紫式部日記 第18章
人に見えにくい心
作者は、人前では学識も本心も隠して「ほけ痴れたる人」としてふるまってきた。初めは気どった才女と思われ憎まれていたが、会ってみると意外におっとりしていると言われる。人はおおらかで落ち着いているのがよく、癖のある人は目立って非難されると説き、自分を陰で中傷した左衛門の内侍のことに触れる。
- 1よろづよろづよろずつれづれつれづれつれづれなるなるなる人人ひとののの紛紛まぎるゝるゝるることことことなきなきなきまゝまゝままににに、、、ふるきふるきふるきほんごほんごほんごひきひきひきさがしさがしさがし、、、おこなひおこなひおこないがちがちがちににに口口くちひゞらかしひゞらかしひびらかし、、、ずゞずゞずずののの音音おとたかきたかきたかきなどなどなどいといといと心心こころづきづきづきなくなくなく見見みゆるゆるゆるわざわざわざなりなりなりととと思思おもひひい給給たまへへえててて、、、
- 2心心こころにににまかせまかせまかせつつつべきべきべき事事ことをををさへさへさへ我我わががが使使つかふふう人人ひとのののめめめにににはゞかりはゞかりはばかり心心こころにににつゝむつゝむつつむ。。。ましてましてまして人人ひとののの中中なかにににまじりまじりまじりてててはははいはいはいわまほしきまほしきまほしき事事ことももも侍侍はべれれれどどど、、、いでやいでやいでやととと思思おもほえほえおえ、、、心心こころうううまじきまじきまじき人人ひとにににはははいひいひいいてててやくやくやくなかるなかるなかるべしべしべし。。。
- 3ものものものもどきもどきもどきうちうちうちししし、、、我我われはははととと思思おもへへえるるる人人ひとののの前前まえにてにてにてはははうるさけれうるさけれうるさければばば、、、物物ものいふいふいうことことこともももものものものうくうくうく侍侍はべるるる。。。ことことことにににいといといとしもしもしも物物もののののかたがたかたがたかたがたえええたるたるたる人人ひとはははかたしかたしかたし。。。たゞたゞただ我我わががが心心こころのののたてたてたてつるつるつるすぢすぢすじをををとらへとらへとらえててて、、、人人ひとをををばばばなきなきなきににになすなすなすなななめりめりめり。。。
- 4それそれそれ心心こころよりよりよりほかほかほかののの我我わががが面面おも影影かげをををはづはづはずととと見見みれれれどどど、、、えええさらさらさらずずずさしさしさしむかひむかひむかいまじりまじりまじり居居いたるたるたることことことだにだにだにありありあり。。。しかじかしかじかしかじかさへさへさへもどかもどかもどかれれれかなしかなしかなしととと、、、はづかしきはづかしきはずかしきにににはははあらあらあらねねねどどど、、、むつかしむつかしむつかしととと思思おもひひいててて、、、ぼけぼけぼけられられられたるたるたる人人ひとににに、、、いとゞいとゞいとどなりなりなりはてはてはてゝゝてはべれはべれはべればばば、、、
- 5かうかうこうはははおしはからおしはからおしはからざりざりざりききき。。。いといといとえんえんえんにににはづかしくはづかしくはずかしく、、、人人ひとににに見見みえええにくげにくげにくげにににそはそはしきそはそはしきそわそわしきさまさまさましししててて、、、物物もの語語がたりこのみこのみこのみ、、、よしよしよしめきめきめき、、、歌歌うたがちがちがちににに、、、人人ひとををを人人ひとととともももおもはおもはおもわずずず、、、ねたげねたげねたげににに見見み落落おとさささむむんものものものとととなむなむなん、、、みなみなみな人人ひと々々びといひいひいいおもひおもひおもいつゝつゝつつ憎憎にくみみみしししををを
- 6見見みるるるにににはははあやしきあやしきあやしきまでまでまでおいらかおいらかおいらかににに、、、ことことことひとひとひととととなむなむなん覺覺おぼゆるゆるゆるとととぞぞぞ皆皆みないひいひいい侍侍はべるるるににに、、、はづかしくはづかしくはずかしく人人ひとにににかうかうこうおいそけおいそけおいそけものものものととと見見みおとさおとさおとされれれにににけるけるけるとととははは思思おもひひい侍侍はべれれれどどど、、、たゞたゞただこれこれこれぞぞぞ我我わががが心心こころとととならひならひならいもてなしもてなしもてなし侍侍はべるるるありさまありさまありさま、、、
