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大鏡 第27章

道長への申し出

東宮は能信に、東宮を退いて気楽に仏道修行や物詣でをしたい、院号と年官年爵をもらって暮らしたい、と道長への伝言を頼んだ。翌朝、能信は源俊賢の勧めで急いで道長に伝え、道長は大喜びして、その日のうちに東宮のもとを訪れた。人々は御匣殿の縁談かと騒ぎ、母の皇后も知らなかった。道長と対面した東宮はさすがに気後れしたが、意志を伝え、道長はその日のうちに東宮を院とする手続きを始めた。

  1. 1おとゞにきこゆべきおとゞにきこゆべきおとどにきこゆべき事こと事ことことのあるのあるのあるををを。。。つたへものすべきつたへものすべきつたえものすべき人ひと人ひとひとのなきにのなきにのなきに。。。まぢかきまぢかきまじかきほどなればたよりにもとほどなればたよりにもとほどなればたよりにもと思おも思おもおもひてひていて。。。せうそこしせうそこししょうそこし聞きこ聞きこきこえつるなりえつるなりえつるなり。。。
  2. 2そのむねそのむねそのむねははは。。。かくてかくてかくて侍はべ侍はべはべるこそるこそるこそははは事こと事ことことととと思おも思おもおもひひい。。。をををかせかせかせ給たま給たまたまへるへるえる事こと事ことことをををたがへたてまつらんもたがへたてまつらんもたがえたてまつらんも。。。かた〴〵かた〴〵かたがたにににはゞかりおもはぬにあらねどはゞかりおもはぬにあらねどはばかりおもわぬにあらねど。。。
  3. 3かくてあるなんかくてあるなんかくてあるなん思おも思おもおもひつゞくるにつみひつゞくるにつみいつづくるにつみふかくもおぼゆるふかくもおぼゆるふかくもおぼゆる。。。うちのうちのうちの御おん御おんおん行末ゆくすゑ行末ゆくすゑゆくすえはははいといといとはるかにものせさせはるかにものせさせはるかにものせさせ給たま給たまたま。。。いつともなくていつともなくていつともなくてはははかなきかなきかなき世よ世よよにいのちもしりがたしにいのちもしりがたしにいのちもしりがたし。。。
  4. 4このありさまのきてこのありさまのきてこのありさまのきて心こころ心こころこころにまかせておこなひにまかせておこなひにまかせておこないをもをもをもしししまうでまうでもうでをもをもをもししし。。。やすらかにてなんあらまほしきやすらかにてなんあらまほしきやすらかにてなんあらまほしきををを。。。むげにさきのむげにさきのむげにさきの東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうにてあらむにてあらむにてあらむははは見み見みみぐるしかるべきなんぐるしかるべきなんぐるしかるべきなん。。。
  5. 5ううう給たまは給たまはたまわををを。。。いかなるべきいかなるべきいかなるべき事こと事ことことにかとにかとにかと。。。つたへつたへつたえ聞きこ聞きこきこえられよとおほせられければえられよとおほせられければえられよとおおせられければ。。。かしこまりてまかでさせかしこまりてまかでさせかしこまりてまかでさせ給たま給たまたまぬぬぬ。。。
  6. 6そのよそのよそのよはははふけにければふけにければふけにければ。。。つとめてぞつとめてぞつとめてぞ殿どの殿どのどのにまいらせにまいらせにまいらせ給たま給たまたまへるにへるにえるに。。。うちへまいらせうちへまいらせうちえまいらせ給たま給たまたまはんとてはんとてわんとて御おん御おんおんさうぞくのさうぞくのそうぞくのほどなればえほどなればえほどなればえ申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまはずはずわず。。。大おほ大おほおおかたにかたにかたにははは御おほん御おほんおおんともにまいるべきともにまいるべきともにまいるべき人〳〵ひとびと人〳〵ひとびとひとびと。。。
  7. 7さらぬもいでさせさらぬもいでさせさらぬもいでさせ給たま給たまたまはんにげさんせんとはんにげさんせんとわんにげさんせんと。。。おほくまいりつどひておほくまいりつどひておおくまいりつどいて物もの物ものものさささはははがしければがしければがしければ。。。御車みくるま御車みくるまみくるまににに奉たてまつ奉たてまつたてまつりにおはしまさんにりにおはしまさんにりにおわしまさんに申まう申まうもうさんとてさんとてさんとて。。。そのそのその程ほど程ほどほどしんしんしん殿どの殿どのどののすみのまのかうしによりかゝりてゐさせのすみのまのかうしによりかゝりてゐさせのすみのまのこうしによりかかりていさせ給たま給たまたまへるへるえるををを。。。
  8. 8よりおはしてよりおはしてよりおわして。。。などかくてなどかくてなどかくてはははおはしますときこえさせおはしますときこえさせおわしますときこえさせ給たま給たまたまへばへばえば。。。このこのこの殿どの殿どのどのにににはははかくしきこえさせかくしきこえさせかくしきこえさせ給たま給たまたまべきことにもあらねばべきことにもあらねばべきことにもあらねば。。。しか〳〵しか〳〵しかしかののの事こと事ことことのあるのあるのあるををを。。。
  9. 9人〳〵ひとびと人〳〵ひとびとひとびとのさぶらふめればのさぶらふめればのさぶらうめれば。。。えええ申まう申まうもうさぬなりとのさぬなりとのさぬなりとの給たま給たまたまはするにはするにわするに。。。御おん御おんおんけしきけしきけしき打う打ううかはりてかはりてかわりて。。。このこのこの殿どの殿どのどのもおどろきもおどろきもおどろき給たま給たまたま。。。いみじうかしこきいみじうかしこきいみじゅうかしこき事こと事ことことこそあなれこそあなれこそあなれ。。。
