大鏡 第43章
花山院の風流
花山院は風流人でもあった。寝殿・対屋・渡殿をひと続きに造って檜皮を葺き合わせる造りを始め、車宿りの床を奥高にして、急ぎの時に車が自然に走り出るよう工夫した。調度の美しさ、桜を中門の外に植えて梢だけを眺める趣向、築地の上に撫子の種をまいて唐錦のように咲かせた工夫など、その感覚は人々を驚かせた。車の輪を薄墨で塗った絵や、筍の皮で子どもを脅す男の絵など、ユーモアのある絵も描いた。
- 1此此この花山院花山院かざんいんはははにさへこそおはしましけれにさへこそおはしましけれにさえこそおわしましけれ。。。御御おん家家いえつくらせつくらせつくらせ給給たまへりしさまなどよへりしさまなどよえりしさまなどよ。。。寢殿寢殿しんでんたいわたたいわたたいわた殿殿とのなどなどなどははは。。。。。。事事ことももも。。。
- 2このこのこの院院いんのしいでさせのしいでさせのしいでさせ給給たまへるへるえる也也なり。。。昔昔むかしはははべち〳〵べち〳〵べちべちにてあはひににてあはひににてあわいにひかけてぞひかけてぞひかけてぞ侍侍さぶらいししし。。。内裏内裏だいりはははいまにさこそいまにさこそいまにさこそははは侍侍しめれめれめれ。。。御車御車みくるまにににはははいたじきいたじきいたじきをををおくおくおくはははたかくはしたかくはしたかくわしはははをををさせさせさせ給給たまへるゆへへるゆへえるゆえははは。。。
- 3御車御車みくるまのさうずくのさうずくのそうずくをををさながらたてさせさながらたてさせさながらたてさせ給給たまててて。。。おのづからとみのおのづからとみのおのずからとみの事事ことのおりにのおりにのおりに。。。とりあへずとりあへずとりあえずとをしひらかばとをしひらかばとおしひらかば。。。からからとからからとからからと人人ひとのてのてのてふれぬさきにさしいだされんがれうとふれぬさきにさしいだされんがれうとふれぬさきにさしいだされんがりょうと。。。
- 4おもしろくおぼしめしたるおもしろくおぼしめしたるおもしろくおぼしめしたる事事ことぞかしぞかしぞかし。。。御御おんうどもうどもうどもなどなどなどのののけうらさけうらさきょうらさこそこそこそえもいはずえもいはずえもいわず侍侍はべけれけれけれ。。。のたえいりのたえいりのたえいり給給たまへりしへりしえりし。。。御誦經御誦經みずきょうにせられしにせられしにせられし御御おんすゞりのすゞりのすずりのはははこここ見見み給給たま。。。くちくちくちをををかれたりしやうなどのいとめでたかりしかれたりしやうなどのいとめでたかりしかれたりしょうなどのいとめでたかりし也也なり。。。
- 5又又また給給たましおりしおりしおりははは。。。さくらのさくらのさくらの花花はなはははゆふなるにゆふなるにゆうなるに。。。えだざしえだざしえだざしのののこは〳〵しくてこは〳〵しくてこわごわしくて。。。もとのやうなどもにくしこずゑばかりもとのやうなどもにくしこずゑばかりもとのようなどもにくしこずえばかりををを見見みるなむおかしきとてるなむおかしきとてるなむおかしきとて。。。
- 6中門中門ちゅうもんよりとによりとによりとにうへさせうへさせうえさせ給給たまへるへるえる。。。なになになにはりもいみじくおぼしめしよりたりとはりもいみじくおぼしめしよりたりとはりもいみじくおぼしめしよりたりと人人ひとははは感感かんじじじ申申もうききき。。。又又またなでしこのたねなでしこのたねなでしこのたねをををうへにまかせうへにまかせうえにまかせ給給たまへりければへりければえりければ。。。
- 7おもひかけずおもひかけずおもいかけず四方四方よもにににいろ〳〵いろ〳〵いろいろをををひきかけたるやうにさきたりしなどひきかけたるやうにさきたりしなどひきかけたるようにさきたりしなどををを見見み給給たましししははは。。。いかにめでたくいかにめでたくいかにめでたく侍侍はべりしかばりしかばりしかば。。。入道殿入道殿にゅうどうどのののの馬馬うませさせせさせせさせ給給たまししし日日ひははは。。。
