万葉集 巻第十三 3284〜3288番
菅の根の ねもころごろに
ねんごろに思う妻の身に禍がないようにと、斎瓮を掘り据え竹玉を貫き垂らして天地の神々に祈る、どうしようもなくて、と詠む長歌、反歌、或本の長歌二首とその反歌の五首。
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題詞(相聞)
- 1菅菅すがののの根根ねのののねもころごろねもころごろねもころごろににに菅根之 根毛一伏三向凝呂爾長歌
- 2吾吾わががが念念おもへへえるるる妹妹いもににに緣緣よりりりてててははは吾念有 妹爾緣而者
- 3言言ことののの禁禁いみももも無無なくくくありありありこそこそこそととと言之禁毛 無在乞常
- 4齋瓮齋瓮いわいべををを齋齋いわひひい掘掘ほりりり居居すゑゑえ齋戸乎 石相穿居
- 5竹竹たか珠珠だまををを間間まなくなくなく貫貫ぬききき垂垂たりりり竹珠乎 無間貫垂
- 6天天あめ地地つちののの神祇神祇かみをををぞぞぞ吾吾わががが祈祈のむむむ甚甚いたももも術術すべなみなみなみ天地之 神祇乎曾吾祈 甚毛爲便無見
- 7たらちねたらちねたらちねののの足千根乃反歌
- 8母母ははにににももも謂謂いははわずずず母爾毛不謂
- 9包包つつめめめりりりししし褁有之
- 10心心こころはははよしゑよしゑよしえ心者縱
- 11公公きみがががまにまにまにまにまにまに公之隨意
- 12玉玉たま襷襷だすき懸懸かけけけぬぬぬ時時ときなくなくなく玉手次 不懸時無或本の歌
- 13吾吾わががが念念おもへへえるるる君君きみににに依依よりりりてててははは吾念有 君爾依者
- 14倭文倭文しず幣幣ぬさををを手手てににに取取とりりり持持もちちちててて倭文幣乎 手取持而
- 15竹竹たか珠珠だまををを繁繁しじににに貫貫ぬききき垂垂たりりり竹珠呼 之自二貫垂
- 16天天あめ地地つちののの神神かみをををぞぞぞ吾吾わががが乞乞こふふう甚甚いたももも術術すべ無無なみみみ天地之 神呼曾吾乞 痛毛須部奈見
- 17天天あめ地地つちののの乾坤乃反歌
- 18神神かみををを禱禱いのりりりててて神乎禱而
- 19吾吾わががが戀戀こふるふるうる吾戀
- 20公公きみいいい必必かならずずず公以必
- 21逢逢あははわざらざらざらめめめやもやもやも不相在目八方
- 22大大おお船船ぶねののの思思おもひひいたのみたのみたのみててて大船之 思憑而或本の歌
- 23木妨已木妨已さなかずらいやいやいや遠遠とお長長ながくくく木妨已 彌遠長
- 24我我わががが念念おもへへえるるる君君きみににに依依よりりりてててははは我念有 君爾依而者
- 25ことことことののの故故ゆえももも無無なくくくありありありこそこそこそととと言之故毛 無有欲得
- 26木綿木綿ゆう襷襷だすき肩肩かたににに取取とりりり懸懸かけけけ木綿手次 肩荷取懸
- 27齋瓮齋瓮いわいべををを齋齋いわひひい掘掘ほりりり居居すゑゑえ忌戸乎 齋穿居
- 28天天あめ地地つちののの神祇神祇かみにににぞぞぞ吾吾わががが祈祈のむむむ甚甚いたももも術術すべ無無なみみみ玄黃之 神祇二衣吾祈 甚毛爲便無見
現代語訳
〔3284〕(菅の根の)ねんごろに私が思う妻のためには、言葉の禍もないようにと、斎瓮を清めて掘り据え、竹玉を絶え間なく貫き垂らして、天地の神々に私は祈る。ひどくどうしようもないので。
〔3285〕(たらちねの)母にも言わずに包み隠していた私の心は、ええままよ、あなたの思うままに。
〔3286〕(玉襷)心に懸けない時もなく私が思うあなたのためには、倭文の幣を手に取り持って、竹玉をぎっしり貫き垂らして、天地の神々に私は乞い願う。ひどくどうしようもないので。
〔3287〕天地の神々に祈って、私が恋い慕うあなたに、必ず逢えないことがあろうか。
〔3288〕(大船の)頼みに思って、(木妨已)いよいよ末長くと私が思うあなたのためには、何の禍もないようにと、木綿襷を肩に掛け、斎瓮を清めて掘り据えて、天地の神々に私は祈る。ひどくどうしようもないので。
意訳
ねんごろに思う人の身に禍がないようにと、斎瓮を掘り据え竹玉を貫き垂らして天地の神々に祈る長歌である。反歌では、母にも言わずに秘めていた心をすべて恋人にゆだねると詠み、或本の長歌二首では幣や木綿襷を用いた同じ祈りが詠まれ、その反歌は神に祈ったのだから必ず逢えるはずだと詠む。左注は、長歌の「妹」は反歌に合わせて「君」とあるべきだと指摘する。
語釈・文法注
文法・本文
- ねもころごろに
- ねんごろに。白文は「根毛一伏三向凝呂爾」と書く戯書(柶の目)。
- 言の禁
- 「ことのいみ」。言葉による禍、禁忌。
- 齋瓮
- 「いはひべ」。神に供える酒を入れる器。
- 竹珠
- 「たかだま」。竹を切って作った玉。
- 倭文幣
- 「しづぬさ」。日本古来の織物で作った幣。
- 繁に
- 「しじに」。ぎっしりと。
- 包めりし
- 包み隠していた。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・相聞・3284〜3288番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 相聞。作者未詳。
修辞
- 異伝
- 3284・3286・3288番は同じ祈りの歌の異伝。
- 戯書
- 「一伏三向」(ころ)。
解説
斎瓮を据え竹玉を垂らして神に祈る作法は、大伴坂上郎女の祭神歌(379番)などにも見え、古代の神祭りのさまを伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、511頁(コマ48)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、589頁(コマ58)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日