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更級日記 第10章

源氏物語を手にする

上京するとすぐ物語を求め、継母が去り、乳母や侍従大納言の姫君の死に沈む。やがておばから『源氏物語』五十余巻と物語の一袋をもらい、几帳の内で昼も夜も読みふける。「后の位も何にかはせむ」。夢で僧に法華経を習えと告げられても気にとめず、夕顔や浮舟のようになる日を夢見る。

  1. 1ありもつかずありもつかずありもつかずいみじういみじういみじゅう物もの物ものもの騒さわ騒さわさわがしけれがしけれがしけれどもどもどもいつしかいつしかいつしかととと思おも思おもおもひひいししし事こと事ことことなれなれなればばば、、、三條さんでう三條さんでうさんじょうののの殿との殿とのとののののにににしぞくしぞくしぞくなるなるなる人ひと人ひとひとののの衞門ゑもん衞門ゑもんえもんののの命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶとてとてとて侍さぶら侍さぶらさぶらひひいけるけるける尋たづ尋たづたずねねねててて文ふみ文ふみふみやりやりやりたれたれたればばば珍めづら珍めづらめずらしがりしがりしがりてててよろこびよろこびよろこびててて御前おまへ御前おまへおまえのののをををおろしおろしおろしたるたるたるとてとてとて、、、わざとわざとわざとめでたきめでたきめでたき草紙さうし草紙さうしそうしどもどもども、、、硯すずり硯すずりすずりののの箱はこ箱はこはこののの蓋ふた蓋ふたふたににに入い入いいれれれててておこせおこせおこせたりたりたりししし嬉うれ嬉うれうれしくしくしくいみじくいみじくいみじくててて、、、
  2. 2夜晝よるひる夜晝よるひるよるひるこれこれこれををを見み見みみるるるよりよりよりうちうちうち始はじ始はじはじめめめ、、、またまたまたまたまたまたももも見み見みみまほしきまほしきまほしきににに、、、ありもつかぬありもつかぬありもつかぬ都みやこ都みやこみやこのののはとりはとりはとりににに誰たれ誰たれたれかかかははは物語ものがたり物語ものがたりものがたりもとめもとめもとめ見み見みみするするする人ひと人ひとひとのののあらあらあらむむん。。。
  3. 3繼母ままはは繼母ままははままははなりなりなりししし人ひと人ひとひとははは宮仕みやづかへ宮仕みやづかへみやづかえせせせしししががが下くだ下くだくだりりりしししなれなれなればばば、、、思おも思おもおもひひいしししにににあらあらあらぬぬぬ事こと事ことことどもどもどもなどなどなどありありありててて、、、世よ世よよののの中なか中なかなかうらめしげうらめしげうらめしげにににてててほかほかほかににに渡わた渡わたわたるるるとてとてとて、、、五いつ五いついつつつつばかりばかりばかりなるなるなるちごちごちごどもどもどもなどなどなどしししててて「「「哀あはれ哀あはれあわれなりなりなりつるつるつる心こころ心こころこころのののほどほどほどなむなむなん忘わす忘わすわすれれれむむん世よ世よよあるあるあるまじきまじきまじき」」」などなどなどいひいひいいててて梅うめ梅うめうめののの木き木ききのののつまつまつま近ちか近ちかちかくくくててていといといと大おほ大おほおおきなるきなるきなるををを、、、「「「これこれこれががが花はな花はなはなののの咲さ咲ささかかかむむんをりをりおりははは來こ來ここむむんよよよ」」」ととと言い言いいひひいおきおきおきててて渡わた渡わたわたりりりぬるぬるぬるををを、、、心こころ心こころこころのののうちうちうちににに戀こひ戀こひこいしくしくしくあはれあはれあわれなりなりなりととと思おも思おもおもひひいつゝつゝつつ、、、忍しの忍しのしのびねびねびねをををのみのみのみ泣な泣ななきききてててそのそのその年とし年としとしももも歸かへ歸かへかえりりりぬぬぬ。。。
  4. 4いつしかいつしかいつしか梅うめ梅うめうめ咲さ咲ささかかかなむなむなん、、、來こ來ここむむんとととありありありしししをををさささやややあるあるあるととと目め目めめをををかけかけかけててて待ま待ままちちちわたるわたるわたるににに、、、花はな花はなはなももも皆みな皆みなみな咲さ咲ささきききぬれぬれぬれどどど音おと音おとおともももせせせずずず。。。思おも思おもおもひひいわびわびわびててて、、、花はな花はなはなををを折を折をおりりりてててやるやるやる。。。
  5. 5「「「たのめたのめたのめしししをををなほなほなおややや待ま待ままつつつべきべきべき霜しも霜しもしもがれがれがれししし梅うめ梅うめうめをををももも春はる春はるはるはははわすれわすれわすれざりざりざりけりけりけり」」」
  6. 6ととといひいひいいやりやりやりたれたれたればばば、、、あはれあはれあわれなるなるなる事こと事ことことどもどもども書か書かかきききててて、、、
  7. 7「「「なほなほなおたのめたのめたのめ梅うめ梅うめうめののの立枝たちえ立枝たちえたちえはははちぎりちぎりちぎりおかおかおかぬぬぬおもひおもひおもいののの外ほか外ほかほかののの人ひと人ひとひともももとふとふとうなりなりなり」」」。。。