  10. 10たゞとくきかせたてまつらせたゞとくきかせたてまつらせただとくきかせたてまつらせ給たま給たまたまへへえ。。。うちにまいらせうちにまいらせうちにまいらせ給たま給たまたまなばなばなば。。。いとゞいとゞいとど人ひと人ひとひとがちにてえがちにてえがちにてえ申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまはじとあればはじとあればわじとあれば。。。げにとおぼしておはしますかたにまいりげにとおぼしておはしますかたにまいりげにとおぼしておわしますかたにまいり給たま給たまたまへればへればえれば。。。
  11. 11さならんとさならんとさならんと御心みこころ御心みこころみこころえさせえさせえさせ給たま給たまたまててて。。。すみのまにすみのまにすみのまに出いだ出いだいださせさせさせ給たま給たまたまててて。。。東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうにまいりたりつるかととはせにまいりたりつるかととはせにまいりたりつるかととわせ給たま給たまたまへばへばえば。。。よべのよべのよべの御おん御おんおんせうそせうそしょうそくはしくくはしくくわしく申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまににに。。。
  12. 12さらなりやおろかにおぼしめさんやさらなりやおろかにおぼしめさんやさらなりやおろかにおぼしめさんやははは。。。おしておろしたてまつらんおしておろしたてまつらんおしておろしたてまつらん事こと事ことことはははゞかりおぼしめしつるにゞかりおぼしめしつるにばかりおぼしめしつるに。。。かゝるかゝるかかる事こと事ことことのいできぬるのいできぬるのいできぬる御おん御おんおんよろこびなよろこびなよろこびなをををつきせずつきせずつきせず。。。
  13. 13まづいみじかりけるまづいみじかりけるまずいみじかりける大宮おほみや大宮おほみやおおみやののの御おん御おんおん世よ世よよかなとおぼしめすかなとおぼしめすかなとおぼしめす。。。
  14. 14民部卿殿みんぶきやうどの民部卿殿みんぶきやうどのみんぶきょうどのににに申まう申まうもうあはせさせあはせさせあわせさせ給たま給たまたまへばへばえば。。。唯ただ唯ただただとく〳〵とく〳〵とくとくせさせせさせせさせ給たま給たまたまべきべきべき也なり也なりなり。。。なにかなにかなにかよきよきよきひひひもももとらせとらせとらせ給たま給たまたま。。。すこしものびすこしものびすこしものびはははおぼしおぼしおぼし返かへ返かへかえしてしてして。。。さらでありなんとあらんさらでありなんとあらんさらでありなんとあらんをばをばをば。。。
  15. 15いかゞはせさせいかゞはせさせいかがわせさせ給たま給たまたまはんとはんとわんと申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまへばへばえば。。。さるさるさる事こと事ことこととおぼしてとおぼしてとおぼして御おん御おんおん御ご御ごごらんずるにらんずるにらんずるに。。。けふけふきょうもあしきもあしきもあしき日ひ日ひひにもあらざりけりにもあらざりけりにもあらざりけり。。。やがてやがてやがてもまいらせもまいらせもまいらせ給たま給たまたまへるへるえるほどにほどにほどに。。。
  16. 16とく〳〵とく〳〵とくとくとそゝのかしとそゝのかしとそそのかし申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたま。。。まづいかにもまづいかにもまずいかにも大宮おほみや大宮おほみやおおみやににに申まう申まうもうてこそてこそてこそはははとてとてとて。。。うちにおはしますうちにおはしますうちにおわしますほどなればほどなればほどなれば。。。まいらせまいらせまいらせ給たま給たまたまてかくなんときかせたてまつらせたまへばてかくなんときかせたてまつらせたまへばてかくなんときかせたてまつらせたまえば。。。ましてあるのましてあるのましてあるの御心みこころ御心みこころみこころはははいかゞいかゞいかがはははおぼしめされけんおぼしめされけんおぼしめされけん。。。
  17. 17かうかうこう申事まうすこと申事まうすこともうすことははは寬仁くわんにん寬仁くわんにんかんにん元年ぐわんねん元年ぐわんねんがんねん八月はちぐわつ八月はちぐわつはちがつ六日むいか六日むいかむいか事こと事ことこと也なり也なりなり。。。御おん御おんおんこどものこどものこどもの殿との殿とのとのばらばらばら。。。またれいもまたれいもまたれいも御おほん御おほんおおんともにまいりともにまいりともにまいり給たま給たまたま上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめ殿上人てんじやうびと殿上人てんじやうびとてんじょうびとひきぐせさせひきぐせさせひきぐせさせ給たま給たまたまへればへればえれば。。。いとこちたくひゞきことにておはしますいとこちたくひゞきことにておはしますいとこちたくいびきことにておわしますををを。。。
  18. 18まちつけさせまちつけさせまちつけさせ給たま給たまたまへるへるえる宮みや宮みやみやののの御心みこころ御心みこころみこころちちちははは。。。さりともすこしさりともすこしさりともすこしはしうはしうはしゅうおぼしめされけんかしおぼしめされけんかしおぼしめされけんかし。。。心こころ心こころこころもしらぬもしらぬもしらぬ人ひと人ひとひとははは。。。つゆまいりよるつゆまいりよるつゆまいりよる人ひと人ひとひとだになきにだになきにだになきに。。。昨日きのふ昨日きのふきのうのまいりのまいりのまいり給たま給たまたまへりしだにあやしとおもふにへりしだにあやしとおもふにえりしだにあやしとおもうに。。。
  19. 19又また又またまた今日けふ今日けふきょうかくおびたゞしくかくおびたゞしくかくおびただしく。。。御おん御おんおんさきのさきのさきのをををともともともおどろ〳〵おどろ〳〵おどろおどろしうひゞきてまいらせしうひゞきてまいらせしゅういびきてまいらせ給たま給たまたまへるへるえるをををいかなるいかなるいかなる事こと事ことことぞとあきるゝにぞとあきるゝにぞとあきるるに。。。