- 7宮宮みやのののおおおまへまへまえももも、、、いといといとうちとけうちとけうちとけてててははは見見みえええじじじとととなむなむなん思思おもひひいしかしかしかどどど、、、「「「人人ひとよりよりよりげにげにげにむつましうむつましうむつましゅうなりなりなりにににたるたるたるこそこそこそ」」」とととのたまはするのたまはするのたまわするをりをりをりをりおりおりはべりはべりはべり。。。
- 8くせくせしくくせくせしくくせくせしくやさしやさしやさしだちだちだちはぢはぢはじられられられ奉奉たてまつるるる人人ひとにににももも、、、そばめそばめそばめだてだてだてられられられででで侍侍はべらららましましまし。。。
- 9さまようさまようさまよう、、、すべてすべてすべて人人ひとはははおいらかおいらかおいらかににに、、、すこしすこしすこし心心こころおきておきておきてのどやかのどやかのどやかにににおちおちおちゐゐいぬるぬるぬるをををもともともとゝゝとしししてててこそこそこそ、、、ゆゑゆゑゆえもももよしよしよしもももをかしくをかしくおかしくうしろやすけれうしろやすけれうしろやすけれ。。。
- 10もしはもしはもしは色色いろめかしくめかしくめかしくあだあだしけれあだあだしけれあだあだしけれどどど、、、本本ほん性性じょうののの人人ひとがらがらがらくせくせくせなくなくなく、、、かたはらかたはらかたわらのののためためため見見みえええにくきにくきにくきさまさまさませせせずずずだにだにだになりなりなりぬれぬれぬればばば、、、にくうにくうにくうははは侍侍はべるるるまじまじまじ。。。
- 11我我われはははとととくすしくくすしくくすしく、、、くちくちくちもちもちもち、、、けしきけしきけしきことごとしくことごとしくことごとしくなりなりなりぬるぬるぬる人人ひとはははたちたちたちゐゐいにににつけつけつけてててわれわれわれようようよういいいせせせらるゝらるゝらるるほどほどほどにににそのそのその人人ひとにににはははめめめとゞまるとゞまるとどまる。。。
- 12めめめをををしししとゞめとゞめとどめつれつれつればばば、、、必必かならずずずものものものをををいふいふいう詞詞ことばのののうちうちうちにににももも、、、きてきてきてゐるゐるいるふるまひふるまひふるまい、、、立立たちちちててていくいくいくうしろでうしろでうしろでにににももも必必かならずずずくせくせくせははは見見みつけつけつけらるゝらるゝらるるわざわざわざににに侍侍はべりりり。。。
- 13物物ものいひいひいい少少すこしししうちうちうちあはあはあわずずずなりなりなりぬるぬるぬる人人ひとととと、、、人人ひとのののうへうへうえうちうちうちおとしめおとしめおとしめつるつるつる人人ひととととははは、、、ましてましてまして耳耳みみももも目目めもももたてたてたてらるゝらるゝらるるわざわざわざにににこそこそこそ侍侍はべるるるべけれべけれべけれ。。。
- 14人人ひとののの癖癖くせなきなきなきかぎりかぎりかぎりははは、、、いかでいかでいかではかなきはかなきはかなき言言ことののの葉葉はをををもももきこえきこえきこえじじじとととつゝみつゝみつつみ、、、なげなげなげのののなさけなさけなさけつくらつくらつくらまほしうまほしうまほしゅう侍侍はべりりり。。。
- 15人人ひとすゝみすゝみすすみてててにくいにくいにくい事事ことしししいでいでいでつるつるつるははは、、、わろきわろきわろき事事ことをををあやまちあやまちあやまちたらたらたらむむんももも、、、いひいひいい笑笑わらははわむむんににに憚憚はばかりりりなうなうのうおぼえおぼえおぼえ侍侍はべりりり。。。
- 16いといといと心心こころよからよからよからむむん人人ひとははは、、、我我われをををにくむにくむにくむともともとも、、、我我われはははなほなほなお人人ひとををを思思おもひひいうしろむうしろむうしろむべけれべけれべけれどどど、、、いといといとさしもさしもさしもえええあらあらあらずずず、、、
- 17慈慈じ悲悲ひふかうふかうふこうおはするおはするおわする佛佛ほとけだにだにだに、、、三三さん寳寳ぼうをををそしるそしるそしるつみつみつみはははあさしあさしあさしとととやややははは說說とききき給給たまふふうなるなるなる。。。まいてまいてまいてかばかりかばかりかばかりににに濁濁にごりふかきふかきふかき世世よののの人人ひとははは、、、なほなほなおつらきつらきつらき人人ひとはははつらかりつらかりつらかりぬぬぬべしべしべし。。。