  8. 8そのそのその春はる春はるはる世よ世よよののの中なか中なかなかいみじういみじういみじゅうさわがしうさわがしうさわがしゅうててて、、、まつざとまつざとまつざとのののわたりわたりわたりののの月つき月つきつきかげかげかげあはれあはれあわれににに見み見みみししし乳母めのと乳母めのとめのとももも、、、三月やよひ三月やよひやよい朔日ついたち朔日ついたちついたちににになくなくなくなりなりなりぬぬぬ。。。せむかたなくせむかたなくせんかたなく思おも思おもおもひひいなげくなげくなげくににに物語ものがたり物語ものがたりものがたりのののゆかしさゆかしさゆかしさももも覺おぼ覺おぼおぼえええずずずなりなりなりぬぬぬ。。。いみじくいみじくいみじく泣な泣ななきききくらしくらしくらしててて見み見みみいだしいだしいだしたれたれたればばば、、、夕日ゆふひ夕日ゆふひゆうひのののいといといと花はな花はなはなやかやかやかにににさしさしさしたるたるたるににに、、、櫻さくら櫻さくらさくらののの花はな花はなはなのののこりこりこりなくなくなく散ち散ちちりりりみだるみだるみだる。。。
  9. 9「「「散ち散ちちるるる花はな花はなはなもももまたまたまたこここむむん春はる春はるはるはははみみみもももやややせせせむむんやがてやがてやがてわかれわかれわかれししし人ひと人ひとひとぞぞぞこひしきこひしきこいしき」」」。。。
  10. 10またまたまた聞き聞ききけけけばばば、、、侍從じじゆう侍從じじゆうじじゆうののの大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごんのののなくなくなくなりなりなり給たま給たまたまひひいぬぬぬなりなりなり。。。殿との殿とのとのののの中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうのののおぼしおぼしおぼしなげくなげくなげくなるなるなるさまさまさま、、、我わ我わわががが物もの物ものものののの悲かな悲かなかなしきしきしき折をり折をりおりなれなれなればばばいみじくいみじくいみじく哀あはれ哀あはれあわれなりなりなりととと聞き聞ききくくく。。。
  11. 11のぼりのぼりのぼりつきつきつきたりたりたりししし時とき時ときとき「「「これこれこれ手て手てて本ほん本ほんほんにににせよせよせよ」」」とてとてとてこのこのこの姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみののの御手おほんて御手おほんておおんてををを取と取ととらせらせらせたりたりたりしししををを、、、「「「小夜さよ小夜さよさよふけふけふけてててねざめねざめねざめざりざりざりせせせばばば」」」などなどなど書か書かかきききててて「「「鳥部山とりべやま鳥部山とりべやまとりべやま谷たに谷たにたににににけぶりけぶりけぶりののの燃も燃ももえええたゝたゝたたばばばはかなくはかなくはかなく見み見みみえええししし我わ我わわととと知し知ししらららなむなむなん」」」ととといひいひいいしらしらしらずずずをかしげをかしげおかしげににに、、、めでたくめでたくめでたく書か書かかききき給たま給たまたまへへえるるるををを見み見みみててていとゞいとゞいとど涙なみだ涙なみだなみだをををそへそへそえまさるまさるまさる。。。
  12. 12かくかくかくのみのみのみ思おも思おもおもひひいくんじくんじくんじたるたるたるををを、、、心こころ心こころこころももも慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめむむんととと心こころ心こころこころぐるしがりぐるしがりぐるしがりててて母はは母はははは物語ものがたり物語ものがたりものがたりなどなどなどもとめもとめもとめててて見み見みみせせせ給たま給たまたまふふうににに、、、げにげにげにおのづからおのづからおのずから慰なぐさ慰なぐさなぐさみみみゆくゆくゆく。。。
  13. 13紫むらさき紫むらさきむらさきのののゆかりゆかりゆかりををを見み見みみてててつゞきつゞきつづきののの見み見みみまほしくまほしくまほしくおぼゆれおぼゆれおぼゆれどどど、、、人ひと人ひとひとかたらひかたらひかたらいなどなどなどもももえええせせせずずず。。。されどされどされどいまだいまだいまだ都みやこ都みやこみやこなれなれなれぬぬぬ程ほど程ほどほどにににてててえええ見み見みみつけつけつけずずずいみじくいみじくいみじく心こころ心こころこころもとなくもとなくもとなくゆかしくゆかしくゆかしく覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるまゝまゝままににに「「「このこのこの源氏げんじ源氏げんじげんじののの物語ものがたり物語ものがたりものがたり一いち一いちいちのののまきまきまきよりよりよりしししててて皆みな皆みなみな見み見みみせせせ給たま給たまたまへへえ」」」ととと心こころ心こころこころのののうちうちうちににに祈いの祈いのいのるるる。。。
