おくのほそ道 第29章
最上川
最上川を舟で下ろうと、大石田で日和を待つ。土地の人々の熱意に応えて俳諧一巻を巻く。最上川の水源や、碁点・隼の難所、白糸の滝や仙人堂を描き、水かさの増した急流を舟で下る体験を「五月雨をあつめて早し最上川」と詠む。
- 1最上川最上川もがみがわのらんとのらんとのらんと、、、ととと云云い所所ところににに日日ひ和和わををを待待ま。。。爰爰ここににに古古ふるきききののの種種たねこぼれてこぼれてこぼれて、、、忘忘わすれぬれぬれぬ花花はなのむかしのむかしのむかしをををしたひしたひしたい、、、ののの心心こころをやをやをやはらげはらげはらげ、、、此此こ道道みちにさぐりあしゝてにさぐりあしゝてにさぐりあしして、、、ふたふたふた道道みちにあゆみまよふといへどもにあゆみまよふといへどもにあゆみまようといえども、、、みちしるべするみちしるべするみちしるべする人人ひとしなければしなければしなければ、、、ことはりなきことはりなきことわりなき一巻殘一巻殘ひとまきのこしぬしぬしぬ。。。このたびのこのたびのこのたびの風流爰風流爰ふうりゅうここににに至至いたれりれりれり。。。
- 2最上川最上川もがみがわははは、、、みちのくよりみちのくよりみちのくより出出でててて、、、山形山形やまがたををを水上水上みなかみとすとすとす。。。、、、はやぶさなどはやぶさなどはやぶさなど云云いおそろしきおそろしきおそろしき難所有難所有なんじょあり。。。ののの北北きたををを流流ながててて、、、果果はてははは酒田酒田さかたののの海海うみににに入入い。。。
- 3左右山覆左右山覆さゆうやまおおひひい、、、茂茂しげみのみのみの中中なかににに船船ふねををを下下くだすすす。。。是是これににに稻稻いねつみたるつみたるつみたるをやをやをや船船ふねといふならしといふならしというならし。。。ののの瀧瀧たきははは、、、青葉青葉あおばののの隙〳〵隙〳〵ひまいまににに落落おててて、、、ににに臨臨のぞみててて立立た。。。水水みずみなぎつてみなぎつてみなぎつて舟舟ふねあやうしあやうしあようし。。。
- 4五月雨五月雨さみだれをををあつめてあつめてあつめて早早はやししし最上川最上川もがみがわ
現代語訳
最上川を舟で下ろうと思い、大石田という所で天気のよくなるのを待つ。この土地には、昔、俳諧の種がこぼれて根づき、今もその花の盛んだった昔を忘れずに慕っていて、蘆笛を吹くような田舎びた俳諧で人々の心をなぐさめ、この道を手さぐりで歩みながら、新しい俳諧と古い俳諧の二つの道のどちらへ進むべきか迷っているけれども、道しるべとなる人がいないので、と頼まれて、筋道のない一巻を残した。今度の旅の風流は、ここまでおよんだのである。
最上川は、陸奥から流れ出て、山形を上流としている。碁点・隼などという恐ろしい難所がある。板敷山の北を流れて、最後は酒田の海に注いでいる。左右から山がおおいかぶさり、茂みの中を船で下っていく。これに稲を積んだものを稲船というのであろう。白糸の滝は、青葉の茂みのすきまに落ちていて、仙人堂は岸に面して建っている。水があふれるほどみなぎって、舟は危ないほどである。
五月雨をあつめて早し最上川(降り続いた五月雨を集めて水かさを増し、最上川はなんと流れが速いことか)
意訳
大石田では、地元の俳人たちが芭蕉を迎え、歌仙を巻いた。彼らは田舎で自己流に俳諧を学び、新しい俳風と古い俳風のどちらを学ぶべきか迷っていた。芭蕉は求めに応じて一巻を残し、「このたびの風流爰に至れり」と、自分の俳諧がこの奥地にまで及んだことを感慨深く記す。
後半は最上川の紹介である。水源から河口まで、川の全体像を示したうえで、両岸の山、緑の茂み、白糸の滝、仙人堂と、舟から見える景色を次々に描き、最後に「水みなぎつて舟あやうし」と急流の迫力で締めくくる。
句は、はじめ大石田で「五月雨をあつめて涼し最上川」と詠まれたが、実際に舟で下った体験をふまえて「早し」と改められた。一語の推敲によって、川の量感と速さが一気に伝わる句となった。
語釈・文法注
- 大石田
- 山形県北村山郡大石田町。最上川の舟運の河港。
- 誹諧の種
- 俳諧の伝統。以前、この地に俳諧が伝わったことを、種がこぼれたとたとえる。
- 芦角一聲
- 蘆笛の一声。田舎びた素朴な俳諧のたとえ。
- 新古ふた道
- 新しい俳風(芭蕉の蕉風)と、古い俳風(貞門・談林)の二つの道。
- ごてん、はやぶさ
- 碁点・隼。最上川の急流の難所。
- 板敷山
- 最上川の北岸の山。歌枕。
- いな船
- 稲船。稲を積んで最上川を下る舟。「最上川上れば下る稲舟のいなにはあらずこの月ばかり」(古今集)で知られる。
- 白糸の瀧
- 最上川の北岸にかかる滝。歌枕。
- 仙人堂
- 最上川の北岸にある外川神社。義経の家臣、常陸坊海尊をまつると伝える。
文法
- のらんと
- 「のら」は四段動詞「乗る」の未然形、「ん」は意志。(舟に)乗ろうと。
- さぐりあしゝて
- 「さぐり足して」の「し」をくり返し記号「ゝ」で刷る。手さぐりで足を運んで。
- ことはりなき一巻
- 底本どおり「ことはりなき」。通行本文は「みちしるべする人しなければと、わりなき一巻残しぬ」で、「わりなき」はやむをえない、の意。
- いな船といふならし
- 「ならし」は「なるらし」の約。〜であるらしい。
発句・和歌
五月雨をあつめて早し最上川
- 作者
- 松尾芭蕉
- 状況
- 大石田から最上川を舟で下ったときの句。降り続いた五月雨を集めて増水した最上川の、豊かな水量と速い流れを詠む。季語は「五月雨」で夏。
修辞
- 季語
- 五月雨。夏。
- 切れ
- 「早し」の終止形で切れる(二句切れ)。
- 擬人法的表現
- 川が五月雨を「あつめる」と、主体的な動きとして描く。
解説
曾良の『随行日記』によれば、五月二十八日に大石田に着き、高野一栄の家に泊まって、二十九日から三十日にかけて「さみだれをあつめてすゞしもがみ川」を発句とする歌仙を巻いている。この歌仙の懐紙は今も残り、発句が「すゞし」であったことがわかる。
最上川の舟下りは、六月三日、本合海から清川までの区間で行われた。現在も、戸沢村の古口から草薙までの区間で「最上川舟下り」が観光として行われている。
最上川は、富士川・球磨川とともに日本三大急流の一つに数えられる。本文の「みちのくより出て、山形を水上とす」は事実と異なり、実際の水源は山形・福島県境の吾妻山である。
関連
出典
- 底本
- 藤村作編『奥の細道』 至文堂、昭和5年(1930)、22〜23頁(コマ20)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日