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大鏡 第26章

さびれる東宮御所

若侍が語る東宮退位の真相。三条院の死後、東宮御所には人も寄りつかず、庭は草が茂るほどさびれた。「道長は孫の三の宮を東宮に立てたがっていて、いずれ無理に退けられる」という噂を聞いた東宮は、奪われるより自分から退こうと思う。道長の娘寛子を東宮に嫁がせるという噂にも心は動かず、東宮は道長の子の能信を密かに呼び出した。能信は父に相談し、道長は娘の縁談の話だろうと考えて能信を東宮のもとへ行かせる。

  1. 1ににに思おも思おもおもひたればひたればいたれば。。。事こと事ことことのやうだいのやうだいのようだいははは三條院さんでうゐん三條院さんでうゐんさんじょういんのおはしましけるかぎりこそあれのおはしましけるかぎりこそあれのおわしましけるかぎりこそあれ。。。うせうせうせ給たま給たまたまにけるのちにけるのちにけるのちははは。。。よのつねのよのつねのよのつねの東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうののの御おん御おんおんやうにもなくやうにもなくようにもなく。。。
  2. 2殿上人てんじやうびと殿上人てんじやうびとてんじょうびとなどまいりてなどまいりてなどまいりて御おん御おんおんあそびせさせあそびせさせあそびせさせ給たま給たまたまややや。。。もてなしかしづきもてなしかしづきもてなしかしずき申まう申まうもう人ひと人ひとひとなどもなくなどもなくなどもなく。。。いといといとつれ〴〵つれ〴〵つれづれにまぎるゝかたなくおぼしめされけるまゝににまぎるゝかたなくおぼしめされけるまゝににまぎるるかたなくおぼしめされけるままに。。。
  3. 3心こころ心こころこころやすかりしやすかりしやすかりし御おん御おんおんありさまのみありさまのみありさまのみ戀こひ戀こひこいしくしくしく。。。しきまでおぼえさせしきまでおぼえさせしきまでおぼえさせ給たま給たまたまけれどけれどけれど。。。三條院さんでうゐん三條院さんでうゐんさんじょういんおはしましつるかぎりおはしましつるかぎりおわしましつるかぎりははは。。。院殿ゐんどの院殿ゐんどのいんどの上人しやうにん上人しやうにんしょうにんなどもまいりやなどもまいりやなどもまいりや。。。
  4. 4御おん御おんおんつかひもしげくまいりかよひなどするにつかひもしげくまいりかよひなどするにつかいもしげくまいりかよいなどするに。。。人ひと人ひとひとめもしげくよろづなぐさめさせめもしげくよろづなぐさめさせめもしげくよろずなぐさめさせ給たま給たまたまををを。。。院ゐん院ゐんいんうせおはしましてうせおはしましてうせおわしましてははは。。。世よ世よよののの中なか中なかなかのものおそろしくのものおそろしくのものおそろしく。。。
  5. 5おほぢのみちかゐもいかゞとのみわづらはしくおほぢのみちかゐもいかゞとのみわづらはしくおおじのみちかいもいかがとのみわずらわしくふるまひにくきによりふるまひにくきによりふるまいにくきにより。。。などだにもまいりつかうまつるなどだにもまいりつかうまつるなどだにもまいりつこうまつる事こと事ことこともかたくなりゆけばもかたくなりゆけばもかたくなりゆけば。。。ましてげすのましてげすのましてげすの心こころ心こころこころはははいかゞいかゞいかがはははあらんあらんあらん。。。
  6. 6。。。あさぎよめつかうまつるあさぎよめつかうまつるあさぎよめつこうまつる事こと事ことこともなければもなければもなければ。。。にわのくさもしげりまさりつゝにわのくさもしげりまさりつゝにわのくさもしげりまさりつつ。。。いとかたじけなきいとかたじけなきいとかたじけなき御おん御おんおんすみかにておはしますすみかにておはしますすみかにておわします。。。
  7. 7まれ〳〵まれ〳〵まれまれ參まゐり參まゐりまいりよるよるよる人〳〵ひとびと人〳〵ひとびとひとびとはははよにきこゆるよにきこゆるよにきこゆる事こと事ことこととてとてとて。。。かくておはしますかくておはしますかくておわしますををを。。。心こころ心こころこころぐるしくぐるしくぐるしく殿どの殿どのどのももも大宮おほみや大宮おほみやおおみやももも思おも思おもおもひひい申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまににに。。。もしもしもしうちにうちにうちにおとこおとこおとこ宮みや宮みやみやもいでおはしましなばいかゞあらんもいでおはしましなばいかゞあらんもいでおわしましなばいかがあらん。。。
