大鏡 第2章
世継の語り始め
講師を待つ退屈なあいだに、翁たちは昔語りを始めようと言い出す。世継は、昔の賢い帝は老人に古い世のしきたりを尋ねたものだと胸を張り、自分が語りたいのは今の入道殿下(道長)の栄華だが、そのためには多くの帝・后・大臣の話をたどらねばならないと前置きして、文徳天皇から語り始める。
- 1かくてかくてかくてまつまつまつほどにほどにほどに。。。われもわれもわれも人人ひともももひさしうひさしうひさしゅうつれ〴〵つれ〴〵つれづれなるなるなるほどにほどにほどに。。。。。。いでいでいでさう〴〵さう〴〵そうぞうしきにいざしきにいざしきにいざ給給たまへへえ。。。むかしのものがたりしてむかしのものがたりしてむかしのものがたりして。。。
- 2このおこのおこのおはははさうさうそう人〳〵人〳〵ひとびとににに。。。さばいにしへのよさばいにしへのよさばいにしえのよはははかくこそかくこそかくこそはははありけれときかせありけれときかせありけれときかせ奉奉たてまつらんといふめればらんといふめればらんというめれば。。。いまいまいまひとりひとりひとり。。。しか〳〵しか〳〵しかしかいとけうあるいとけうあるいときょうある事事ことなりなりなり。。。
- 3いでおぼえいでおぼえいでおぼえ給給たまへへえ。。。とき〴〵とき〴〵ときどきさるべきさるべきさるべき事事ことのさしいらへのさしいらへのさしいらえ。。。しげきもしげきもしげきもうちおぼえうちおぼえうちおぼえ侍侍はべらんかしといひてらんかしといひてらんかしといいて。。。いはん〳〵いはん〳〵いわんいわんととと思思おもひたるけしきどもひたるけしきどもいたるけしきども。。。いつしかときかまほしくいつしかときかまほしくいつしかときかまほしく。。。
- 4おくゆかしきおくゆかしきおくゆかしき心心こころちするにちするにちするに。。。そこらのそこらのそこらの人人ひとおおお。。。ものものものはか〴〵はか〴〵はかばかしくきゝわきしくきゝわきしくききわき。。。みゝとゞむるもあらめどみゝとゞむるもあらめどみみとどむるもあらめど。。。人人ひとめにあらはれてめにあらはれてめにあらわれてははは。。。。。。
- 5よつぎがいふやうよつぎがいふやうよつぎがいうよう。。。世世よはははいかにけふあるものぞやいかにけふあるものぞやいかにけうあるものぞや。。。さりともおきなこそさりともおきなこそさりともおきなこそせう〳〵せう〳〵しょうしょうののの事事ことはははおぼえおぼえおぼえ侍侍はべらめらめらめ。。。むかしさかしきむかしさかしきむかしさかしき御門御門みかどののの御御おんまつりごとのおりまつりごとのおりまつりごとのおりははは。。。
- 6國國くにのののうちにうちにうちに年年としおいたるおいたるおいたる翁翁おきなをををむなやあるとめしたづねてむなやあるとめしたづねてむなやあるとめしたずねて。。。いにしへのおきてのありさまいにしへのおきてのありさまいにしえのおきてのありさまをををたづねとはしめたづねとはしめたずねとわしめ給給たまてこそてこそてこそははは。。。そうするそうするそうする事事ことをををきこしめしきこしめしきこしめし合合かててて世世よのまつりごとのまつりごとのまつりごとはははおこなはしめおこなはしめおこなわしめ給給たまひけれひけれいけれ。。。
- 7さればおいたるさればおいたるさればおいたる身身みはははいとかしこきものにいとかしこきものにいとかしこきものに侍侍はべりりり。。。わかきわかきわかき人人ひとだちおぼしなあなづりそとてだちおぼしなあなづりそとてだちおぼしなあなずりそとて。。。ほねのこゝのつあるにほねのこゝのつあるにほねのここのつあるに。。。きなるかみはりたるあふぎきなるかみはりたるあふぎきなるかみわりたるあうぎをををさしかくしてさしかくしてさしかくして。。。けしきだちわらふけしきだちわらふけしきだちわらうほどもほどもほども。。。さすがにおかしさすがにおかしさすがにおかし。。。
- 8まめやかにまめやかにまめやかにはははよつぎがよつぎがよつぎが申申もうさんとおもふさんとおもふさんとおもう事事ことはははこと〴〵こと〴〵ことごとかかかははは。。。たゞたゞただ今今いまののの入道殿下入道殿下にゅうどうでんかののの御御おんありさまのありさまのありさまの。。。よにすぐれておはしますことよにすぐれておはしますことよにすぐれておわしますことををを。。。道道みち俗俗ぞく男女男女なんにょののの御前御前おまえにてにてにて申申もうさむとさむとさむと思思おもふがふがうが。。。