- 18それそれそれををを我我われまさりまさりまさりててていはいはいわむむんととと、、、いみじきいみじきいみじき言言ことののの葉葉はをををいひいひいいつけつけつけ、、、むかひむかひむかいゐゐいててて氣氣け色色しきあしうあしうあしゅうまもりまもりまもりかはすかはすかわすともともとも、、、さささはははあらあらあらずずずもてもてもてかくしかくしかくし、、、うはべうはべうわべはははなだらかなだらかなだらかなるなるなるとととのののけぢめけぢめけじめぞぞぞ、、、心心こころのののほどほどほどははは見見みえええ侍侍はべるるるかしかしかし。。。
- 19左左さ衞衞えもももののの內內ないととといふいふいう人人ひとはべりはべりはべり。。。あやしうあやしうあやしゅうすゞろすゞろすずろににによからよからよからずずず思思おもひひいけるけるけるももも、、、えええ知知しりりり侍侍はべらららぬぬぬ、、、心心こころ憂憂うきききしりうごとしりうごとしりうごとのののおほうおほうおおうきこえきこえきこえ侍侍はべりりりししし。。。
現代語訳
万事に所在ない人が気のまぎれることもないままに、古い反故を引っぱり出したり、勤行ばかりして口でぶつぶつ唱え、数珠の音を高く鳴らしたりするのなどは、たいそう感心しないことに見えると思いまして、
自分の思うままにしてもよいことさえ、自分の使っている侍女の目をはばかって、心に包み隠しています。まして人の中にまじっていると、言いたいこともありますけれど、さあどうだろうと思われて、理解しそうもない人には言っても無益でしょう。
何かと非難ばかりして、自分こそはと思っている人の前では面倒なので、口をきくのもおっくうでございます。特に、それほどあらゆる方面に通じた人はめったにいない。ただ自分の心で立てた筋ばかりにこだわって、人を無視するものらしい。
そうした人が、本心とは違うわたしの見かけを恥ずかしい(立派だ)と見ていても、どうしようもなく向かい合って同席していることさえある。あれこれと非難されるのもいやだと、気後れするわけではないけれど、面倒だと思って、ぼけたような人にすっかりなりきっておりますので、
「こうとは思っていなかった。たいそう気どっていて近寄りにくく、人づきあいの悪そうなようすをして、物語を好み、風流ぶって、何かといえば歌を詠み、人を人とも思わず、憎らしげに人を見下すだろうと、みな人々が言い思っては憎んでいたのに、
会ってみると不思議なほどおっとりしていて、別の人かと思われる」とみな言いますので、恥ずかしく、人にこんなにおっとりした者と見下されてしまったとは思いますが、ただこれこそ自分の本心だと思って、そのようにふるまっておりますありさまを、
中宮さまも、「(あなたとは)とてもうちとけて会うことはないだろうと思っていたけれど、ほかの人よりずっと親しくなってしまったわね」とおっしゃる折々がございます。
癖があって上品ぶり、こちらが気後れさせられるような方々にも、(このようにしていれば)白い目で見られずにいられましょう。
およそ、すべて人はおっとりとして、少し心がまえがのんびりと落ち着いているのを基本としてこそ、風情も趣も魅力的で、安心できるものです。
あるいは色っぽく浮ついていても、生まれつきの人柄に癖がなく、そばの人にとって見苦しいようなふるまいさえしなければ、憎らしくはないでしょう。
自分こそはと気どって、口ぶりもようすも大げさになってしまった人は、立ち居ふるまいにつけて、(こちらも)自然と注意してしまうので、その人には目がとまる。
目をとめると、かならず話す言葉の中にも、来て座るふるまいにも、立って行く後ろ姿にも、かならず癖は見つけられるものでございます。
言うことが少しつじつまの合わなくなった人と、人のことをけなした人とは、なおいっそう耳も目もそばだてられるものでございましょう。
人に癖がない限りは、なんとかしてちょっとした言葉でも言うまいと慎み、うわべだけでも情けをかけたいものです。
人が自分から進んで憎らしいことをしでかしたのは、悪いことを誤ってしたのでも、言い笑うのに遠慮がいらないように思われます。
たいそう心の立派な人は、自分を憎んでも、自分はやはりその人を思い世話をするのでしょうが、とてもそうはできず、
