おくのほそ道 第4章
室の八島
下野の室の八島に参詣する。同行の曾良が、祭神の木花咲耶姫の故事や、歌に「煙」を詠む由来、この地でこのしろという魚を食べないことなどを語って聞かせる。

- 1ののの八島八島やしまににに詣詣もうずずず。。。同行曾良同行曾良どうぎょうそらががが曰曰いわ、、、此此こ神神かみはははののの花花はなさくやさくやさくや姫姫ひめののの神神かみととと申申もうててて、、、。。。ににに入入いててて燒給燒給やけたまふちかひのみふちかひのみうちかいのみ中中なかににに、、、のみことのみことのみこと生生うまれれれ給給たまひしよりひしよりいしより、、、室室むろののの八嶋八嶋やしまととと申申もう。。。
- 2又又また煙煙けぶりををを讀習讀習よみならわししし侍侍はべもこのもこのもこの謂也謂也いわれなり。。。このしろといふこのしろといふこのしろという魚魚うおををを禁禁きんずずず。。。ののの旨世旨世むねよににに傳傳つたふふう事事ことももも侍侍はべりししし。。。
現代語訳
室の八島に参詣する。同行の曾良が言うには、「この神は木の花さくや姫と申して、富士の浅間神社の神と同じ神です。姫は戸のない室に入って火を放ち、身の潔白を誓われたが、その燃えさかる炎の中で火々出見の尊がお生まれになったので、ここを室の八島と申します。また、この地を和歌に詠むとき、煙を詠みこむならわしがあるのもこのいわれによるのです」。さらにこの地では、このしろという魚を食べることを禁じている。その縁起の趣旨が世に伝わっていることもあった。
意訳
この章はほとんどが曾良の語る神話の解説で、芭蕉自身の感想はない。歌枕としての室の八島は「煙」とともに詠まれるのが決まりで、その由来を神話から説き明かしている。
神道や地誌にくわしい曾良の博識ぶりを、旅の最初の歌枕で印象づける役割もはたしている。
語釈・文法注
- 室の八島
- 下野国の大神神社(栃木市)の境内にある池と島。古くから歌枕で、池から立つ水蒸気を煙に見立てて歌に詠んだ。
- 木の花さくや姫
- 木花咲耶姫命。天孫ににぎの命の妻。一夜で身ごもったため、夫に疑われた。
- 富士一躰
- 富士山の浅間神社の祭神と同じ神であること。
- 無戸室
- 出入りの戸のない室。木花咲耶姫はここにこもって火を放ち、炎の中で無事に子を産んで身の潔白を証した。
- 火々出見のみこと
- 彦火火出見尊。木花咲耶姫が炎の中で産んだ子の一人。
- このしろ
- ニシン科の魚。焼くと人を焼くような匂いがするとして、この地では食べることを禁じたという。
- 緣記
- 縁起。神社や寺の由来。
文法
- 同行曾良が曰
- 「曰」は「いはく」。以下が曾良の言葉。
- 燒給ふちかひのみ中に
- 「ちかひ」は誓約。身の潔白を誓って火を放った、その炎の中で。
- 將
- 「はた」。また、さらに。話題を加えるときに用いる。
解説
室の八島は、平安時代から「いかでかは思ひありとも知らすべき室の八島の煙ならでは」(藤原実方)などと詠まれてきた歌枕で、恋の思いの「火」と結びついて「煙」を詠むのが約束であった。芭蕉と曾良が訪ねたのは、現在の栃木市惣社町の大神神社である。
曾良の『随行日記』によれば、二十九日に室の八島に参詣している。曾良は吉川惟足に神道を学んだことがあり、こうした神話の知識にくわしかった。本文で曾良の言葉をそのまま引くのは、同行者の人柄を紹介する意味もある。
関連
出典
- 底本
- 藤村作編『奥の細道』 至文堂、昭和5年(1930)、3〜4頁(コマ10–11)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日