万葉集 巻第十三 3299番
見渡しに 妹らは立たし
向こう岸に妻は立ち、こちらに私は立って、思うにも嘆くにも安らかでない、赤く塗った小舟があればよいのに、玉で飾った櫂があればよいのに、漕ぎ渡って語り合おうものを、と詠む長歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(相聞)
現代語訳
見渡す向こうにいとしい人は立っておられ、こちら側に私は立って、思う心も安らかでなく、嘆く心も安らかでない。赤く塗った小舟があればよいのに。玉を巻いた櫂があればよいのに。漕ぎ渡って行って、語り合おうものを。
意訳
川を隔てて向かい合いながら逢えない恋人たちを詠む長歌である。赤く塗った舟と玉で飾った櫂があれば漕ぎ渡って語り合えるのにと願う。七夕の牽牛と織女の伝説を思わせる。
語釈・文法注
文法・本文
- 見渡し
- 見渡す向こう側。
- 立たし
- 立っておられる。
- 思ふそら
- 思う心。
- さ丹漆
- 「さにぬり」。赤く塗った。
- 小櫂
- 「をかい」。小さい櫂。白文は「小楫」と書く。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・相聞・3299番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 相聞。作者未詳。
修辞
- 対句
- 「思ふそら安からなくに」と「嘆くそら安からなくに」、「さ丹漆の小舟もがも」と「玉纏の小櫂もがも」。
解説
川を隔てた男女の恋は七夕の歌(巻第十など)に多く、3299番もその発想に通じる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、514頁(コマ50)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、593頁(コマ60)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日