  8. 8さわらぬさきにさわらぬさきにさわらぬさきに東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうにたてたてまつらばやとなんおぼせらるなりにたてたてまつらばやとなんおぼせらるなりにたてたてまつらばやとなんおぼせらるなり。。。さればさればさればをををしてとられさせしてとられさせしてとられさせ給たま給たまたまへるなりなどのみへるなりなどのみえるなりなどのみ申しん申しんしんををを。。。まことにしもあらざらめどまことにしもあらざらめどまことにしもあらざらめど。。。
  9. 9げにことのさまもよもとおぼえぬとなればにやげにことのさまもよもとおぼえぬとなればにやげにことのさまもよもとおぼえぬとなればにや。。。きかせきかせきかせ給たま給たまたま御心みこころ御心みこころみこころちちちははは。。。いとゞうきたちたるやうにおぼしめされていとゞうきたちたるやうにおぼしめされていとどうきたちたるようにおぼしめされて。。。ひたぶるにとられんよりひたぶるにとられんよりひたぶるにとられんよりはははわれとやのきなましとおぼしめすにわれとやのきなましとおぼしめすにわれとやのきなましとおぼしめすに。。。
  10. 10又また又またまた松まつ松まつまつ給たま給たまたまててて。。。殿どの殿どのどののののはははなやかにもてなしたてまつらせなやかにもてなしたてまつらせなやかにもてなしたてまつらせ給たま給たまたまふべかなりとてふべかなりとてうべかなりとて。。。れいのれいのれいの事こと事ことことなればなればなれば。。。よのよのよの人ひと人ひとひとさま〴〵さま〴〵さまざまさだめさだめさだめ申しん申しんしんををを。。。
  11. 11皇后宮くわうごうぐう皇后宮くわうごうぐうこうごうぐうきかせきかせきかせ給たま給たまたまててて。。。いみじうよろこばせいみじうよろこばせいみじゅうよろこばせ給たま給たまたまををを。。。東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうはははいとよかるべきことなれどいとよかるべきことなれどいとよかるべきことなれど。。。さだにあらばいとゞさだにあらばいとゞさだにあらばいとど我われ我われわれおもふおもふおもう事こと事ことことえせじえせじえせじ。。。なななをををかくてえあるまじくおぼしめされてかくてえあるまじくおぼしめされてかくてえあるまじくおぼしめされて。。。
  12. 12御母みはは御母みははみわわ宮みや宮みやみやにににしか〳〵しか〳〵しかしかなんおもふとなんおもふとなんおもうと聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせ給たま給たまたまへばへばえば。。。さらなりやさらなりやさらなりやいと〳〵いと〳〵いといとあるまじきあるまじきあるまじき御おん御おんおん事こと事ことこと也なり也なりなり。。。みくしげどのゝみくしげどのゝみくしげどのの御おん御おんおんことことことをををこそこそこそ。。。まことならばすゝみきこえさせまことならばすゝみきこえさせまことならばすすみきこえさせ給たま給たまたまはははめめめ。。。
  13. 13さささらに〳〵らに〳〵らにらにおぼしめしよるまじきおぼしめしよるまじきおぼしめしよるまじき事こと事ことことなりとなりとなりと聞きこ聞きこきこえさせえさせえさせ給たま給たまたまててて。。。御おん御おんおんものゝけのするなりとものゝけのするなりともののけのするなりと。。。御おん御おんおんいのりどもせさせいのりどもせさせいのりどもせさせ給たま給たまたまへどへどえど。。。さらにおぼしめしとゞまらぬさらにおぼしめしとゞまらぬさらにおぼしめしとどまらぬ御心みこころ御心みこころみこころのののうちうちうちををを。。。いかでかよひともきゝけんいかでかよひともきゝけんいかでかよいともききけん。。。
  14. 14さてなんみくしげさてなんみくしげさてなんみくしげ殿どの殿どのどのまいらせたてまつりまいらせたてまつりまいらせたてまつり給たま給たまたまへへえ共とも共ともともきこえさせきこえさせきこえさせ給たま給たまたまべかなるなどいふべかなるなどいふべかなるなどいう事こと事ことこと。。。殿どの殿どのどのののの方かた方かたかたにもきこゆればにもきこゆればにもきこゆれば。。。まことにさるおぼしゆるぎてのまことにさるおぼしゆるぎてのまことにさるおぼしゆるぎての給たま給たまたまはせばはせばわせば。。。
  15. 15いかゞすべからんなどおぼすいかゞすべからんなどおぼすいかがすべからんなどおぼす。。。さてさてさて東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうはははつるにおぼしめしたちぬつるにおぼしめしたちぬつるにおぼしめしたちぬ。。。さてのちにみくしげさてのちにみくしげさてのちにみくしげ殿どの殿どのどのののの御おん御おんおん事こと事ことこともいもいもいはははんにんにんに。。。中〳〵なかなか中〳〵なかなかなかなかそれそれそれはははなどかなからんなどなどかなからんなどなどかなからんなど。。。
