おくのほそ道 第39章
那谷
山中温泉へ向かう途中、那谷寺に立ち寄る。花山法皇が西国三十三所の巡礼を終えて観音像を安置し、那智・谷汲の名から那谷と名づけたという。奇石の上に建つ小堂の清らかさに、「石山の石より白し秋の風」と詠む。

- 1山中山中やまなかののの溫泉溫泉いでゆににに行行ゆほどほどおど、、、ががが嶽後嶽後だけあとにみなしてあゆむにみなしてあゆむにみなしてあゆむ。。。左左ひだりののの山際山際やまぎわにににありありあり。。。のののののの順順じゅん禮禮れいとげさせとげさせとげさせ給給たまひてひていて後後のち、、、大慈大悲大慈大悲だいじだいひののの像像ぞうををを安置安置あんちししし給給たまひてひていて、、、那谷那谷なたととと名付給名付給なづけたまふとやふとやうとや。。。
- 2ののの二字二字にじをををわかちわかちわかち侍侍はべりしとぞしとぞしとぞ。。。さま〴〵にさま〴〵にさまざまに、、、古松植古松植こしょううえならべてならべてならべて、、、萱萱かやぶきのぶきのぶきの小堂岩小堂岩しょうどういわののの上上うえににに造造つくりかけてりかけてりかけて、、、殊勝殊勝しゅしょうののの土地也土地也とちなり。。。
- 3ののの石石いしよりよりより白白しろししし秋秋あきののの風風かぜ
現代語訳
山中温泉に向かう途中、白山を後ろに見ながら歩いていく。左手の山際に観音堂がある。花山法皇が西国三十三所の巡礼を終えられたのち、大慈大悲の観音像を安置されて、那谷と名づけられたということだ。那智と谷汲の二つの名から一字ずつとったのだという。さまざまな形の奇石が並び、古い松が植え並べられて、萱ぶきの小さな堂が岩の上に建てかけてあって、まことに尊い土地である。
石山の石より白し秋の風(この那谷寺の岩山の石は、近江の石山寺の石よりも白く見える。そこを吹く秋風は、さらに白く澄みわたっている)
意訳
那谷寺は、白い凝灰岩の奇岩が連なる、独特の景観の寺である。芭蕉は寺の縁起をたどり、岩の上に建つ小堂のたたずまいに「殊勝の土地」と心を打たれる。
句は、近江の名刹、石山寺の白い石と比べて、那谷の石はもっと白い、とする。さらに、中国の五行説では秋の色を白とし、秋風を「白風」とも呼ぶ。白い石の上を吹きわたる秋風の、透き通るような清らかさと寂しさを、「白し」の一語でとらえている。
語釈・文法注
- 白根が嶽
- 白山。加賀・越前・美濃にまたがる霊山。
- 觀音堂
- 那谷寺。石川県小松市那谷町。真言宗の寺。
- 花山の法皇
- 花山法皇(968〜1008)。出家後、西国三十三所の観音霊場を巡礼したと伝えられる。
- 三十三所
- 西国三十三所の観音霊場。
- 那智谷組
- 那智と谷汲。西国三十三所の第一番、那智山青岸渡寺と、第三十三番、谷汲山華厳寺。底本は「谷組」と刷る。
- 奇石
- 珍しい形の石。
- 石山
- 近江の石山寺。境内の大きな白い岩(硅灰石)で知られる。
文法
- みなして
- 「見なして」。(白山を)後ろに見て。
- 名付給ふとや
- 「とや」の後に「言ふ」などが略されている。名づけられたとかいうことだ。
- わかち侍しとぞ
- 「とぞ」の後に「言ふ」などが略されている。分けてとったということだ。
- 白し
- 形容詞「白し」の終止形で、句はここで切れる(二句切れ)。
発句・和歌
石山の石より白し秋の風
- 作者
- 松尾芭蕉
- 状況
- 那谷寺の白い岩山を見て詠んだ句。近江の石山寺の石と比べ、白い石の上を吹く秋風の清らかさを詠む。季語は「秋の風」で秋。
修辞
- 季語
- 秋の風。秋。
- 比較
- 石山寺の石と那谷寺の石。
- 色彩の感覚
- 五行説で秋の色は白。秋風を「白風(素風)」ともいう。
解説
曾良の『随行日記』によれば、那谷寺を訪れたのは、山中温泉に滞在中の八月五日で、本文のように山中に向かう途中ではない。本文では道順を整理し、山中温泉の章の前に置いている。
那谷寺は養老元年(717)に泰澄が開いたと伝え、花山法皇の命名の話は寺の縁起による。境内の奇岩遊仙境は、白っぽい岩肌が波のように続く景観で、今も多くの参拝者が訪れる。
関連
出典
- 底本
- 藤村作編『奥の細道』 至文堂、昭和5年(1930)、31頁(コマ24)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日