- 9いといといと事事ことおほくなりておほくなりておおくなりて。。。あまたのみかどきさきあまたのみかどきさきあまたのみかどきさき。。。またまたまた大臣大臣だいじん公卿公卿くぎょうののの御御おんうへうへうえをををつゞくべきなりつゞくべきなりつづくべきなり。。。そのそのその中中なか人人ひとにおはしますにおはしますにおわします。。。このこのこの御御おんありさまありさまありさま申申もうさんとおもふさんとおもふさんとおもうほどにほどにほどに。。。
- 10世世よののの中中なかののの事事ことのかくれなくあらはるべきのかくれなくあらはるべきのかくれなくあらわるべき也也なり。。。つてにつてにつてにうけうけうけ給給たまはればはればわれば。。。一部一部いちぶをををときたてまつらんとてこそときたてまつらんとてこそときたてまつらんとてこそ。。。まづまづまずけうけうきょうをばをばをばときときとき給給たまけれけれけれ。。。
- 11それそれそれをををなづけてなづけてなずけてとととはははいふにこそいふにこそいうにこそはははあんなれあんなれあんなれ。。。しかのごとくにしかのごとくにしかのごとくに入道殿入道殿にゅうどうどのののの御御おんさかへさかへさかえををを申申もうさんとおもふさんとおもふさんとおもうほどにほどにほどに。。。。。。
- 12わざ〳〵わざ〳〵わざわざしうしうしゅうこと〳〵こと〳〵ことことしうきこゆれどしうきこゆれどしゅうきこゆれど。。。いでやさりともなにばかりのいでやさりともなにばかりのいでやさりともなにばかりの事事ことをををかとかとかと思思おもふにふにうに。。。いみじうこそいひつゞけいみじうこそいひつゞけいみじゅうこそいいつづけ侍侍さぶらいしかしかしか。。。
- 13世間世間せけんののの攝政關白攝政關白せっしょうかんぱくととと申申もう。。。大臣大臣だいじん公卿公卿くぎょうときこゆるときこゆるときこゆる。。。いにしへいにしへいにしえ今今いまののの時時ときののの入道殿入道殿にゅうどうどのののの御御おんありさまのやうにこそありさまのやうにこそありさまのようにこそはははおはしますらめとぞおはしますらめとぞおわしますらめとぞ。。。いまやうのちごどもいまやうのちごどもいまようのちごどもはははおもふらんかしおもふらんかしおもうらんかし。。。
- 14されどそれさもあらぬされどそれさもあらぬされどそれさもあらぬ事事ことなりなりなり。。。いひもていけばいひもていけばいいもていけば。。。おなじたねおなじたねおなじたねひとつすぢにぞおはすめれどひとつすぢにぞおはすめれどひとつすじにぞおわすめれど。。。かどわかれぬればかどわかれぬればかどわかれぬれば。。。人〳〵人〳〵ひとびとののの御心御心みこころもちゐももちゐももちいも。。。又又またそれにしたがひてそれにしたがひてそれにしたがいてこと〴〵こと〴〵ことごとになりぬになりぬになりぬ。。。
- 15このよはじまりてのちこのよはじまりてのちこのよわじまりてのち。。。みかどみかどみかどはははまづまづまずののの世世よ七代七代しちだいををおゝきゝきおき奉奉たてまつりてりてりて。。。をををはじめはじめはじめ奉奉たてまつりてりてりて。。。までまでまで六十八代六十八代ろくじゅうはちだいにぞならせにぞならせにぞならせ給給たまにけるにけるにける。。。すべからくすべからくすべからくははは神武天皇神武天皇じんむてんのうをををはじめはじめはじめ奉奉たてまつりてりてりて。。。
- 16つぎ〳〵つぎ〳〵つぎつぎののの御門御門みかどののの御御おんしだいしだいしだいををを覺覺おぼえええ申申もうべきなりべきなりべきなり。。。しかりといへどもそれしかりといへどもそれしかりといえどもそれはははいときゝみゝといときゝみゝといとききみみとをををければければければ。。。たゞちかきたゞちかきただちかきほどよりほどよりほどより申申もうさむとさむとさむと思思おもふにふにうに侍侍はべりりり。。。