  14. 14親おや親おやおやのののうづまさうづまさうずまさににに籠こも籠こもこもりりり給たま給たまたまへへえるるるにににももも、、、ことことこと事ごと事ごとごとなくなくなくこのこのこの事こと事ことことををを申まう申まうもうしししててていでいでいでむむんまゝまゝままにににこのこのこの物語ものがたり物語ものがたりものがたり見み見みみはてはてはてむむんととと思おも思おもおもへへえどどど見み見みみえええずずず。。。いといといと口くち口くちくちをしくをしくおしく思おも思おもおもひひいなげかなげかなげかるゝるゝるるににに、、、叔母をば叔母をばをばなるなるなる人ひと人ひとひとののの田舍ゐなか田舍ゐなかいなかよりよりよりのぼりのぼりのぼりたるたるたる所ところ所ところところにににわたいわたいわたいたれたれたればばば「「「いといといとうつくしううつくしううつくしゅうおひおひおいなりなりなりにににけりけりけり」」」などなどなどあはれがりあはれがりあわれがり珍めづら珍めづらめずらしがりしがりしがりててて、、、
  15. 15歸かへ歸かへかえるるるににに「「「何なに何なになにをををかかか奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむん。。。まめまめしきまめまめしきまめまめしきものものものはははまたまたまたなかりなかりなかりなななむむん。。。ゆかしくゆかしくゆかしくししし給たま給たまたまふふうなるなるなるものものものををを奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむん」」」とてとてとて源氏げんじ源氏げんじげんじののの五十ごじふ五十ごじふごじゅうよよよまきまきまき櫃ひつ櫃ひつひつににに入い入いいれれれながらながらながら在中將ざいちゆうじやう在中將ざいちゆうじやうざいちゅうじょう、、、とほぎみとほぎみとおぎみ、、、芹川せりかは芹川せりかはせりかわ、、、しらゝしらゝしらら、、、あさうづあさうづあさうずなどなどなどいふいふいう物語ものがたり物語ものがたりものがたりどもどもども一ひと一ひとひと袋ふくろ袋ふくろふくろとりとりとり入い入いいれれれててて得え得ええててて歸かへ歸かへかえるるる心こころ心こころこころちちちののの嬉うれ嬉うれうれしさしさしさぞぞぞいみじきいみじきいみじきややや。。。
  16. 16走はし走はしはしるるる走はし走はしはしるるる僅わづか僅わづかわずかににに見み見みみつゝつゝつつ心こころ心こころこころもももえええずずず、、、心こころ心こころこころもとなくもとなくもとなく思おも思おもおもひひい、、、源氏げんじ源氏げんじげんじををを一いち一いちいちのののまきまきまきよりよりよりしししててて人ひと人ひとひともももまじらまじらまじらずずず几帳きちやう几帳きちやうきちょうののの內うち內うちうちにににうちうちうち臥ふ臥ふふしししてててひきひきひき出い出いいでででつゝつゝつつ見み見みみるるるこゝちこゝちここち、、、后きさき后きさききさきののの位くらゐ位くらゐくらいももも何なに何なになににににかかかはははせせせむむん。。。
  17. 17晝ひる晝ひるひるははは日ひ日ひひくらしくらしくらしよるよるよるははは目め目めめののの覺さ覺ささめめめたるたるたるかぎりかぎりかぎり火ひ火ひひををを近ちか近ちかちかくくくともしともしともしてててこれこれこれををを見み見みみるるるよりよりより外ほか外ほかほかののの事こと事ことことなけれなけれなければばば、、、おのづからおのづからおのずからなどなどなどはははそらそらそらにににおぼえおぼえおぼえ浮うか浮うかうかぶぶぶををを、、、いみじきいみじきいみじき事こと事ことことににに思おも思おもおもふふうににに、、、
  18. 18夢ゆめ夢ゆめゆめににに、、、いといといと淸きよ淸きよきよげげげなるなるなる僧そう僧そうそうののの黄き黄ききなるなるなる地ぢ地ぢじののの袈裟けさ袈裟けさけさ着き着ききたるたるたるががが來き來ききててて、、、五卷ごのまき五卷ごのまきごのまきををを疾と疾ととくくく習なら習ならならへへえととといふいふいうととと見み見みみれれれどどど、、、人ひと人ひとひとにににもももかたらかたらかたらずずず、、、習なら習ならならははわむむんとととももも思おも思おもおもひひいかけかけかけずずず、、、物語ものがたり物語ものがたりものがたりのののことことことをををのみのみのみ心こころ心こころこころにににしめしめしめててて我わ我わわはははこのこのこのごろごろごろわろきわろきわろきぞぞぞかしかしかし。。。
  19. 19さかりさかりさかりにににならならならばばばかたちかたちかたちもももかぎりなくかぎりなくかぎりなくよくよくよく、、、髪かみ髪かみかみもももいみじういみじういみじゅう長なが長ながながくくくなりなりなりなななむむん。。。光源氏ひかるげんじ光源氏ひかるげんじひかるげんじののの夕顏ゆふがほ夕顏ゆふがほゆうがお、、、宇治うぢ宇治うぢうじののの大將だいしやう大將だいしやうだいしょうののの浮舟うきふね浮舟うきふねうきふねののの女君をんなぎみ女君をんなぎみおんなぎみのののやうやうようにににこそこそこそあらあらあらめめめととと思おも思おもおもひひいけるけるけるこゝろこゝろこころまづまづまずいといといとはかなくはかなくはかなくあさましあさましあさまし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(新しい家に)落ち着きもせず、ひどくごたごたしているけれど、早く(物語を見たい)と思っていたことなので、三条の宮に親類の人で衛門の命婦といってお仕えしていた人を尋ねて手紙をやったところ、めずらしがって喜んで、宮さまのお下がりをいただいたものだといって、とくにすばらしい冊子などを、硯箱の蓋に入れてよこしてくれたのが、うれしくてたまらなくて、