  20. 20すこしよろしきすこしよろしきすこしよろしき程ほど程ほどほどのもののもののものははは。。。みくしげみくしげみくしげ殿どの殿どのどのののの御おん御おんおん事こと事ことこと申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまになんめりとおもふになんめりとおもふになんめりとおもうはははさもにつかはしやさもにつかはしやさもにつかわしや。。。むげにむげにむげに思おも思おもおもひやりなききひやりなききいやりなききはははのもののもののものははは。。。
  21. 21又また又またまた我わ我わわ心こころ心こころこころにかゝるまゝににかゝるまゝににかかるままに。。。うちのいかにおはしますぞなどまでうちのいかにおはしますぞなどまでうちのいかにおわしますぞなどまで。。。こゝろさこゝろさこころさはははぎしあへりけるこそあさましうゆゝしけれぎしあへりけるこそあさましうゆゝしけれぎしあえりけるこそあさましゅうゆゆしけれ。。。
  22. 22母はは母ははははののの宮みや宮みやみやだにもしらせだにもしらせだにもしらせ給たま給たまたまはざりけりはざりけりわざりけり。。。かくこのかくこのかくこの御方かた御方かたかたににに物もの物ものものさささはははがしきがしきがしきををを。。。いかなるいかなるいかなる事こと事ことことぞとあやしくおぼしてぞとあやしくおぼしてぞとあやしくおぼして。。。ないしないしないし申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまへどへどえど。。。殿どの殿どのどのにににはははとしごろおぼしめしつるとしごろおぼしめしつるとしごろおぼしめしつる事こと事ことことなどなどなど。。。こまかにきこえさせこまかにきこえさせこまかにきこえさせ給たま給たまたまてけりてけりてけり。。。
  23. 23殿どの殿どのどのにににはれいのはれいのはれいの女房にようばう女房にようばうにょうぼうのまいるみちのまいるみちのまいるみちをををかためさせかためさせかためさせ給たま給たまたまてければてければてければ。。。まとになりぬるおりまとになりぬるおりまとになりぬるおりははは。。。いかになりぬるいかになりぬるいかになりぬる事こと事ことことぞとさすがにぞとさすがにぞとさすがに御心みこころ御心みこころみこころさささはははがせがせがせ給たま給たまたまぬぬぬ。。。
  24. 24むかひきこえさせむかひきこえさせむかいきこえさせ給たま給たまたまてててははは。。。方〳〵かたがた方〳〵かたがたかたがたにおくせられにおくせられにおくせられ給たま給たまたまにけるとやにけるとやにけるとや。。。たゞたゞただ昨日きのふ昨日きのふきのうのおなじさまにのおなじさまにのおなじさまに中〳〵なかなか中〳〵なかなかなかなか事こと事ことことずくなにおほせらるゝずくなにおほせらるゝずくなにおおせらるる御おん御おんおんおりおりおりははは。。。さりともいかにかくさりともいかにかくさりともいかにかくはははおぼしめしよりぬるぞなどやうにおぼしめしよりぬるぞなどやうにおぼしめしよりぬるぞなどように申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまけむかしなけむかしなけむかしな。。。
  25. 25御おん御おんおんけしきのけしきのけしきの心こころ心こころこころぐるしさぐるしさぐるしさをををかつかつかつははは見み見みみたてまつらせたてまつらせたてまつらせ給たま給たまたまててて。。。すこしおしのごはせすこしおしのごはせすこしおしのごわせ給たま給たまたまててて。。。さらばさらばさらばけふけふきょうよきよきよき日ひ日ひひなりとてなりとてなりとて。。。院ゐん院ゐんいんになしたてまつらせになしたてまつらせになしたてまつらせ給たま給たまたまててて。。。
  26. 26やがてやがてやがて事こと事ことことどもどもどもはじめさせはじめさせはじめさせ給たま給たまたま日ひ日ひひ。。。よろづのよろづのよろずの事こと事ことことさだめおこなはせさだめおこなはせさだめおこなわせ給たま給たまたま。。。にににははは宮みや宮みやみやづかさどもづかさどもずかさども藏人くらうど藏人くらうどくろうどなどかはるべきにあらずなどかはるべきにあらずなどかわるべきにあらず。。。にににははは中宮ちゆうぐう中宮ちゆうぐうちゅうぐうののの權ごん權ごんごん太夫たいふ太夫たいふたいうをををなしたてまつりなしたてまつりなしたてまつり給たま給たまたまへればへればえれば。。。
  27. 27おはしておはしておわしていしいしいし申まう申まうもうさせさせさせ給事たまふこと給事たまふことたまうことどもさだまりどもさだまりどもさだまりはははてぬればてぬればてぬれば。。。いでさせいでさせいでさせ給たま給たまたまぬぬぬ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(東宮は能信に)「大臣(道長)に申し上げたいことがあるのに、伝えてくれる人がいないので、近くに住んでいるからつてにと思って、便りを差し上げたのだ。その趣旨は、こうして(東宮で)いるのが本来の望みどおりのことだとも思い、故院(三条院)が定めておかれたことに背き申し上げるのも、あれこれ遠慮されないわけではないが、こうしているのは、思い続けると罪深くも思われる。帝の御行く末はたいそう長くいらっしゃる。(私は)いつ(即位できる)ともわからず、はかない世で命もわからない。この(東宮の)身分を退いて、心のままに仏道修行もし、物詣でもして、気楽に暮らしたいのだが、まったくの前の東宮というのでは見苦しいだろう。院号をいただいて、年ごとの受領(年官年爵)などがあってほしいのだが、どうしたものかと、伝え申し上げてくれ」とおっしゃったので、(能信は)かしこまって退出なさった。