- 17ととと申申もうすすす御門御門みかどおはしましきおはしましきおわしましき。。。其其そのみかどよりこなたみかどよりこなたみかどよりこなた。。。今今いまののの御門御門みかどまでまでまで十四代十四代じゅうしだいにぞならせにぞならせにぞならせ給給たまにけるにけるにける。。。世世よをををかぞかぞかぞへへへ侍侍はべればればれば。。。そのみかどそのみかどそのみかど位位くらいにつかせにつかせにつかせ給給たまふふう三年三年さんねん庚午庚午かのえうま歲歲としよりことしまでよりことしまでよりことしまでははは。。。
- 18一百七十六年一百七十六年ひゃくしちじゅうろくねん計計ばかりにやなりぬらんにやなりぬらんにやなりぬらん。。。かけまくもかしこききみのみなかけまくもかしこききみのみなかけまくもかしこききみのみなををを申申もうすすすははは。。。かたじけなくさぶらへどもとていひつゞけかたじけなくさぶらへどもとていひつゞけかたじけなくさぶらえどもとていいつづけ侍侍はべりきりきりき。。。
現代語訳
こうして講師を待つあいだ、私もほかの人も長いこと退屈していたところ、この翁たちが言うことには、「さあ、手持ちぶさただから、どうです、昔話をして、ここにおいでの方々に、さては昔の世はこんなふうだったのかとお聞かせ申し上げましょう」と言うようなので、もう一人が、「そうそう、それはたいへんおもしろいことだ。さあ思い出してください。ときどきはしかるべきことの合いの手を、繁樹も思い出して入れましょう」と言って、話したい話したいと思っている様子です。早く聞きたい、先が知りたいという気持ちがするなかで、大勢の人がいたけれども、ものをはっきりと聞き分けて耳をとめる人もあったでしょうが、人目にはっきりと、この侍こそがよく聞こうとして相づちを打っているようでした。
世継が言うことには、「世の中というのは、なんと今日まで続いてきたものでしょう。それにしても、この翁こそ少しのことは覚えておりましょう。昔、賢い帝の御政治のときには、国の中に年老いた翁や媼がいるかとお召し出しになって、昔のしきたりのありさまをお尋ねになってこそ、その申し上げることをお聞き合わせになって、世の政治はお行わせになったのです。ですから年老いた身は、たいへん尊いものなのです。若い方々、ばかにしてはなりませんぞ」と言って、黒柿の骨が九本ある扇に黄色い紙を張ったものを顔にさしかざして、もったいぶって笑うさまも、さすがにおもしろい。
「まじめな話、世継が申し上げようと思うことは、ほかのことでありましょうか。ただ今の入道殿下(藤原道長)のご様子が、世にすぐれていらっしゃることを、出家の方・俗人、男も女もいらっしゃる前で申し上げようと思うのですが、それがたいへん話が多くなって、たくさんの帝や后、また大臣・公卿の御身の上を続けて語らねばならないのです。その中で、幸い人でいらっしゃる、この方のご様子を申し上げようと思ううちに、世の中のことが隠れなくあらわれてくるはずなのです。人づてに承りますと、(お釈迦様は)法華経一部をお説き申し上げようとして、まず四教をお説きになったのです。それを名づけて五時教というのでしょう。そのように、入道殿のご繁栄を申し上げようとするうちに、余教(ほかの話)が説かれることになる、と言ってよいでしょう」などと言うのも、ことさらにおおげさに聞こえるけれども、いや、それにしてもたいしたことはあるまいと思っていたところ、たいそう見事に語り続けたのでした。
「世間で摂政・関白と申し、大臣・公卿と申し上げる方々は、昔も今も、今の時の入道殿のご様子のようでいらっしゃるのだろうと、今どきの若い人たちは思っているでしょう。けれどもそれは、そうでもないことです。たどっていけば、同じ種、一つの血筋でいらっしゃるようですが、門(家)が分かれてしまうと、人々のお心づかいも、またそれに従って別々になってしまいます。
この世が始まってのち、帝は、まず神の世の七代をおき申し上げて、神武天皇を初めとして、今上(後一条天皇)まで六十八代におなりになりました。本来なら神武天皇をはじめとして、次々の帝のご次第を思い出して申し上げるべきです。しかしそれは、聞いてもたいへん耳遠いことですから、ただ近いところから申し上げようと思うのです。文徳天皇と申し上げる帝がいらっしゃいました。その帝から今の帝まで、十四代におなりになりました。年を数えますと、その帝が位にお即きになった嘉祥三年庚午の年から今年までは、百七十六年ほどになるでしょうか。口にするのも恐れ多い帝のお名前を申し上げるのは、もったいないことでございますが」と言って、語り続けたのでした。