- 8むかへむかへむかえ申申もうさせさせさせ給給たまけるにけるにけるに。。。わたりおはしますわたりおはしますわたりおわします日日ひののの御御おんよそほひよそほひよそおいはははさらなりさらなりさらなり。。。をろかなるべきにもあらねどをろかなるべきにもあらねどおろかなるべきにもあらねど。。。ろれにつけてもまことにろれにつけてもまことにろれにつけてもまことに御車御車みくるまのさまこそのさまこそのさまこそ。。。
- 9又又またよにたぐひなくさぶらひしかよにたぐひなくさぶらひしかよにたぐいなくさぶらいしか。。。御御おんくつにいたるまでたゞくつにいたるまでたゞくつにいたるまでただ人人ひとののの見見みものになるものになるものになる計計はかころころころ。。。のちにのちにのちにはもはもはもてありくとてありくとてありくとうけうけうけ給給たまわりしかりしかりしか。。。あてあてあてゑあそばしたりしさまにけうありゑあそばしたりしさまにけうありえあそばしたりしさまにきょうあり。。。
- 10さささはゝはゝははしりくるまのわにしりくるまのわにしりくるまのわにはははうすゞみにぬらせうすゞみにぬらせうすずみにぬらせ給給たまててて。。。おほきさのおほきさのおおきさのほどやなどしるしにほどやなどしるしにほどやなどしるしにはすみはすみはすみをををにほはせにほはせにおわせ給給たまへりしへりしえりし。。。げにかくこそかくべかりけれげにかくこそかくべかりけれげにかくこそかくべかりけれ。。。
- 11あまりにあまりにあまりにはしるはしるはしる事事ことはははいつかはいつかはいつかはくろさのくろさのくろさのほどやほどやほどやははは見見みえええ侍侍はべるるる。。。
- 12又又またはははををを。。。おとこのおとこのおとこのをををよびとにいれてよびとにいれてよびとにいれて。。。めかゝうしてちごめかゝうしてちごめかこうしてちごをををおどせばおどせばおどせば。。。かほあかめてゆゝしうおぢたるかたかほあかめてゆゝしうおぢたるかたかおあかめてゆゆしゅうおじたるかた。。。又又また人人ひとたよりなしのたよりなしのたよりなしの家家いえのののうちのうちのうちの作法作法さほうなどかゝせさせなどかゝせさせなどかかせさせ給給たまへりしがへりしがえりしが。。。
- 13いづいづいずれも〳〵れも〳〵れもれもさぞありけんとのみあさましうこそさぞありけんとのみあさましうこそさぞありけんとのみあさましゅうこそ候候そうらひしかひしかいしか。。。このこのこの中中なかににに御御ごらんじたるらんじたるらんじたる人人ひともやおはしますらんもやおはしますらんもやおわしますらん。。。
現代語訳
この花山院は風流人でさえいらっしゃったのですよ。お屋敷を造らせなさったさまなどよ。寝殿・対屋・渡殿などは、造り合わせて檜皮を葺き合わせることも、この院が始めなさったのである。昔は別々で、その間には樋をかけてございました。内裏は今もそのようでございます。車宿りには、板敷を奥を高く端を低くして、大きな妻戸をおつけになったわけは、車の装束をそのまま(車宿りに)立てさせておいて、急な事の折に、とりあえず(妻戸を)押し開ければ、からからと人の手が触れないうちに(車が)走り出すようにとのためと、おもしろくお思いになったことですよ。御調度などの美しさこそ言いようもございませんでした。六の宮が気絶なさったときの御誦経に出された御硯の箱を拝見しましたが、海賦に(海の図柄に)蒔絵のさま、口を置かれた様子などがたいそうすばらしかったのです。
