万葉集 巻第十三 3255〜3257番
古ゆ 言ひ續ぎ來らく
昔から恋をすると安らかではないと言い継いできたが、娘の心を知るすべもないので、命を懸けてむやみに恋い続ける、と詠む長歌と、反歌二首。
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題詞(相聞)
- 1古古いにしえゆゆゆ言言いひひい續續つぎぎぎ來來くらくらくらく從古 言續來口長歌
- 2戀戀こいすれすれすればばば安安やすからからからぬぬぬものものものととと戀爲者 不安物登
- 3玉玉たまののの緒緒をののの繼繼つぎぎぎてててはははいへいへいえどどど玉緒之 繼而者雖云
- 4處女處女おとめらららががが心心こころををを知知しらららににに處女等之 心乎胡粉
- 5其其そををを知知しらららむむんよしよしよしののの無無なけれけれければばば其將知 因之無者
- 6夏夏なつ麻麻そ引引ひくくく命命いのちかたまけかたまけかたまけ夏麻引 命方貯
- 7刈刈かり薦薦こもののの心心こころももも靡靡しぬぬぬににに借薦之 心文小竹荷
- 8人人ひと知知しれれれずずずもとなもとなもとなぞぞぞ戀戀こふるふるうる氣氣いきののの緒緒をにににしししててて人不知 本名曾戀流 氣之緒丹四天
- 9數數數數しくしくににに數數丹反歌
- 10思思おもははわずずず人人ひとははは不思人者
- 11あらあらあらめめめどもどもども雖有
- 12暫暫しましももも吾吾われははは暫文吾者
- 13忘忘わすらえらえらえぬぬぬかもかもかも忘枝沼鴨
- 14直直ただににに來來こずずず直不來反歌
- 15此此こゆゆゆ巨勢巨勢こせ道道じからからから自此巨勢道柄
- 16石石いわ橋橋ばし踏踏ふみみみ石椅跡
- 17なづみなづみなずみぞぞぞ吾吾わががが來來こししし名積序吾來
- 18戀戀こひひいててて術術すべなみなみなみ戀天窮見
現代語訳
〔3255〕昔から言い継いで来たことには、恋をすると心安らかでないものだと、(玉の緒の)絶えず言うけれど、娘の心もわからず、それを知る手立てもないので、(夏麻引く)命を懸けて、(刈薦の)心もしなえるほどに、人知れずむやみに恋い慕うことだ。命をかけて。
〔3256〕しきりには思ってくれない人であろうが、しばらくの間も私は忘れられないことだ。
〔3257〕まっすぐには来ないで、ここから巨勢路を通り、石橋を踏んで難儀しながら私はやって来た。恋しくてどうしようもないので。
意訳
昔から恋は心安らかでないものと言い継いできたが、娘の心を知るすべもないまま、命を懸けて人知れず恋い続けるという長歌である。反歌では、相手が思ってくれなくても忘れられない心と、恋しさのあまり遠回りの巨勢路の石橋を難儀して越えて来たことを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 言ひ續ぎ來らく
- 言い継いで来たことには。
- 心を知らに
- 心もわからずに。白文は「胡粉」(ごふん=しらに)と書く。
- 夏麻引く
- 「命」にかかる枕詞。
- 命かたまけ
- 命をかけて。
- 靡ぬ
- 「しぬ」。しなえる。
- 數數に
- 「しくしくに」。しきりに。
- なづみ
- 難儀して。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・相聞・3255〜3257番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 相聞。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 「玉の緒の」「夏麻引く」「刈薦の」。
- 戯書
- 白文は「心を知らに」を「心乎胡粉」と書く。
解説
3257番は左注によれば別の長歌(3318番)の反歌ともされ、伝来の過程で歌の組み合わせが揺れていたことを示す。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、504頁(コマ45)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、582頁(コマ55)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日