古典ライブラリー

万葉集 巻第十三 3234〜3235番

やすみしし わご大皇

作者未詳

大君の治める伊勢の国は、国見をすれば山は高く貴く、川はさやかに清く、港をなす海も広く、島も名高い。その山辺の石の原に宮仕えする大宮人は、天地日月とともに万代まで続いてほしい、と伊勢の離宮をたたえる長歌と反歌。

伊勢の山辺の離宮で、大宮人たちが仕えている

題詞(雑歌)

  1. 1やすみししやすみししやすみししわごわごわご大皇おほきみ大皇おほきみおおきみ八隅知之 和期大皇長歌
  2. 2高たか高たかたか照て照ててらすらすらす日ひ日ひひののの皇子みこ皇子みこみこののの高照 日之皇子之
  3. 3聞きこ聞きこきこししし食を食をおすすす御み御みみ饌け饌けけつつつ國くに國くにくに聞食 御食都國
  4. 4神かむ神かむかむ風かぜ風かぜかぜののの伊勢いせ伊勢いせいせののの國くに國くにくにははは神風之 伊勢乃國者
  5. 5國くに國くにくに見み見みみれれればばばしもしもしも山やま山やまやま見み見みみれれればばば國見者之毛 山見者
  6. 6高たか高たかたかくくく貴たふと貴たふととうとししし河かは河かはかは見み見みみれれればばば高貴之 河見者
  7. 7さやけくさやけくさやけく淸きよ淸きよきよししし水門みなと水門みなとみなとなすなすなす左夜氣久淸之 水門成
  8. 8海うみ海うみうみももも廣ひろ廣ひろひろししし見み見みみ渡わた渡わたわたしししののの海毛廣之 見渡
  9. 9島しま島しましまももも名な名なな高たか高たかたかししし此こ此ここをををしもしもしも島名高之 己許乎志毛
  10. 10目ま目まま細ぐは細ぐはぐわしししみみみかもかもかも掛か掛かかけけけまくまくまくももも間細美香母 挂卷毛
  11. 11あやあやあやににに恐かしこ恐かしこかしこききき山やま山やまやま邊のべ邊のべのべののの文爾恐 山邊乃
  12. 12石いし石いしいしののの原はら原はらはらにににうちうちうち日ひ日ひひさすさすさす五十師乃原爾 內日刺
  13. 13大おほ大おほおお宮みや宮みやみや仕づか仕づかずかへへえ朝あさ朝あさあさ日ひ日ひひなすなすなす大宮都可倍 朝日奈須
  14. 14まぐはしまぐはしまぐわしももも暮ゆふ暮ゆふゆう日ひ日ひひなすなすなす目細毛 暮日奈須
  15. 15うらぐはしうらぐはしうらぐわしももも春はる春はるはる山やま山やまやまののの浦細毛 春山之
  16. 16しなひしなひしない榮さか榮さかさかえええててて秋あき秋あきあき山やま山やまやまののの四名比盛而 秋山之
  17. 17色いろ色いろいろなつかしきなつかしきなつかしき百磯城ももしき百磯城ももしきももしきののの色名付思吉 百礒城之
  18. 18大おほ大おほおお宮みや宮みやみや人びと人びとびとははは天あめ天あめあめ地つち地つちつち大宮人者 天地與
  19. 19日ひ日ひひ月つき月つきつきととと共とも共ともともににに萬よろづ萬よろづよろず代よ代よよにににもももががが日月共 萬代爾母我
  20. 20山やま山やまやま邊のべ邊のべのべののの山邊乃反歌
  21. 21石いし石いしいしののの御み御みみ井ゐ井ゐいははは五十師乃御井者
  22. 22おのづからおのづからおのずから自然
  23. 23成な成ななれれれるるる錦にしき錦にしきにしきををを成錦乎
  24. 24張は張ははれれれるるる山やま山やまやまかもかもかも張流山可毛

引用の仕方

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現代語訳

〔3234〕(やすみしし)わが大君、(高照らす)日の皇子がお治めになる、御食を奉る国、(神風の)伊勢の国は、国を見渡せば、山を見れば高く貴く、川を見ればさやかに清らかだ。港をなす海も広く、見渡す島も名高い。これを見て心ひかれるからか、口にするのも恐れ多い山辺の石の原に、(うち日さす)大宮を営み、朝日のように美しく、夕日のように心にしみて美しい。春山のようにしなやかに栄え、秋山のように色の慕わしい(百磯城の)大宮人は、天地や日月とともに、万代までもあってほしい。

〔3235〕山辺の石の御井は、自然とできた錦を張りめぐらした山であることよ。

意訳

伊勢の国の山辺の石の原にある離宮をたたえる長歌である。山は高く川は清く、海も広く島も名高い伊勢の国に大宮を営み、そこに仕える大宮人が天地日月とともに永遠に続くことを願う。反歌では、御井のあたりの山を自然の錦を張りめぐらした山とたたえる。

語釈・文法注

文法・本文

やすみしし
「わご大皇」にかかる枕詞。
御饌つ國
「みけつくに」。天皇の食料を奉る国。
神風の
「伊勢」にかかる枕詞。
水門
「みなと」。港。
目細し
「まぐはし」。見て美しい。
山邊の石の原
伊勢の地名。離宮があった。
百磯城の
「ももしきの」。「大宮」にかかる枕詞。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十三・雑歌・3234〜3235番
歌体
長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
雑歌。作者未詳。伊勢の離宮をたたえる。

修辞

対句
「山見れば高く貴し」と「河見ればさやけく淸し」、「朝日なすまぐはしも」と「暮日なすうらぐはしも」など。
枕詞
「やすみしし」「高照らす」「神風の」「百磯城の」。

解説

国見の形式で国土と宮をたたえる、宮廷讃歌の伝統に立つ長歌である。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、499頁(コマ42)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、576頁(コマ52)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日