おくのほそ道 第44章
等栽
福井で、十年余り前に江戸で会った隠士の等栽を訪ねる。夕顔やへちまの這う小家で、侘しげな妻に迎えられ、物語の一場面のような風情を味わう。等栽の家に二晩泊まり、中秋の名月を敦賀の港で見ようと、裾をからげた等栽と連れ立って旅立つ。

- 1ははは三里計三里計さんりばかりなればなればなれば、、、夕飯夕飯ゆうめししたゝめてしたゝめてしたためて出出いずるにるにるに、、、たそがれのたそがれのたそがれの路路みちたど〳〵したど〳〵したどたどし。。。爰爰ここにににととと云古云古いうふるききき。。。いづれのいづれのいずれの年年としにかにかにか、、、江戸江戸えどににに來來きたりてりてりて予予よををを尋尋たず。。。
- 2遙十遙十はるかととせとせとせ餘餘あまりりり也也なり。。。いかにいかにいかにさらぼひてさらぼひてさらぼいて有有あるにやにやにや、、、將死將死はたしにけるにやとけるにやとけるにやと人人ひとににに尋尋たず侍侍はべればればれば、、、いまだいまだいまだ存命存命ぞんめいしてしてしてそこ〳〵そこ〳〵そこそこととと敎敎おしえゆゆゆ。。。市中市中しちゅうひそかにひそかにひそかに引入引入ひきいりててて、、、あやしのあやしのあやしの小家小家こいえにににへへへちまのちまのちまのはははえかゝりてえかゝりてえかかりて、、、鷄頭鷄頭けいとうゝゝは木々木々ぎぎにににぼそぼそぼそをををかくすかくすかくす。。。
- 3さてさてさてははは此此このうちにこそとうちにこそとうちにこそと門門もんををを扣扣たたけばばば、、、侘侘わびしげなるしげなるしげなる女女おんなののの出出でててて、、、いづくよりわたりいづくよりわたりいずくよりわたり給給たまふふうののの御坊御坊ごぼうにやにやにや。。。あるじあるじあるじははは、、、此此こあたりのあたりのあたりの何何なにがしとがしとがしと云云いものゝものゝものの方方かたににに行行ゆぬぬぬ。。。
- 4もしもしもし用用ようあらばあらばあらば尋尋たず給給たまへといふへといふえという。。。かれがかれがかれが妻妻つまなるべしとしらるなるべしとしらるなるべしとしらる。。。むかしむかしむかし物物ものがたりにこそかゝるがたりにこそかゝるがたりにこそかかる風情風情ふぜいははは侍侍はべれとれとれと、、、やがてやがてやがて尋尋たずねあひてねあひてねあいて、、、そのそのその家家いえににに二夜二夜ふたよとまりてとまりてとまりて、、、名月名月めいげつはははつるがのみなとにとたびつるがのみなとにとたびつるがのみなとにとたび立立た。。。
- 5等栽等栽とうさいももも共共ともににに送送おくらんとらんとらんと、、、裾裾すそおかしうからげておかしうからげておかしゅうからげて、、、路路みちのののとととうかれうかれうかれ立立た。。。
現代語訳
福井は三里ほどなので、夕食をすませてから出かけると、夕暮れの道はたどたどしい。ここに等栽という古くからの隠者がいる。いつの年だったか、江戸に来て私を訪ねてきた。もうはるか十年あまり前のことである。どんなに年老いてやつれていることか、あるいはもう死んでしまったかと、人に尋ねると、まだ生きていて、どこそこにいると教えてくれる。町の中の、人目につかない奥まった所に、粗末な小家があって、夕顔やへちまのつるが這いかかり、鶏頭や箒木が戸口をおおい隠している。さてはこの家だなと門をたたくと、侘しげな女が出てきて、「どちらからおいでになったお坊さまですか。主人はこのあたりのなにがしという者の所へ行っています。もし用があるなら、そちらをお訪ねください」と言う。等栽の妻であるらしい。昔の物語の中にこそ、このような風情はあるものだと思いつつ、やがて等栽を訪ね当てて、その家に二晩泊まり、名月は敦賀の港で見ようと旅立った。等栽もいっしょに見送ろうと、着物の裾をおかしな格好にからげて、道案内をすると浮かれて出かけた。
意訳
芭蕉は、生きているかどうかもわからない旧知の隠者を、人に尋ねながら訪ね歩く。夕顔・へちま・鶏頭・箒木の茂る小家、そこから出てくる侘しげな女――『源氏物語』の夕顔の巻を思わせる場面である。芭蕉自身、「むかし物がたりにこそかゝる風情は侍れ」と、物語の世界に入りこんだような感慨をもらす。
等栽は、貧しくとも風雅を楽しむ隠者で、名月の旅の道案内を買って出る。「裾おかしうからげて」「うかれ立」には、気のいい老人の人柄が、ユーモラスに描かれている。曾良・北枝と別れて一人になった芭蕉に、新しい旅の道連れが加わった。
語釈・文法注
- 福井
- 越前国福井。福井藩の城下町。
- 等栽
- 洞哉(とうさい)。福井の俳人。底本は「等栽」と刷る。
- 隱士
- 世を避けて隠れ住む人。隠者。
- 老さらぼひて
- ひどく年老いて、やつれて。
- 夕皃
- 夕顔。夏の夕方に白い花を咲かせるウリ科のつる草。『源氏物語』の「夕顔」を思わせる。
- はゝ木々
- 箒木(ははきぎ)。ほうき草。
- 戸ぼそ
- 戸口。
- 道心の御坊
- 仏道に入った僧。
- 路の枝折
- 道案内。木の枝を折って道しるべとしたことから。
文法
- 有にや、將死けるにや
- 「有にや」の後に「あらむ」、「死けるにや」の後に「あらむ」が略されている。生きているのであろうか、それとも死んだのであろうか。
- 此うちにこそ
- 「こそ」の結びの「あれ」などが略されている。
- 御坊にや
- 「にや」の後に「あらむ」が略されている。
- 侍れ
- 「こそ」の結びで、「侍り」の已然形。
- うかれ立
- 浮かれて出かける。
解説
洞哉は福井の俳人で、芭蕉の門人ではないが、江戸で芭蕉と知り合っていた。芭蕉は洞哉の家に二泊して、八月十二日ごろ福井を発ち、洞哉とともに敦賀へ向かったと考えられている。
この章には句がないが、夕顔の咲く家、侘しげな女、隠れ住む老人と、『源氏物語』夕顔の巻を思わせる道具立てが重ねられ、物語的な趣の濃い一章となっている。
関連
出典
- 底本
- 藤村作編『奥の細道』 至文堂、昭和5年(1930)、33〜34頁(コマ25–26)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日