  16. 16よきかたざまにおぼしめしけんよきかたざまにおぼしめしけんよきかたざまにおぼしめしけん。。。ふかくのふかくのふかくの事こと事ことことなりやななりやななりやな。。。
  17. 17事こと事ことことひがごとにあめりひがごとにあめりひがごとにあめり。。。故こ故ここ三條院さんでうゐん三條院さんでうゐんさんじょういんたび〳〵たび〳〵たびたび申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたましかどもしかどもしかども。。。とかくとかくとかく申まう申まうもうやりてたてまつらせざりしとこそきゝやりてたてまつらせざりしとこそきゝやりてたてまつらせざりしとこそきき侍さぶらひ侍さぶらひさぶらいしかしかしか。。。さればさればされば故院こゐん故院こゐんこいんもさむばれなくとももさむばれなくとももさむばれなくとも。。。たてゞたてゞたてではははとておはしましゝとておはしましゝとておわしましし也なり也なりなり。。。
  18. 18しかるべきとしかるべきとしかるべきとはははをををのづからののづからののずからの事こと事ことことををを申まう申まうもうさせてさせてさせて。。。皇后宮くわうごうぐう皇后宮くわうごうぐうこうごうぐうにもかくともにもかくともにもかくとも申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまはずはずわず。。。たゞたゞただ御心みこころ御心みこころみこころのまゝにのまゝにのままに殿どの殿どのどのににに御おん御おんおんせうそくせうそくしょうそく聞きこ聞きこきこえんとおぼしめすにえんとおぼしめすにえんとおぼしめすに。。。
  19. 19むつまじうさるべきむつまじうさるべきむつまじゅうさるべき人ひと人ひとひともものしもものしもものし給たま給たまたまはははねばねばねば。。。ののの權ごん權ごんごん太夫たいふ太夫たいふたいう殿どの殿どのどののおはしますのおはしますのおわします四條しでう四條しでうしじょうのののととと。。。にしのにしのにしの洞院とうゐん洞院とうゐんとういんとととははは宮みや宮みやみやちかきぞかしちかきぞかしちかきぞかし。。。それそれそれ計けい計けいけいをををことことこと人ひと人ひとひとよりよりよりはははとやおぼしめしよりけんとやおぼしめしよりけんとやおぼしめしよりけん。。。
  20. 20藏人くらうど藏人くらうどくろうどなにがしなにがしなにがしををを御おん御おんおんつかひにてあからさまにまいらせつかひにてあからさまにまいらせつかいにてあからさまにまいらせ給たま給たまたまへとあるへとあるえとあるををを。。。おぼしもかけぬおぼしもかけぬおぼしもかけぬ事こと事ことことなればおどろかせなればおどろかせなればおどろかせ給たま給たまたまててて。。。なにしにめすぞとゝはせなにしにめすぞとゝはせなにしにめすぞととわせ給たま給たまたまへばへばえば。。。
  21. 21申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまべきべきべき事こと事ことことのさぶらふにこそとのさぶらふにこそとのさぶらうにこそと申しん申しんしんををを。。。このきこゆるこのきこゆるこのきこゆる事こと事ことことどもにやとおぼせどどもにやとおぼせどどもにやとおぼせど。。。のかせのかせのかせ給たま給たまたまべきべきべき事こと事ことことにににはははさりともよにあらじさりともよにあらじさりともよにあらじ。。。みくしげみくしげみくしげ殿どの殿どのどのののの御おん御おんおん事こと事ことことならんとおぼすならんとおぼすならんとおぼす。。。
  22. 22いかにもわがいかにもわがいかにもわが御おん御おんおんこころこころこころひとつにひとつにひとつにはははおもふべきおもふべきおもうべき事こと事ことことならねばならねばならねば。。。おどろきながらまいりおどろきながらまいりおどろきながらまいり候さふらふ候さふらふそうろうべきべきべきををを。。。おとゞにあないおとゞにあないおとどにあない申まう申まうもうてなんさぶらふべきとてなんさぶらふべきとてなんさぶらうべきと申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまててて。。。まづまづまず殿どの殿どのどのにまいりにまいりにまいり給たま給たまたまへりへりえり。。。
  23. 23東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうよりよりよりしか〳〵しか〳〵しかしかなんおほせられたりつるとなんおほせられたりつるとなんおおせられたりつると申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまへばへばえば。。。殿どの殿どのどのもおどろかせもおどろかせもおどろかせ給たま給たまたまててて。。。なになになに事こと事ことことならんとおほせられながらならんとおほせられながらならんとおおせられながら。。。大夫殿だいぶどの大夫殿だいぶどのだいぶどのののの御おん御おんおんおなじやうにぞおぼしよられけるおなじやうにぞおぼしよられけるおなじょうにぞおぼしよられける。。。
