万葉集 巻第十三 3227〜3229番
葦原の 瑞穂の國に
神代から語り継ぐ甘南備の三諸の山は、春は霞が立ち秋は紅に照り映える。その神が帯にしている明日香川の速い流れに苔むした石枕のように、安らかに通う手立てを夢に見せてください、斎き祭る神であるから、と祈る長歌と反歌二首。
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題詞(雑歌)
- 1葦葦あし原原はらののの瑞瑞みず穗穗ほののの國國くにににに葦原笑 水穗之國丹長歌
- 2手手た向向むけすすすととと天降天降あもりりりましましましけむけむけん手向爲跡 天降座兼
- 3五百萬五百萬いおよろず千萬千萬ちよろず神神かみののの五百萬 千萬神之
- 4神神かみ代代よよりよりより言言いひひい續續つぎぎぎ來來きたるるる神代從 云續來在
- 5甘南備甘南備かむなびののの三諸三諸みもろののの山山やまははは甘南備乃 三諸山者
- 6春春はるさればさればされば春春はる霞霞がすみ立立たちちち春去者 春霞立
- 7秋秋あき往往ゆけけけばばばくれなゐくれなゐくれない艶艶におふふう秋往者 紅丹穗經
- 8甘南備甘南備かむなびののの三諸三諸みもろののの神神かみののの甘甞備乃 三諸乃神之
- 9帶帶おびにににせるせるせる明日香明日香あすかののの河河かはののの帶爲 明日香之河之
- 10水脈水脈みお速速はやみみみ生生おひひいためためため難難がたききき水尾速 生多米難
- 11石石いわ枕枕まくら蘿蘿こけ生生むすすすまでまでまでににに石枕 蘿生左右二
- 12新新あらた夜夜よののの平安平安さきくくく通通かよははわむむん新夜乃 好去通牟
- 13事事こと計計はかり夢夢いめににに見見みせせせこそこそこそ事計 夢爾令見社
- 14劍劍つるぎ刀刀たち齋齋いわひひい祭祭まつれれれるるる神神かみにににししし坐坐ませせせばばば劍刀 齋祭 神二師座者
- 15神南備神南備かむなびののの神名備能反歌
- 16三諸三諸みもろののの山山やまににに三諸之山丹
- 17齋齋いわふふう杉杉すぎ隱藏杉
- 18おもひおもひおもい過過すぎぎぎめめめややや思將過哉
- 19蘿蘿こけ生生むすすすまでまでまでににに蘿生左右
- 20齋齋い串串ぐし立立たててて五十串立反歌
- 21神酒神酒みわ坐坐すゑゑえ奉奉まつるるる神酒座奉
- 22神主部神主部かむぬしののの神主部之
- 23髻華髻華うずののの玉玉たま蔭蔭かげ雲聚玉蔭
- 24見見みれれればばば乏乏ともしもしもしも見者乏文
現代語訳
〔3227〕葦原の瑞穂の国に、手向けをしようと天降られたという五百万千万の神々の神代から言い継いで来た甘南備の三諸の山は、春になると春霞が立ち、秋になると紅に照り映える。その甘南備の三諸の神が帯にしている明日香川の流れが速いので、苔の生えにくい石枕に苔が生えるまで、新しく来る夜ごとに、無事に通える手立てを夢に見せてください。剣太刀を祭るように身を慎んで祭っている神でいらっしゃるのだから。
〔3228〕神南備の三諸の山に神聖に祭られている杉のように、思いが消え去ることがあろうか。苔が生えるまでも。
〔3229〕斎串を立て、神酒を据えてお供えする神主たちの、髻華の玉蔭を見ると、心ひかれることだ。
意訳
神代から語り継がれる甘南備の三諸の山をたたえ、その神に、恋人のもとへ毎夜無事に通えるよう夢で手立てを示してほしいと祈る長歌である。反歌では三諸の杉に寄せて変わらぬ思いを誓い、神に仕える神主たちの髪飾りの美しさを詠む。
語釈・文法注
文法・本文
- 手向す
- 神に手向けをする。
- 五百萬千萬神
- 「いほよろづちよろづがみ」。数多くの神々。
- 艶ふ
- 「にほふ」。照り映える。
- 石枕
- 「いはまくら」。川の中の枕のような石。
- 平安く
- 「さきく」。無事に。
- 齋串
- 「いぐし」。神に供える串。
- 髻華
- 「うず」。髪に挿す飾り。
- 玉蔭
- 「たまかげ」。日陰のかずらの美称。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十三・雑歌・3227〜3229番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 雑歌。作者未詳。
修辞
- 対句
- 「春されば春霞立ち」と「秋往けばくれなゐ艶ふ」。
- 枕詞
- 「劍刀」。
解説
3227番は神の山への賛美と恋の祈りが結びついた歌で、古代の神祭りと恋の関わりを伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、497頁(コマ41)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、575頁(コマ51)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日