古典ライブラリー

おくのほそ道 第46章

種の浜

八月十六日、西行が詠んだ「ますほの小貝」を拾おうと、舟で敦賀湾の色の浜に渡る。わびしい漁村の法華寺で茶を飲み酒を温め、夕暮れの寂しさを味わって、「寂しさや須磨にかちたる濱の秋」「浪の間や小貝にまじる萩の塵」と詠む。

夕暮れの色の浜、波打ち際に打ち寄せる小さな桜色の貝と萩の花びら(AI生成)
夕暮れの色の浜、波打ち際に打ち寄せる小さな桜色の貝と萩の花びら
  1. 1十六日じふろくにち十六日じふろくにちじゅうろくにち、、、空霽そらはれ空霽そらはれそらはれたればたればたれば、、、ますほのますほのますおのひろひろひろはははんとんとんと、、、ののの濱はま濱はまはまににに舟ふね舟ふねふねををを走はしら走はしらはしらすすす。。。海上七里かいしやうしちり海上七里かいしやうしちりかいしょうしちりありありあり。。。ととと云い云いいものものもの、、、などこまやかにしたゝめさせなどこまやかにしたゝめさせなどこまやかにしたためさせ、、、僕しもべ僕しもべしもべあまたあまたあまた舟ふね舟ふねふねにとりのせてにとりのせてにとりのせて、、、追風時おひかぜときの追風時おひかぜときのおいかぜときのののの間ま間ままににに吹着ふきつき吹着ふきつきふきつきぬぬぬ。。。
  2. 2濱はま濱はまはまはははわづかなるわづかなるわずかなる海士あま海士あまあまののの小家こいへ小家こいへこいえにてにてにて、、、侘わび侘わびわびしきしきしきありありあり。。。爰ここ爰ここここににに茶ちや茶ちやちゃををを飲のみ飲のみのみ、、、酒さけ酒さけさけをををあたゝめてあたゝめてあたためて、、、夕ゆふ夕ゆふゆうぐれのさびしさぐれのさびしさぐれのさびしさ感かん感かんかんににに堪たへ堪たへたえたりたりたり。。。
  3. 3寂さび寂さびさびしさやしさやしさやにかちたるにかちたるにかちたる濱はま濱はまはまののの秋あき秋あきあき
  4. 4浪なみ浪なみなみののの間ま間ままややや小貝こがひ小貝こがひこがいにまじるにまじるにまじる萩はぎ萩はぎはぎののの塵ちり塵ちりちり
  5. 5其そ其そそ日ひ日ひひのあらましのあらましのあらまし、、、等栽とうさい等栽とうさいとうさいににに筆ふで筆ふでふでをををとらせてとらせてとらせて寺てら寺てらてらににに殘のこ殘のこのこすすす。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

十六日、空が晴れたので、ますほの小貝を拾おうと、色の浜に舟を走らせる。海上七里である。天屋何某という者が、弁当や酒の竹筒などを心こめて用意させ、使用人を大勢舟に乗せて、追い風に吹かれてたちまち浜に着いた。浜は、わずかばかりの漁師の小家があるだけで、わびしい法華寺がある。そこで茶を飲み、酒を温めて、夕暮れの寂しさに深く感じ入った。

寂しさや須磨にかちたる濱の秋(なんという寂しさだろう。秋の寂しさで知られる須磨の浦にも、この浜の秋の寂しさはまさっている)

浪の間や小貝にまじる萩の塵(寄せては返す波の間に、小さな貝にまじって、萩の花びらが散っている)

その日の様子を、等栽に書かせて寺に残した。

意訳

色の浜は、西行が「潮染むるますほの小貝拾ふとて色の浜とはいふにやあるらむ」と詠んだ浜である。芭蕉は西行の歌の跡をたずね、桜色の小さな貝を拾いに舟で渡った。

人家もまばらなわびしい浜で迎える秋の夕暮れ。『源氏物語』で光源氏がわび住まいをした須磨は、秋の寂しさの代表とされてきた。芭蕉は、この色の浜の寂しさは須磨にもまさると詠み、古典の寂しさを越える、目の前の寂しさを見いだしている。

二句目は、波打ち際の小さな貝と萩の花びらという、可憐で小さなものに目を向ける。寂しさの中に美しさを見いだす芭蕉のまなざしが、旅の終わり近くの静かな心境を伝えている。

語釈・文法注

ますほの小貝
赤みをおびた小さな貝。西行の「潮染むるますほの小貝拾ふとて色の浜とはいふにやあるらむ」(山家集)による。
種の濱
色の浜。敦賀湾の北西岸の浜。福井県敦賀市色浜。「種」を「いろ」と読む。
天屋何某
天屋五郎右衛門。敦賀の廻船問屋で、俳号は玄流。
破籠小竹筒
破籠(わりご)は檜の薄板で作った、仕切りのある弁当箱。小竹筒(ささえ)は酒を入れる竹筒。
法花寺
法華宗の寺。色の浜の本隆寺。
須磨
摂津国の須磨。光源氏や在原行平がわび住まいをした所として、秋の寂しさの代表とされた歌枕。

文法

ひろはんと
「ん」は意志。拾おうと。
したゝめさせ
「したため」は用意する、「させ」は使役。用意させて。
吹着ぬ
「ぬ」は完了。吹かれて着いた。
感に堪たり
感慨に堪えないほどである。深く感じ入った。
須磨にかちたる
「かち」は「勝つ」。須磨にまさっている。

発句・和歌

寂しさや須磨にかちたる濱の秋

作者
松尾芭蕉
状況
敦賀の色の浜で、秋の夕暮れの寂しさを、古来秋の寂しさの代表とされた須磨と比べて詠んだ句。季語は「秋」。

修辞

季語
秋。
切れ字
「や」。
比較
須磨(『源氏物語』の須磨の巻など)。

浪の間や小貝にまじる萩の塵

作者
松尾芭蕉
状況
色の浜の波打ち際で、ますほの小貝にまじって萩の花びらが打ち寄せられているさまを詠んだ句。季語は「萩」で秋。

修辞

季語
萩。秋。
切れ字
「や」。

解説

色の浜の本隆寺には、等栽が書いたこの日の記録「本隆寺の記」が今も残っている。本文の「等栽に筆をとらせて寺に殘す」がそれである。

「ますほの小貝」は、今は「ますほ貝」と呼ばれる小さな二枚貝で、色の浜の砂浜に今も打ち寄せられる。西行の歌枕をたずねる旅は、こうして最後まで続いた。

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出典

底本
藤村作編『奥の細道』 至文堂、昭和5年(1930)、35頁(コマ26)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日