  24. 24まことにみくしげまことにみくしげまことにみくしげ殿どの殿どのどのののの御おん御おんおん事こと事ことことののの給たま給たまたまはせんはせんわせんををを。。。いなびいなびいなび申まう申まうもうさんもびんなしさんもびんなしさんもびんなし。。。まいりまいりまいり給たま給たまたまなばなばなば又また又またまたさやうにおやしくてさやうにおやしくてさようにおやしくてはははあらせたてまつるべきならずあらせたてまつるべきならずあらせたてまつるべきならず。。。
  25. 25又また又またまたさてさてさてはははよのよのよの人ひと人ひとひとのますなるやうにのますなるやうにのますなるように。。。春宮とうぐう春宮とうぐうとうぐうのかせのかせのかせ給たま給たまたまはんのはんのわんの御おん御おんおんおもひあるべきならずかしとおもひあるべきならずかしとおもいあるべきならずかしとはははおぼせどおぼせどおぼせど。。。しかわざとめさんにしかわざとめさんにしかわざとめさんにはははいかでかまいらでいかでかまいらでいかでかまいらではははあらんあらんあらん。。。
  26. 26いかにものいかにものいかにもの給たま給たまたまはせんことはせんことわせんことをををきくべきなりときくべきなりときくべきなりと申まう申まうもうさせさせさせ給たま給たまたまへばへばえば。。。
  27. 27まいらせまいらせまいらせ給たま給たまたまほどほどおど日ひ日ひひもくれぬもくれぬもくれぬ。。。陣ぢん陣ぢんじんににに殿どの殿どのどのののの御車みくるま御車みくるまみくるまややや。。。ごぜんどものあるごぜんどものあるごぜんどものあるをををなまむづかしとおぼせどなまむづかしとおぼせどなまむずかしとおぼせど。。。かへらせかへらせかえらせ給たま給たまたまべきならねばべきならねばべきならねば。。。殿上てんじやう殿上てんじやうてんじょうにのぼらせにのぼらせにのぼらせ給たま給たまたまてまいりたるよしけいせさせよとてまいりたるよしけいせさせよとてまいりたるよしけいせさせよと。。。
  28. 28藏人くらうど藏人くらうどくろうどにたまはすればにたまはすればにたまわすれば。。。おおおほいほいほい殿どの殿どのどのののの御おん御おんおんまへにさぶらはせまへにさぶらはせまえにさぶらわせ給たま給たまたまへばへばえば。。。たゞたゞただ今いま今いまいまはははえなんえなんえなん申まう申まうもう候さふら候さふらそうらはぬときこえさするはぬときこえさするわぬときこえさする程ほど程ほどほど。。。みまみまみまはははさせさせさせ給たま給たまたまににに。。。庭には庭にはにわののの草くさ草くさくさもいともいともいと深ふか深ふかふかくくく。。。
  29. 29殿上てんじやう殿上てんじやうてんじょうのありのありのあり樣さま樣さまさまももも東宮とうぐう東宮とうぐうとうぐうのおはしますとのおはしますとのおわしますとはははみえずあさましうかたじけなげみえずあさましうかたじけなげみえずあさましゅうかたじけなげ也なり也なりなり。。。おおおほいほいほい殿どの殿どのどのいでいでいで給たま給たまたまててて。。。かくとけいすればかくとけいすればかくとけいすれば。。。給たま給たまたまててて。。。
  30. 30めしあればまいりめしあればまいりめしあればまいり給たま給たまたまへりへりえり。。。いとちかくこちとおほせられていとちかくこちとおほせられていとちかくこちとおおせられて。。。ものせらるゝものせらるゝものせらるる事こと事ことこともなきにもなきにもなきに。。。あないするもあないするもあないするもはゞかりおはゞかりおはばかりおほかれどほかれどほかれど。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(侍は)得意げに思っていたので、(こう語った)。「事の次第は、三条院がご存命のあいだはまだよかったのです。(院が)お亡くなりになってのちは、普通の東宮のご様子でもなく、殿上人などが参って御遊びをなさるとか、お世話申し上げる人などもなく、たいそう退屈で気の紛れようもなくお思いになるにつれて、気楽だったころのご様子ばかりが恋しく、ぼんやりしてしまうほどに思われなさったが、三条院がいらっしゃったあいだは、院の殿上人なども参り、お使いもしきりに行き来などして、人目も多く何かと慰められなさっていたのに、院がお亡くなりになってからは、世の中が何となく恐ろしく、大路の道の行き来もどうかと気がかりで、ふるまいにくいので、宮司などでさえ参上してお仕え申し上げることもまれになっていくので、まして下々の者の心はどうでしょう。主殿寮の下部も朝の掃除をお仕え申し上げることもないので、庭の草も茂りまさって、まことに恐れ多いお住まいでいらっしゃる。

