山の記事のあとに宮仕えのころの記事が続く形になっている。通行本文では、この章は第6章の宮仕えの記事に続き、第7章の御仏名の記事の前に置かれる。
時雨の夜に出会った殿上人は、源資通(1005〜1060)とされる。和歌や管絃にすぐれた人で、当時は右大弁などをつとめていた。長久三年(1042)十月ごろのことで、作者は三十五歳、すでに橘俊通の妻だった。
春秋の優劣を論じることは、『万葉集』の額田王の歌以来の伝統的な題材である。資通は春・秋・冬の美しさを管絃の音にたとえて語り、作者は春の朧月を選ぶ。この一夜の語らいの続きは、第15章で語られる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(更級日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、483–486頁(コマ253–255)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日