万葉集 巻第十三 3333〜3334番
王の 御命恐み
大君の仰せを畏んで、難波の御津から船出した夫の帰りを待って占い慎んでいたのに、人の嘘言か、夫が筑紫の山の紅葉のように散ってしまったと告げられた、と嘆く妻の長歌と、末長くと言っていたのに、と嘆く反歌。
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題詞(挽歌)
- 1王王おおきみののの御命御命みこと恐恐かしこみみみ王之 御命恐長歌
- 2秋津秋津あきつ島島しま大和大和やまとををを過過すぎぎぎててて秋津島 倭雄過而
- 3大伴大伴おおともののの御津御津みつののの濱濱はま邊邊べゆゆゆ大伴之 御津之濱邊從
- 4大大おお舟舟ぶねににに眞眞ま楫楫かじ繁繁しじ貫貫ぬききき大舟爾 眞梶繁貫
- 5朝朝あさなぎなぎなぎににに水手水手かこののの音音こえしししつつつつつつ且名伎爾 水手之音爲乍
- 6夕夕ゆうなぎなぎなぎににに楫楫かじののの音音としししつつつつつつ夕名寸爾 梶音爲乍
- 7行行ゆきききししし君君きみ何時何時いつ來來きまさまさまさむむんととと行師君 何時來座登
- 8大大おお卜卜うら置置おきききててて齋齋いわひひい渡渡わたるるるににに大卜置而 齋度爾
- 9枉枉まが言言ことややや人人ひとののの言言いひひいつるつるつる枉言哉 人之言釣
- 10わわわががが心心こころ筑紫筑紫つくしののの山山やまののの我心 盡之山之
- 11黃葉黃葉もみちばののの散散ちりりり過過すぎぎぎにににきききととと君君きみががが正正ただ香香かををを黃葉之 散過去常 公之正香乎
- 12枉枉まが言言ことややや枉言哉反歌
- 13人人ひとののの言言いひひいつるつるつる人之云鶴
- 14玉玉たまののの緒緒をののの玉緒乃
- 15長長ながくくくととと君君きみははは長登君者
- 16言言いひひいてててしししものものものををを言手師物乎
現代語訳
〔3333〕大君の仰せを恐れ謹んで、(秋津島)大和を過ぎて、大伴の御津の浜辺から、大船に楫をたくさん取り付けて、朝凪に水手の声を立てながら、夕凪に楫の音を立てながら漕ぎ出して行ったあなた。いつお帰りになるかと、大占を置いて身を慎んで過ごしていたのに、でたらめを人が言ったのだろうか、(わが心)筑紫の山の紅葉のように散り過ぎてしまったと、あなたの消息を。
〔3334〕でたらめを人が言ったのだろうか。玉の緒のように長く生きようと、あなたは言っていたのに。
意訳
大君の命令で難波の御津から筑紫へ船出した夫の無事を占い、身を慎んで待っていた妻が、夫が筑紫で亡くなったという知らせを受け、人のでたらめであってほしいと嘆く挽歌である。反歌では、末長くと言っていた夫の言葉を思い出す。
語釈・文法注
文法・本文
- 御命恐み
- 「みことかしこみ」。仰せを恐れ謹んで。
- 眞楫繁貫き
- 「まかぢしじぬき」。左右の楫をたくさん取り付けて。
- 水手
- 「かこ」。船の漕ぎ手。
- 大卜
- 「おほうら」。占い。
- 齋ひ渡る
- 「いはひわたる」。身を慎んで過ごす。
- 枉言
- 「まがこと」。でたらめの言葉。
- わが心
- 「盡(つくし)」にかかる枕詞。
- 正香
- 「ただか」。その人自身の様子。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・挽歌・3333〜3334番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 挽歌。作者未詳。筑紫で亡くなった夫を悼む妻の歌。
修辞
- 対句
- 「朝なぎに水手の音しつつ」と「夕なぎに楫の音しつつ」。
- 譬喩
- 夫の死を「黄葉の散り過ぎ」にたとえる。
解説
白文は「筑紫」を「盡之」と書き、「わが心盡し」と掛けて枕詞とする。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、523頁(コマ54)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、602頁(コマ65)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日