まれに参り寄る人々は、世間で噂されていることとして、「三の宮(敦良親王)がこうして(東宮でなく)いらっしゃるのを、気の毒に殿(道長)も大宮(彰子)もお思い申し上げていらっしゃるので、もし帝に男宮でもお生まれになったら、どうなるだろう。差し障りの出ないうちに東宮にお立て申し上げたいものだとお思いになっているそうだ。だから(いずれ東宮の位を)無理に取られなさるだろう」などとばかり申すのを、本当ではないだろうけれど、いかにもありそうなことにも思われたからでしょうか、お聞きになるお気持ちは、いっそう落ち着かないようにお思いになって、むやみに取られるよりは、いっそ自分から退こうかとお思いになるところに、

また「高松殿の御匣殿(寛子)を(東宮に)参らせなさって、殿(道長)が華やかにおもてなし申し上げなさるそうだ」と、いつものことで、世の人がいろいろと取り沙汰申し上げるのを、皇后宮(娍子)がお聞きになって、たいそうお喜びになるが、東宮は「それはたいへん結構なことだけれど、そうなれば、いっそう私の思うことはできなくなるだろう。やはりこうしてはいられそうにない」とお思いになって、御母宮に「これこれと思っています」と申し上げなさると、「言うまでもないこと、まったくあってはならないことです。御匣殿のことこそ、本当なら進んでお受け申し上げなさるべきです。決してお思い寄りになってはなりません」と申し上げなさって、物の怪のしわざだと言ってご祈禱などをおさせになったが、まったく思いとどまりなさらないお心のうちを、どうして世間の人が聞いたのでしょう。