慈悲深くいらっしゃる仏でさえ、三宝をそしる罪は軽いとお説きになっているでしょうか(いや、重いとお説きです)。まして、これほど濁りの深い世の人は、やはりつらく当たる人には、つらく当たってしまうものでしょう。
それを、自分がまさって言い負かそうと、ひどい言葉を言いつけ、向かい合って意地悪くにらみ合っても、そうではなく隠して、うわべはおだやかにしているのとの違いで、心の程度は見えるものでございますよ。
左衛門の内侍という人がいます。妙にわけもなくわたしを快く思っていなかったのも、知りませんでしたが、いやな陰口がたくさん耳に入ってまいりました。
意訳
作者は、暇をもてあまして古い書き物をあさったり、これ見よがしに勤行したりする人を感心しないと思う。
だから自分の好きなことさえ、侍女の目を気にして隠している。人の中でも、わかってくれない人には何も言わない。
人を非難ばかりする自信家の前では、口をきく気にもなれない。そういう人は、自分の考えに固執して人を無視するものだ。
そういう人とも同席しなければならないことがある。作者は面倒を避けるため、ぼけたような人を装ってきた。
すると人々は、作者を気どった才女だと思っていたが、という。宮仕えの初め、作者は『源氏物語』の作者として、近寄りにくい人だと噂されていた。
会ってみると意外におっとりしていると言われる。作者は見下されたと思いつつも、これが自分の生き方だと受け入れている。
中宮も、作者とは打ちとけられないと思っていたが、だれよりも親しくなったと言ってくれる。作者にとって何よりの言葉だったろう。
こうしていれば、気位の高い人々にも白い目で見られずにすむ。
人はおっとりと落ち着いているのがよい。それが魅力と安心感のもとになる、と作者は説く。
多少浮ついていても、人柄に癖がなければ憎まれない。
自信家で気どった人は、どうしても人目を引く。
人目を引けば、言葉やふるまい、後ろ姿にまで癖を見つけられてしまう。
言うことに筋が通らない人や、人をけなす人は、なおさら注目される。
癖のない人には、なるべく悪いことは言わず、情けをかけたい。
しかし、自分から憎らしいことをする人なら、笑いものにしてもかまわないと思う。
本当に心の広い人なら、憎む相手にも親切にするだろうが、自分にはできない。
仏でさえ三宝をそしる罪は重いと説く。まして濁った世の人間は、つらく当たる人にはつらく当たってしまう。
それでも、言い負かそうとするか、うわべをおだやかに保つかで、人の心の程度がわかる、と作者は言う。
作者を陰で中傷した左衛門の内侍の名を挙げる。この人の中傷が、次の章の「日本紀の御局」の話につながる。
語釈・文法注
- 左衞もの內侍
- 左衛門の内侍。一条天皇付きの女官。橘隆子とする説がある。
文法
- 「ほんご」
- 反故(ほうご)。書き損じた紙や、不要になった書き物。
- 「口ひゞらかし」
- 口の中でぶつぶつと経などを唱えること。
- 「ぼけられたる人」
- 底本のまま。通行本文は「ほけしれたる人(ぼんやりして物事を知らない人)」。
- 「おいそけもの」
- 底本のまま。通行本文は「おいらけもの(おっとりした者)」で、それに従って解した。
- 「さまよう」
- 「様よう」で、大体、およそ、の意。
- 「左衞もの內侍」
- 底本のまま。「左衛門の内侍」の意。
解説
消息文の中で、作者が自分の処世のしかたを語る部分である。作者は、人前では学識や本心を隠し、ぼんやりした人を装ってきたと言う。宮仕えの初めには、『源氏物語』の作者として気位の高い才女と思われ、憎まれてもいたが、会ってみると意外におっとりしていると評されるようになった。
作者が理想とするのは、おっとりして落ち着いた人柄である。自信家で気どった人は人目を引き、言葉やふるまいの癖を見つけられてしまう。前章の清少納言評とも通じる人間観である。
一方で作者は、自分を中傷する人に対しては、仏のように寛大にはなれないと率直に認めている。理想を語りながら、自分の限界も見つめる筆づかいに、作者の誠実さが表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(紫式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、409–411頁(コマ216–217)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日