その夜は更けてしまったので、翌朝、殿(道長)のところに参上なさったが、(道長は)内裏に参上なさろうとしてご装束をなさっている最中なので、申し上げられない。ふだんからお供に参るはずの人々や、そうでない人も「お出ましになるときにお目にかかろう」と、大勢集まってきて騒がしいので、「御車にお乗りにいらっしゃるときに申し上げよう」と思って、その間、寝殿の隅の間の格子に寄りかかって座っていらっしゃったのを、源民部卿(俊賢)が寄っていらして、「どうしてこうしていらっしゃるのか」と申し上げなさると、この殿(俊賢)には隠し申し上げるべきことでもないので、「これこれのことがあるのに、人々が控えているようなので申し上げられないのだ」とおっしゃると、(俊賢は)顔色が変わって、この殿も驚きなさる。「たいへん恐れ多いことだ。ただ早くお聞かせ申し上げなさいませ。内裏に参上なさったら、いっそう人が多くなって申し上げられないでしょう」と言うので、なるほどとお思いになって、(道長の)いらっしゃる方に参上なさると、(道長は)そうだろうとお察しになって、隅の間にお出ましになって、「東宮に参上したのか」とお尋ねになるので、昨夜のお言葉をくわしく申し上げなさる。

言うまでもなく、(道長が)おろそかにお思いになるはずがあろうか。無理にお下ろし申し上げることは憚られるとお思いになっていたところに、こういうことが起こったお喜びは、やはり尽きない。まず、なんとすばらしい大宮(彰子)のご運勢よ、とお思いになる。

