万葉集 巻第十三 3260〜3262番
小治田の 愛智の水を
小治田の愛智の水を、人が絶え間なく汲み、時を選ばず飲むように、私のいとしい人への恋は止む時がない、と詠む長歌と反歌、或本の反歌。
場面イラスト(準備中)
題詞(相聞)
- 1小小お治治はり田田だののの愛智愛智あゆちののの水水みずををを小治田之 年魚道之水乎長歌
- 2間間ま無無なくくくぞぞぞ人人ひとははは掬掬くむむむとととふふふ間無曾 人者挹云
- 3時時ときじくじくじくぞぞぞ人人ひとははは飮飮のむむむとととふふふ時自久曾 人者飲云
- 4掬掬くむむむ人人ひとののの間間ま無無なきききががが如如ごと挹人之 無間之如
- 5飮飮のむむむ人人ひとののの時時ときじきじきじきががが如如ごと飲人之 不時之如
- 6吾吾わぎ妹妹も子子こににに吾吾わががが戀戀こふふうらくらくらくははは已已やむむむ時時ときもももなしなしなし吾妹子爾 吾戀良久波 已時毛無
- 7思思おもひひい遣遣やるるる思遣反歌
- 8術術すべのののたづきたづきたずきももも爲便乃田付毛
- 9今今いまはははなしなしなし今者無
- 10君君きみににに逢逢あははわずずずててて於君不相而
- 11年年としののの歷歷へぬれぬれぬればばば年之歷去者
- 12楉楉ませ垣垣がきののの楉垣或本の反歌
- 13久久ひさしきしきしき時時ときゆゆゆ久時從
- 14戀戀こいすれすれすればばば戀爲者
- 15吾吾わががが帶帶おび緩緩ゆるぶぶぶ吾帶緩
- 16朝朝あさ夕夕よいごとごとごとににに朝夕每
現代語訳
〔3260〕小治田の愛智の水を、絶え間なく人は汲むという。時を選ばず人は飲むという。汲む人が絶え間ないように、飲む人が時を選ばないように、いとしい人を私が恋い慕う思いは、止む時もない。
〔3261〕思いを晴らす手立ても、今はない。あなたに逢えないまま年が過ぎてしまったので。
〔3262〕(楉垣の)久しい以前から恋い続けているので、私の帯はゆるんでいく。朝ごと夕ごとに。
意訳
小治田の愛智の泉の水を人々が絶え間なく汲み、時を選ばず飲むように、自分の恋も止む時がないという長歌である。反歌では逢えずに年が過ぎ、思いを晴らすすべもない嘆きを詠み、或本の反歌では恋にやつれて帯がゆるんでいくことを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 小治田
- 「をはりだ」。飛鳥の地名。
- 愛智
- 「あゆち」。白文は「年魚道」と書く。
- 掬む
- 「くむ」。汲む。
- 時じく
- 時を選ばず、いつでも。
- たづき
- 手立て。
- 楉垣
- 「ませがき」。柴で作った垣。「久しき」にかかる。
- 帶緩ぶ
- 恋にやつれて帯がゆるむ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・相聞・3260〜3262番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 相聞。作者未詳。
修辞
- 対句
- 「間無くぞ人は掬むとふ」と「時じくぞ人は飲むとふ」など。
- 比喩
- 絶え間ない水汲みを止まない恋にたとえる。
解説
3260番は、天武天皇の吉野の歌(25番)の「時なくぞ雪は降りける間なくぞ雨は降りける」と同じ型の対句を持つ。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、505頁(コマ45)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、583頁(コマ55)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日