夜も昼もこれを見ることから始めて、もっともっと見たいのに、落ち着きもしない都のはずれに、誰が物語を探して見せてくれる人があろうか。

継母だった人は、宮仕えをしていた人が(父の任国に)下ったので、思っていたのとは違うことなどがあって、夫婦仲を恨めしそうにして、よそへ移ることになって、五歳ほどの子どもなどを連れて、「やさしくしてくれたあなたの心のほどは、忘れるときはないでしょう」などと言って、軒先近くのたいそう大きな梅の木を(指して)、「この花が咲くころには来ますよ」と言い残して移ってしまったのを、心の中で恋しくしみじみと思いながら、声をしのんで泣いてばかりいて、その年も暮れて新しい年になった。

早く梅が咲いてほしい、来ると言っていたが本当だろうかと、じっと見守って待ち続けていると、花もすっかり咲いたのに、何の便りもない。思いあぐねて、花を折って送る。

「あてにさせたお言葉を、やはり待っていてよいのでしょうか。霜枯れていた梅をも、春は忘れずにやって来て(花を咲かせて)いますのに」

と詠んで送ると、しみじみとしたことを書いて、

「やはりあてにしていてください。梅の高く伸びた枝には、約束していない思いがけない人も訪ねて来るといいますから」。

その春、世の中に疫病がたいそうはやって、まつざとの渡しで月の光にあわれに見た乳母も、三月一日に亡くなってしまった。どうしようもなく思い嘆いていると、物語を読みたい気持ちもなくなってしまった。ひどく泣き暮らして外を眺めると、夕日がたいそう華やかに差しているところに、桜の花が残りなく散り乱れている。