民部卿殿にご相談なさると、「ただ早く早くなさるべきです。どうして吉日などをお選びになるのですか。少しでも延びたら(東宮が)お考え直しになって、『そうでなくてもよい』とおっしゃったら、どうなさるのですか」と申し上げなさるので、もっともなことだとお思いになって暦をご覧になると、今日も悪い日ではなかった。そのうちに関白殿(頼通)も参上なさったので、「早く早く」とお勧め申し上げなさる。「まずなんとしても大宮に申し上げてから」と言って、(大宮は)内裏にいらっしゃるときなので、参上なさってこうこうとお聞かせ申し上げなさると、まして(大宮の)お心はどんなにお思いになったことでしょう。

このように申すことは、寛仁元年八月六日のことである。お子の殿方や、いつものようにお供に参る上達部・殿上人を引き連れていらっしゃったので、たいそう仰々しく、評判も格別でいらっしゃるのを、待ち受けなさる宮(東宮)のお気持ちは、そうはいってもいくらかは心強くお思いになったでしょうよ。事情を知らない人は、「少しも参り寄る人さえいないのに、昨日二位中納言殿(能信)が参上なさったのさえ妙だと思うのに、また今日このように大勢で、賀茂詣でなどのように前駆の声も仰々しく響いて参上なさったのは、どういうことか」とあきれていたが、少しましな身分の者は、「御匣殿のことを申し上げなさるのだろう」と思ったのは、いかにもそれらしいことよ。まったく思慮のない身分の者は、また自分の心にかかるままに、「帝がどうかなさったのか」などとまで心配して騒ぎあったのは、あきれた、不吉なことであった。

母の宮(娍子)さえご存じなかったのでした。このように東宮の御方が騒がしいのを、どういうことかと不思議にお思いになって、内侍が(事情を)申し上げなさったけれど、(東宮は)殿(道長)には長年思っていらしたことなどを、こまごまと申し上げなさったのでした。