意訳
講師を待つ退屈しのぎに、いよいよ世継の昔語りが始まる。世継は、昔の賢帝は老人の知恵に学んだと言って、若い人たちに「年寄りをばかにするな」と釘をさす。扇で顔を隠して得意げに笑うしぐさまで書きとめられているのが、いかにも芝居がかっていておもしろい。
ここで世継は、この長い物語の目的をはっきりと示す。語りたいのは「ただ今の入道殿下」道長の比類のない栄華である。しかし、それを語るには、そこに至るまでの帝・后・大臣たちの話をたどらねばならない。釈迦が法華経を説く前に、まず四つの教え(四教)を説いたのと同じだ、と仏教のたとえを持ち出すあたりにも、菩提講の場らしい語り口がうかがえる。
さらに世継は、同じ藤原氏でも「門」が分かれれば心のありようも違ってくると述べ、道長が特別の人であることを予告する。そして神武天皇から数えて六十八代の帝のうち、文徳天皇から当代(後一条天皇)までの十四代、百七十六年の歴史を語ると宣言する。こうして「帝紀」が始まる。
語釈・文法注
- 講師
- 法会で経典を講説する僧。
- あどうつ
- 相手の話に調子を合わせて相づちを打つ。
- くろがいのほね
- 黒柿(くろがき)の木で作った扇の骨。
- きなるかみ
- 黄色い紙。黄色の紙を張った扇は老人の持ち物とされた。
- さいはひ人
- 幸運に恵まれた人。ここでは道長を指す。
- 法花經
- 法華経。大乗仏教の代表的な経典。
- 四けう
- 四教。天台宗で、釈迦の教えを四つに分けたもの(蔵・通・別・円)。
- 五時敎
- 五時教。天台宗で、釈迦が一生に説いた教えを五つの時期に分けたもの。最後の法華涅槃時に法華経が説かれたとする。
- よけう
- 余教。法華経以外の教え。ここでは道長以外の人々の話を指す。
- かどわかれぬれば
- 一門・一家が分かれてしまうと。
- 神の世七代
- 天地が開けてから伊奘諾尊・伊奘冉尊までの七代の神々。
- 神武天皇
- 初代の天皇とされる。
- 當帝
- 今上天皇。ここでは後一条天皇。
- 文德天皇
- 第五十五代の天皇(827〜858)。在位850〜858。
- 嘉祥三年
- 850年。
文法
- いざ給へ
- 「いざ」は誘う語、「給へ」は「給ふ」の命令形。さあいらっしゃい、さあどうです。
- きかせ奉らん
- 「せ」は使役、「奉ら」は謙譲の補助動詞、「ん」は意志。お聞かせ申し上げよう。
- おぼしなあなづりそ
- 「な〜そ」は禁止。軽んじてお思いになるな。
- こと〴〵かは
- 「かは」は反語。ほかのことであろうか、いやほかのことではない。
- いひつべし
- 「つ」は強意、「べし」は当然。きっと言ってよいだろう。
- いみじうこそいひつゞけ侍しか
- 「しか」は過去「き」の已然形で「こそ」の結び。語り手が自分の体験した過去を語る「き」。
- かけまくもかしこき
- 口にかけて言うのも恐れ多い。神や天皇について言うときの決まった言い方。
解説
世継が持ち出す「五時教」のたとえは、天台宗の教判(釈迦の教えの分類)による。釈迦は最後に法華経を説くために、その前にさまざまな教えを説いた。それと同じく、道長の栄華を語るために、まず多くの人々の話をするのだという。菩提講で法華経の講説を待つという場にふさわしいたとえである。
「六十八代」は、神武天皇から後一条天皇までの代数。神功皇后を数えに入れるなど、当時の数え方は今日の歴代天皇の代数とは少し違い、今日の数え方では後一条天皇は第六十八代にあたる。文徳天皇が即位した嘉祥三年(850)から、物語の「今」である万寿二年(1025)までは百七十六年になる(数え年の数え方)。
この作品は、帝の事跡を記す「帝紀」と大臣の伝記を記す「列伝」からなり、中国の正史『史記』の紀伝体にならっている。ただし、大臣列伝にこそ本当の主題があることは、この序の段階ではっきりと示されている。
関連
出典
- 底本
- 経済雑誌社編『国史大系』第17巻(大鏡) 経済雑誌社、明治34年(1901)、462〜464頁(コマ247–248)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日