そうして「御匣殿を参らせ申し上げなさいませ」とでも(東宮が)申し上げなさるらしい、などということが殿(道長)のほうにも聞こえたので、(道長は)「本当にそのように心が動いておっしゃるなら、どうしたものか」などとお思いになる。さて東宮は、ついに(退位を)お思い立ちになった。そうして後で御匣殿のことも言い出したら、かえってそれはどうして(うまくいか)ないことがあろうか、などと、都合のよいようにお思いになったのでしょう。まことに思慮の深いことでしたよ。

壺切(の太刀を東宮に渡さなかったこと)などのことは、間違いのようです。故三条院がたびたび(渡すように)申しなさったけれど、何やかやと言い逃れて差し上げなかったと聞きました。ですから故院も「それならなくても、(東宮は)立てずにはおくまい」といって(そのままに)していらしたのです。

「しかるべきこと」とは自然のなりゆきのことを申したまでで、(東宮は)皇后宮にもこうとも申し上げなさらず、ただご自分の考えのままに、殿(道長)にお便りを申し上げようとお思いになるが、親しくてしかるべき人もいらっしゃらないので、中宮権大夫殿(能信)のいらっしゃる四条の坊門と西洞院とは、(東宮の御所に)近いのですよ。それだけを(理由に)ほかの人よりは(頼みになる)とお思い寄りになったのでしょうか。蔵人なにがしを使いとして、「ちょっと参上なさいませ」とおっしゃるのを、(能信は)思いもかけないことなので驚きなさって、「何のためにお召しになるのか」とお尋ねになると、「申し上げなさりたいことがございますので」と申すのを、「この噂されていることどもだろうか」とお思いになるが、「(東宮の位を)お退きになることは、いくらなんでもまさかあるまい。御匣殿のことだろう」とお思いになる。「どちらにしても、自分の一存で考えるべきことではないので、驚きながら参上すべきところですが、父の大臣に事情を申し上げてから参上いたしましょう」と申し上げなさって、まず殿のところに参上なさった。

「東宮からこれこれとおっしゃってきました」と申し上げなさると、殿も驚きなさって、「何事だろう」とおっしゃりながら、大夫殿と同じように(御匣殿のことと)お思い寄りになった。「本当に御匣殿のことをおっしゃるのなら、お断り申し上げるのも不都合だ。参られたなら、またそのように親しくないままにしておき申し上げるわけにもいかない。また、それでは世の人が言っているように、東宮をお退きになるお気持ちなどあるはずもないことだ」とはお思いになるが、「そのようにわざわざお召しになるのに、どうして参上しないでいられよう。とにかく、おっしゃることを聞くべきだ」と申し上げなさると、

