万葉集 巻第十三 3250〜3252番
蜻蛉島 日本の國は
大和の国は神の意のままに言挙げをしない国だが、私はあえて言挙げをする。月日が過ぎても胸は安らかでなく、君に逢えなければ命の続く限り恋い続けよう、まそ鏡のようにじかに君に逢えてこそ私の恋は止むだろう、と詠む長歌と反歌二首。
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題詞(相聞)
- 1蜻蛉島蜻蛉島あきつしま日本日本やまとののの國國くにははは蜻島 倭之國者長歌
- 2神神かむからからからととと言言こと擧擧あげせせせぬぬぬ國國くに神柄跡 言擧不爲國
- 3然然しかれれれどもどもども吾吾われははは言言こと擧擧あげすすす雖然 吾者事上爲
- 4天天あめ地地つちののの神神かみももも甚甚はなわだ天地之 神毛甚
- 5吾吾わががが念念おもふふう心心こころ知知しらららずずずややや吾念 心不知哉
- 6往往ゆくくく影影かげののの月月つきももも經經へ往往ゆけけけばばば往影乃 月文經往者
- 7玉玉たま耀耀かぎるるる日日ひももも累累かさなりりり玉限 日文累
- 8念念おもへへえかもかもかも胸胸むね安安やすからからからぬぬぬ念戸鴨 胷不安
- 9戀戀こふれふれうれかもかもかも心心こころののの痛痛いたききき戀列鴨 心痛
- 10末末すえつひつひついににに君君きみににに逢逢あははわずずずははは末遂爾 君丹不會者
- 11吾吾わががが命命いのちののの生生いけけけらむらむらん極極きわみ吾命乃 生極
- 12戀戀こひひいつつつつつつももも吾吾われはははわたらわたらわたらむむん戀乍文 吾者將度
- 13まそまそまそ鏡鏡かがみ正正ただ目目めににに君君きみををを犬馬鏡 正目君乎
- 14相相あい見見みてててばばばこそこそこそ吾吾わががが戀戀こい止止やまままめめめ相見天者社 吾戀八鬼目
- 15大大おお舟舟ぶねののの大舟能反歌
- 16思思おもひひいたのめたのめたのめるるる思憑
- 17君君きみゆゑゆゑゆえににに君故爾
- 18つくすつくすつくす心心こころははは盡心者
- 19惜惜おしけくしけくしけくもももなしなしなし惜雲梨
- 20ひさかたひさかたひさかたののの久堅之反歌
- 21都都みやこををを置置おきききててて王都乎置而
- 22草草くさ枕枕まくら草枕
- 23旅旅たびゆくゆくゆく君君きみををを羇往君乎
- 24いついついつとととかかか待待またたたむむん何時可將待
現代語訳
〔3250〕(蜻蛉島)大和の国は、神の御心のままに言挙げをしない国だ。けれども私は言挙げをする。天地の神も、ひどくまあ、私の思う心をご存じないのか。過ぎて行く月日も経って行くので、(玉耀る)日も重なって、思うからか、胸が安らかでない。恋い慕うからか、心が痛い。最後まであなたに逢えないなら、私の命の生きている限り、恋い続けて私は過ごそう。(まそ鏡)じかにあなたに逢えたならばこそ、私の恋も止むだろう。
〔3251〕(大舟の)心から頼みに思うあなたのためなので、尽くす心は惜しくもない。
〔3252〕(ひさかたの)都を後にして、(草枕)旅に出て行くあなたを、いつ帰ると思って待てばよいのだろう。
意訳
言挙げをしない大和の国にあって、あえて神に向かって恋の思いを声に出して訴え、じかに逢うまでは命ある限り恋い続けようという長歌である。反歌では、頼みに思う人のためなら心を尽くしても惜しくないと詠み、都を離れて旅立つ人の帰りをいつと待てばよいかと嘆く。
語釈・文法注
文法・本文
- 蜻蛉島
- 「あきつしま」。「日本」(やまと)にかかる枕詞。
- 神から
- 神の御心のままに。
- 言擧
- 「ことあげ」。言葉に出して言い立てること。
- 玉耀る
- 「たまかぎる」。「日」にかかる枕詞。
- 生けらむ極
- 「いけらむきはみ」。生きている限り。
- 正目
- 「ただめ」。じかに見ること。
- 大舟の
- 「思ひたのめる」にかかる枕詞。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・相聞・3250〜3252番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 相聞。作者未詳。
修辞
- 対句
- 「念へかも胸安からぬ」と「戀ふれかも心の痛き」。
- 枕詞
- 「蜻蛉島」「玉耀る」「まそ鏡」「大舟の」「ひさかたの」「草枕」。
解説
言挙げをしない国だからこそあえて言挙げをするという発想は、続く人麻呂歌集の3253番と共通する。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、503頁(コマ44)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、581頁(コマ54)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日