「散る花も、また来る春には見ることもできるだろう。(だが)そのまま別れてしまった人が恋しいことだ」。

また聞くと、侍従の大納言の姫君がお亡くなりになったそうだ。殿の中将(夫君)がお嘆きになっているようすを、わたし自身も悲しいおりなので、たいそうお気の毒だと聞く。

(京に)上り着いたとき、「これを手本にしなさい」と言って、この姫君の御筆跡をもらっていたが、(それには)「小夜ふけてねざめざりせば」などと書いて、また「鳥部山の谷に煙が燃え立ったら、はかなく見えたわたしだと知ってほしい」と、言いようもなく趣深く、みごとにお書きになっているのを見て、ますます涙がこぼれる。

こうしてばかりふさぎこんでいるのを、心を慰めようと、母が気の毒がって、物語などを探して見せてくださるので、本当に自然と心が慰められてゆく。

(『源氏物語』の)紫の上にゆかりの巻々を見て、続きが見たく思われるけれど、人に頼むこともできない。(家の者は)誰もまだ都に慣れていないころなので、見つけることもできない。たいそうもどかしく読みたく思われるままに、「この源氏の物語を、一の巻から全部お見せください」と心の中で祈る。

親が太秦に籠っていらっしゃるときにも、ほかのことは祈らず、このことばかりお願い申し上げて、(寺を)出たらすぐにこの物語を読み終えようと思うけれど、見ることができない。たいそう残念に思い嘆いていると、おばにあたる人が田舎から上京している所に(母が)行かせたところ、「たいそうかわいらしく成長したこと」などと、あわれがりめずらしがって、

帰りぎわに、「何をさしあげましょう。実用的な物ではつまらないでしょう。読みたがっていらっしゃるという物をさしあげましょう」と言って、『源氏物語』の五十余巻を、櫃に入ったまま、ほかに『在中将』『とおぎみ』『せり川』『しらら』『あさうづ』などという物語類を一袋に入れてくれたのを、もらって帰る気持ちのうれしさは、たいへんなものだった。

(それまでは)胸をどきどきさせながら、わずかに見ては、筋もわからず、もどかしく思っていた『源氏物語』を、一の巻から、誰にもじゃまされず、几帳の内に横になって、一冊ずつ取り出しては見る気持ちは、后の位も何になろう(とても比べものにならない)。

昼は一日じゅう、夜は目の覚めているかぎり、灯火を近くにともして、これを見るよりほかのことはしないので、自然と(物語の文章が)そらで思い浮かぶのを、すばらしいことだと思っていると、

夢に、たいそう清らかな僧が、黄色い地の袈裟を着て来て、「法華経の第五巻を早く習え」と言うのを見たけれど、人にも話さず、習おうとも思わず、物語のことばかり心にしめて、「わたしは今はまだ器量がよくないのよ。

年ごろになったら、容貌もこの上なく美しく、髪もたいそう長くなるだろう。光源氏の(愛した)夕顔や、宇治の大将の(愛した)浮舟の女君のようになるのだわ」と思っていた心は、まず何ともたわいなく、あきれたものだった。

意訳

上京した少女が真っ先にしたのは、物語を探すことだった。親類の命婦が宮家のお下がりの冊子を届けてくれると、昼も夜も読みふける。それでもまだ足りない。

継母は、父の任国に下っていた女性で、京に戻ると夫婦仲がうまくいかなくなり、子を連れて家を出る。梅の花の咲くころには来ると言い残した継母を、少女は待ち続ける。梅の枝に歌を添えて送ると、継母は「思いがけない人も訪ねて来る」と、自分は来られないことを遠回しに伝える。少女に物語を語って聞かせた継母との別れである。

疫病のはやった春、旅の途中で別れた乳母が亡くなる。桜の散る夕暮れ、また来る春の花と、二度と会えない人とを比べる歌に、少女の悲しみがこもる。

手本にもらった筆跡の主、侍従大納言の姫君の死の知らせも届く。手本に書かれていた「鳥部山」の歌は、まるで自分の死を予言したようで、少女はいっそう涙にくれる。

母が気をつかって物語を探してくれ、少女は『源氏物語』の一部を読む。続きが読みたくてたまらず、太秦に籠る親に付き添ってもそのことばかり祈る。そこへおばが『源氏物語』五十余巻を櫃ごとくれる。