また木立をお造りになったときは、「桜の花は優雅だが、枝ぶりがごつごつしていて、根元の様子なども憎らしい。梢だけを見るのがおもしろい」と言って、中門の外にお植えになった。何よりもたいそう工夫をお思いつきになったと、人は感心申し上げた。また撫子の種を築地の上におまかせになったので、思いがけず四方に色とりどりの唐錦を引きかけたように咲いていたのなどを拝見したのは、どんなにすばらしゅうございましたことか。入道殿(道長)が競馬をなさった日は、(院を)お迎え申しなさったが、お渡りになる日のご装いは言うまでもない。並大抵であるはずもないけれど、それにつけても、本当に御車の様子こそ、また世に類いなくございました。御沓に至るまで、ただ人の見ものになるほどのころ。のちには(その車を人が)持ち歩くと承りました。(院が)実際にお描きになった絵の様子も趣がある。走る車の輪には薄墨をお塗りになって、大きさのほどなどの目印には墨をにじませなさった。本当にこう描くべきだったのだ。あまりに速く走るものは、いつ(輪の)黒さのほどが見えましょう。
また、筍の皮を男の指先に入れて、目を引きつらせて子どもを脅すと、(子どもが)顔を赤くしてひどくおびえている絵、また裕福な人と貧しい人の家の中の作法などをお描かせになったのが、どれもこれも本当にそうであったろうと驚くほどでございました。この中にご覧になった方もいらっしゃるでしょうか。
意訳
奇行の多かった花山院は、同時に新しい美を生み出す風流人でもあった。寝殿・対屋・渡殿をつなげて屋根を葺き合わせる建築を始め、車宿りの床を傾けて、妻戸を開ければ車がひとりでに出ていくように造った。桜は枝ぶりが無骨だからと中門の外に植えて梢だけを眺め、築地の上に撫子の種をまいて、色とりどりの花が錦を掛けたように咲くようにした。どれも人の意表をつく発想である。
院は絵も巧みであった。走る車の輪は、速くて黒い輻(や)が見えないのだからと薄墨で描き、筍の皮を指にはめて子どもを脅す男と、おびえる子どもの表情を描いた。世継は「本当にそうであったろう」と、写実の確かさに感心している。前章の奇行と並べて、院の豊かな才能を伝えるところである。
語釈・文法注
- 風流者
- 趣向をこらすことを好む人、風流人。
- わだふきあはする
- 檜皮(ひわだ)を葺き合わせる。複数の建物の屋根を一続きに葺くこと。
- ひ
- 樋(とい)。雨水を流すために建物の間に渡したもの。
- 御車やどり
- 車宿り。牛車を入れておく建物。
- つまど
- 妻戸。建物の端にある両開きの板戸。
- 御てうど
- 御調度。身の回りの道具類。
- 六宮
- 花山院の皇子か。
- かいぶ
- 海賦。波や海辺の景物を描いた文様。
- こたち
- 木立。庭木。
- ついひぢ
- 築地。土塀。
- からにしき
- 唐錦。中国渡来の華やかな錦。
- くらべ馬
- 競馬。
- あて御ゑ
- 院が実際にお描きになった絵。「あて」は意味がはっきりしない。
- たかんなのは
- 筍の皮。
- とく人たよりなし
- 徳人と頼りなし。裕福な人と貧しい人。
文法
- おはしましけれ
- 「こそ〜けれ」の係り結び。
- さしいだされんがれう
- 「ん」は婉曲、「れう」は料(ため)。押し出されるようにするため。
- にくしこずゑばかりを見るなむおかしき
- 「なむ〜おかしき」の係り結び。
- かくべかりけれ
- 「こそ〜けれ」。描くべきだったのだ。
- 見え侍る
- 「いつかは」と呼応して反語。いつ見えましょうか。
解説
寝殿造の殿舎を渡殿でつなぎ、屋根を葺き合わせるのは、のちの寝殿造で普通になる造り方で、『大鏡』はその始まりを花山院に帰している。
花山院の絵画の才は、ほかに『古今著聞集』などにも伝えられる。走る車輪を薄墨で描いたという話は、日本の絵画における写実への関心を示す早い例として注目される。
底本の「ろれにつけても」は「それにつけても」の誤りか。底本のとおりに翻刻した。
関連
出典
- 底本
- 経済雑誌社編『国史大系』第17巻(大鏡) 経済雑誌社、明治34年(1901)、568〜570頁(コマ300–301)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日