(能信が)参上なさるころには日も暮れた。陣に左大臣殿(顕光)の御車や前駆どもがいるのを、何となく面倒だとお思いになったが、帰りなさるわけにもいかないので、殿上の間に上りなさって、「参上したことを申し上げさせよ」と蔵人におっしゃると、「大臣殿(顕光)が御前に控えていらっしゃるので、ただ今は申し上げられません」と申し上げるあいだ、見回しなさると、庭の草もたいそう深く、殿上の間の様子も東宮のいらっしゃる所とは見えず、あきれるほど恐れ多いありさまである。大臣殿が退出なさって、(蔵人が能信の参上を)申し上げると、(東宮は)朝餉の間の方にお出ましになって、お召しがあったので参上なさった。(東宮は)「ずっと近くにこちらへ」とおっしゃって、「(あなたは)ふだん来られることもないのに、案内するのも遠慮が多いけれど、

意訳

ここからは、それまで聞き役だった若侍が語り手となって、敦明親王の東宮辞退の内幕を詳しく語る。世継が「くわしい人がいれば聞きたい」と言ったのを受けたもので、語り手が交代する珍しい場面である。

三条院の死後、東宮の御所は火が消えたようになった。人々は道長の顔色をうかがって寄りつかず、宮司も来なくなり、掃除もされずに庭は草ぼうぼう。そこへ、道長は孫の敦良親王を東宮にしたがっている、いずれ東宮は位を奪われるだろう、という噂が届く。奪われるくらいなら自分から退こう、と東宮は考えはじめる。

道長の娘寛子を東宮の妃にするという話もあり、母の娍子は喜んだが、東宮は「そうなればますます自由がきかなくなる」と思う。東宮は、母にも言わず、近所に住む道長の子能信を使いにして、道長に意向を伝えようとする。能信も道長も、てっきり寛子の縁談の話だろうと思っていた。荒れ果てた東宮御所の殿上の間を見回す能信の目を通して、東宮の孤独が浮かび上がる。

語釈・文法注

けうわりげ
興ありげ。得意そうに。
ぼけ〳〵しき
ぼんやりとして気が抜けたさま。
宮司
東宮坊の役人。
とのもりづかさ
主殿寮。宮中の清掃・灯火などをつかさどる役所。
三宮
敦良親王。のちの後朱雀天皇。
みくしげどの
御匣殿。ここでは道長の娘寛子(999〜1025)。母は源明子(高松殿)。のち小一条院の妃となる。
たか松どの
高松殿。道長の妻源明子の邸、またその人。
つぼきり
壺切の御剣。
中宮の權太夫殿
藤原能信(995〜1065)。道長の四男。母は源明子。中宮(威子)の権大夫。のちに後三条天皇の即位に尽力した。
ばうもん
坊門。四条坊門小路。
左大臣殿
藤原顕光(944〜1021)。兼通の子。左大臣。娘の延子が敦明親王の妃であった。
あさがれい
朝餉の間。清涼殿などで天皇・東宮が日常の食事をとる部屋。

文法

おぼえさせ給けれど
「させ給ふ」の最高敬語は東宮に対するもの。
いかゞはあらん
反語。どうであろうか。
たてたてまつらばや
「ばや」は願望。お立て申し上げたいものだ。
われとやのきなまし
「や〜まし」は、ためらいを含む意志。自分から退こうかしら。
えせじ
「え〜じ」は不可能の推量。できないだろう。
いかでかよひともきゝけん
「いかでか〜けん」は疑問。どうして世間の人が聞いたのだろう。
いかでかまいらではあらん
反語。どうして参上しないでいられようか。

解説

敦明親王の東宮辞退の経緯は、『大鏡』のほか『栄花物語』巻十三「ゆふしで」にも詳しく、道長の日記『御堂関白記』や藤原実資の『小右記』にも記事がある。能信が使いとなったことは記録とも合う。

寛子は、敦明親王が東宮を退いて小一条院となったのち、その妃となった。道長は東宮を辞退させた代償として娘を嫁がせ、上皇に准じる待遇を与えた(第28章)。

「ふかくの事なりやな」の箇所は、底本が「さ」の字を「 」で囲んで衍字と示しているので、その字を除いて翻刻した。

関連

出典

底本
経済雑誌社編『国史大系』第17巻(大鏡) 経済雑誌社、明治34年(1901)、522〜525頁(コマ277–278)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日