万葉集 巻第十一 2748〜2751番
大舟に 葦荷刈り積み
大舟に葦の荷をぎっしり積むように、妹がしっかりと私の心に乗ってしまった。駅路に引舟を渡してまっすぐ乗るように、妹が私の心に乗ってしまった。妹に逢わずに久しい、阿倍橘に苔が生えるまでに。あじ鴨の住む渚沙の入江の荒磯の松のように、私を待つ人はただ一人だけ。舟・橘・松に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1大大おお舟舟ぶねににに大舟爾2748
- 2葦葦あし荷荷に刈刈かりりり積積つみみみ葦荷刈積
- 3しみみしみみしみみにににももも四美見似裳
- 4妹妹いもががが心心こころににに妹心爾
- 5乘乘のりりりにににけるけるけるかもかもかも乘來鴨
- 6驛驛はゆま路路じににに驛路爾2749
- 7引引ひき舟舟ふね渡渡わたししし引舟渡
- 8直直ただ乘乘のりににに直乘爾
- 9妹妹いもががが情情こころににに妹情爾
- 10乘乘のりりりにににけるけるけるかもかもかも乘來鴨
- 11吾吾わぎ妹妹も子子こににに吾妹子2750
- 12逢逢あははわずずず久久ひさしししももも不相久
- 13甘美甘美うまし物物もの馬下乃
- 14阿倍阿倍あべ橘橘たちばなののの阿倍橘乃
- 15蘿蘿こけ生生むすすすまでまでまでににに蘿生左右
- 16あぢあぢあじののの住住すむむむ味乃住2751
- 17渚沙渚沙すさののの入入いり江江えののの渚沙乃入江之
- 18荒荒あり磯磯そ松松まつ荒礒松
- 19我我あををを待待まつつつ兒兒こらららははは我乎待兒等波
- 20ただただただ一一ひと人人りのみのみのみ但一耳
現代語訳
〔2748〕大舟に刈った葦の荷をぎっしりと積むように、いとしい人がしっかりと私の心に乗ってしまったことだ。
〔2749〕駅路に引舟を渡して、まっすぐに乗るように、いとしい人がまっすぐ私の心に乗ってしまったことだ。
〔2750〕いとしい人に逢わないまま久しいことだ。(甘美物)阿倍橘に苔が生えるほどまでに。
〔2751〕あじ鴨の住む渚沙の入江の荒磯の松のように、私を待っている人は、ただ一人だけなのだ。
意訳
舟・橘・松に寄せた歌である。葦の荷を積んだ大舟のように恋人がしっかり心に乗ってしまった歌、引舟にまっすぐ乗るように恋人が心に乗ってしまった歌、橘に苔が生えるほど長く逢えない嘆き、荒磯の松のように自分を待つ人はただ一人という歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- しみみに
- ぎっしりと。
- 妹が心に乘り
- いとしい人が私の心に乗りかかって離れない。
- 驛路
- 「はゆまぢ」。駅馬の通う官道。
- 直乘
- 「ただのり」。まっすぐに乗ること。
- 甘美物
- 「うましもの」。「阿倍橘」にかかる枕詞。
- 荒磯松
- 荒磯に立つ松。「待つ」を掛ける。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2748〜2751番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(舟・橘・松に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 2748・2749番の上二句が「乘り」の状態を、2751番の上三句が「待つ」を導く。
- 掛詞
- 2751番の「松」と「待つ」。
解説
「妹が心に乘る」は、恋人のことが心から離れないことを表す万葉集独特の表現である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、453頁(コマ19)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、522頁(コマ25)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日