万葉集 巻第十一 2787〜2791番
天地の 依り合ひの極
天地が寄り合う果てまで玉の緒のように絶えまいと思う妹の家のあたりを見た。命をかけて思うのは苦しい、玉の緒が切れて乱れるように乱れてしまおう、知るなら知れ。玉の緒が切れたような恋の乱れには死ぬばかりだ、また逢うこともなく。玉の緒をくくり寄せて最後には別れず同じ緒になろう。片糸で貫いた玉の緒が弱いように乱れてしまうか、人に知られるほど。玉の緒に寄せた歌五首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1天天あめ地地つちののの天地之2787
- 2依依よりりり合合あひひいののの極極きわみ依相極
- 3玉玉たまののの緒緒をののの玉緒之
- 4絕絕たえええじじじとととおもふおもふおもう不絕常念
- 5妹妹いもがががあたりあたりあたり見見みつつつ妹之當見津
- 6生生いきののの緒緒をににに生緒爾2788
- 7念念おもふふうははは苦苦くるししし念者苦
- 8玉玉たまののの緒緒をののの玉緒乃
- 9絕絕たえええててて亂亂みだれれれななな絕天亂名
- 10知知しらららばばば知知しるるるともともとも知者知友
- 11玉玉たまののの緒緒をののの玉緒之2789
- 12絕絕たえええたるたるたる戀戀こいののの絕而有戀之
- 13亂亂みだれれれにににははは亂者
- 14死死しなななまくまくまくのみのみのみぞぞぞ死卷耳其
- 15又又またももも逢逢あははわずずずしししててて又毛不相爲而
- 16玉玉たまののの緒緒をののの玉緒之2790
- 17くくりくくりくくり寄寄よせせせつつつつつつ久栗緣乍
- 18末末すえつひつひついににに末終
- 19去去ゆきききははは分分わかれれれずずず去者不別
- 20同同おなじじじ緒緒をにににあらあらあらむむん同緒將有
- 21片片かた絲絲いともちもちもち片絲用2791
- 22貫貫ぬきききたるたるたる玉玉たまののの貫有玉之
- 23緒緒をををを弱弱よわみみみ緒乎弱
- 24亂亂みだれれれやややしししなむなむなん亂哉爲南
- 25人人ひとののの知知しるるるべくべくべく人之可知
現代語訳
〔2787〕天と地が寄り合う果てまでも、玉の緒のように絶えまいと思ういとしい人の家のあたりを、見たことだ。
〔2788〕命をかけて思い続けるのは苦しい。玉の緒が切れて玉が乱れるように、いっそ乱れてしまおう。人が知るなら知ってもよい。
〔2789〕玉の緒が切れたような恋の乱れには、ただ死ぬばかりだ。二度と逢うこともなくて。
〔2790〕玉の緒をくくり寄せるように、最後には離れ離れにならず、同じ緒になろう。
〔2791〕片糸で貫いた玉の緒が弱いので玉が乱れるように、心が乱れてしまうのだろうか。人に知られるほどに。
意訳
玉の緒に寄せた歌である。天地の果てまで絶えまいと思う恋人の家を見る歌、命がけの恋が苦しいので玉の緒が切れるように乱れて人に知られてもよいという歌、切れた玉の緒のような恋の乱れに死を思う歌、玉の緒をくくり寄せるように最後には一緒になろうという歌、片糸の緒のように弱い心が乱れて人に知られるかと恐れる歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 依り合ひの極
- 天と地が寄り合う果て。
- 生の緒
- 「いきのを」。命。
- 亂れな
- 乱れてしまおう。
- 死なまくのみぞ
- 死ぬことばかりだ。
- くくり寄せ
- 緒の端を寄せて結ぶ。
- 片絲
- 撚り合わせていない一本の糸。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2787〜2791番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(玉の緒に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 比喩
- 玉の緒が切れて玉が乱れることを、恋の心の乱れにたとえる。
- 序詞
- 2790番の上二句、2791番の上三句が下の句を導く。
解説
玉の緒は命や二人の仲のたとえで、その切れることや乱れることが、恋の苦しみの表現としてくり返し用いられている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、456頁(コマ21)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、526頁(コマ27)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日