殿は、いつもの女房が参る通り道を固めさせなさっていたので、いざ本当にそうなったときには、(東宮は)どうなってしまうのかとさすがにお心が騒ぎなさった。向かい合い申し上げなさっては、あれこれと気後れなさったとか。ただ昨日と同じように、かえって言葉少なにおっしゃるそのときは、(道長も)「それにしても、どうしてこうお思い立ちになったのですか」などと申し上げなさったでしょうよ。ご様子のお気の毒さを一方では見申し上げなさって、少し(涙を)押しぬぐいなさって、「それでは、今日はよい日です」と言って、院におなし申し上げなさって、そのまま諸事をお始めになる日として、万事を決めて行わせなさった。判官代には東宮坊の役人や蔵人などが変わるはずもない。別当には中宮権大夫(能信)をおつけ申し上げなさったので、(能信が)いらして拝舞申し上げなさる。諸事が決まり終わったので、(道長は)お帰りになった。

意訳

東宮は能信に、自分の思いを打ち明ける。東宮でいることは父院の遺志だが、帝はまだ若く、自分が即位できる日はいつ来るかわからない。それなら位を退いて、自由に仏道修行や物詣でをして暮らしたい。ただ、ただの「前東宮」では見苦しいから、院号と経済的な保障がほしい。率直で、どこか現実的な願いである。

翌朝、能信は道長に伝えようとするが、参内の支度で人が多くて切り出せない。源俊賢に事情を話すと、俊賢は顔色を変えて「すぐにお伝えなさい」と促す。知らせを聞いた道長は、無理に退位させることをためらっていたところだったので大喜びし、娘の彰子の運の強さを思う。俊賢は「吉日など選ばず今日のうちに。気が変わったらどうするのです」と急がせる。

道長の一行が東宮御所に乗り込むと、事情を知らない人々は御匣殿の縁談か、帝に何かあったのかと騒ぐ。母の娍子さえ知らなかった。いざ道長と向き合うと東宮は気後れしたが、その日のうちに院とされ、別当には能信が任じられた。道長が「少し涙をぬぐった」という一言に、勝者の余裕とも同情ともつかない複雑さがにじむ。

語釈・文法注

ほんい
本意。もとからの望み。
こゐん
故院。三条院。
物まうで
物詣で。寺社に参詣すること。
ゐんがう
院号。退位した天皇や、それに准じる人に与えられる「〜院」の称号。
ずらう
受領。ここでは年官年爵による収入をいうか。
源民部卿
源俊賢(960〜1027)。源高明の子。一条朝の四納言の一人で、道長に近かった。民部卿。
すぐ世
宿世。前世からの因縁、運命。
御ごよみ
具注暦。日の吉凶を書き込んだ暦。
關白殿
藤原頼通。道長の長男。この年、摂政となった。
二位中納言殿
藤原能信。前日に東宮を訪れた。
かもまうで
賀茂詣で。摂関が賀茂神社に参詣すること。前駆が大勢付き従い、盛大であった。
判官代
院庁の職員。
別當
院庁の長官。
はいし
拝舞。任官などの礼として、舞うように拝礼すること。

文法

あらまほしきを
「まほし」は願望。ありたいのだが。
見ぐるしかるべきなん
見苦しいに違いないだろう。「なん」の下に「ある」などが省略。
聞えられよ
「られ」は尊敬。申し上げてください。
おぼしめさんやは
「やは」は反語。お思いになろうか、いやお思いにならない。
おぼし返して
考え直して。
申させ給けむかしな
申し上げなさったでしょうよ。推量。

解説

東宮の辞退が正式に決まったのは寛仁元年(1017)八月六日(または九日)。『御堂関白記』によれば、道長は東宮に参って辞意を確かめ、ただちに後一条天皇・太皇太后彰子に奏上した。敦明親王には小一条院の院号と、上皇に准じる年官年爵・封戸が与えられた。

源俊賢が道長に即刻の実行を勧めたことは、『大鏡』だけに見える話で、俊賢の機敏さとともに、道長側の焦りを伝えている。

「御こどもの殿ばら」の前に、底本は「又れいも御ともにまいり給」の九字を「 」で囲んで衍字と示しているので、除いて翻刻した。

関連

出典

底本
経済雑誌社編『国史大系』第17巻(大鏡) 経済雑誌社、明治34年(1901)、525〜529頁(コマ278–280)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日