「后の位も何にかはせむ」は、この日記でもっとも知られた言葉の一つである。誰にもじゃまされずに『源氏物語』を一の巻から読む喜びは、皇后の位にも代えがたい。昼も夜も読みふけり、文章をそらで覚えるほどだった。

夢の僧の「法華経五の巻を早く習え」というお告げにも耳を貸さず、少女は年ごろになれば夕顔や浮舟のようになれると夢見る。それを「まづいとはかなくあさまし」と断じるのは、晩年の作者である。物語への陶酔の頂点と、それを悔いる老いた目とが、一つの文に重なっている。

語釈・文法注

三條の殿の宮
三条の宮。一条天皇の皇女脩子内親王(996〜1049)。作者の家はこの宮の西にあった。
侍從の大納言の御女
藤原行成(972〜1027)の娘。能書家の行成の娘らしく筆跡が美しかった。藤原道長の子の長家と結婚していたが、治安元年(1021)三月に亡くなった。「殿の中将」は長家。
法華經
妙法蓮華経。第五巻には、女性も成仏できることを説く提婆達多品があり、女性の信仰を集めた。

文法

「ありもつかず」
新しい住まいに落ち着きもせず。
「御前のをおろしたる」
宮さまのお手元の物をお下げ渡しいただいたもの。
「はとり」
端(はた)のあたり。都のはずれ。
「その年も歸りぬ」
年が改まった。「歸る」は年が新しくなること。
「せむかたなく」
どうしようもなく。「む」は撥音で読む。
「小夜ふけてねざめざりせば」
『拾遺和歌集』の壬生忠見の歌「小夜ふけて寝覚めざりせばほととぎす人づてにこそ聞くべかりけれ」の上の句。
「紫のゆかり」
『源氏物語』の紫の上に関わる巻々。若紫の巻あたりを指すとされる。
「わたいたれば」
「わたしたれば」のイ音便。(母が娘を)行かせたところ。
「走る走る」
胸がどきどきするさま。
「何にかはせむ」
反語。何になろう、問題にもならない。

和歌

たのめしをなほや待つべき霜がれし梅をも春はわすれざりけり

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
梅の咲くころに来ると言って家を出た継母が、花が咲いても来ないので、梅の枝を折って送った歌。

修辞

対比
霜枯れた梅をも忘れずに訪れる春と、約束しても来ない継母とを対比する。

なほたのめ梅の立枝はちぎりおかぬおもひの外の人もとふなり

詠者
継母
状況
作者の歌への返歌。しみじみとしたことを書き添えてあった。

修辞

本歌
平兼盛の「わが宿の梅の立枝や見えつらむ思ひのほかに君が来ませる」(拾遺集)をふまえる。
婉曲
思いがけない人が訪ねて来るだろうと言って、自分は行けないことを遠回しに伝える。

散る花もまたこむ春はみもやせむやがてわかれし人ぞこひしき

詠者
作者(菅原孝標女)
状況
乳母が亡くなった春、夕日の中で桜が散り乱れるのを見て詠んだ歌。

修辞

対比
来年また見られる花と、二度と会えない人とを対比する。

鳥部山谷にけぶりの燃えたゝばはかなく見えし我と知らなむ

詠者
侍従大納言の姫君(藤原行成の娘)
状況
作者が手本としてもらった姫君の筆跡に書かれていた歌。姫君の死後に見ると、自分の死を予感したかのように思われた。

修辞

見立て
鳥部山(京の東の火葬の地)の煙を、自分の亡骸を焼く煙と見る。

解説

上京した翌年の治安元年(1021)は、疫病(もがさ)が流行し、乳母や侍従大納言の姫君が亡くなった。十四歳の作者は、身近な人の死を続けて経験する。

『源氏物語』五十余巻を手に入れて読みふける場面は、『源氏物語』が書かれて十数年後の読者のようすを伝える貴重な記録でもある。「五十よまき」は、当時の『源氏物語』がすでに五十余巻の形で読まれていたことを示している。おばからもらった他の物語(『在中将』『とほぎみ』『せり川』『しらら』『あさうづ』)は、『在中将』(伊勢物語)のほかは今は伝わらない。

国文大観の本文では、この章は第9章の終わりの錯簡に続いて、上京直後の記事から始まる。通行本文では、第4章の京に着く記事のすぐあとに、この章の記事が続く。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(更級日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、473–476頁(コマ248–250)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日