万葉集 巻第十一 2686〜2689番
夜占問ふ 吾が袖に置く
夕占を問う私の袖に置いた白露を、君に見せようと取ると消えてしまう。苧原の下草に露がおりているから、夜を明かしてから行け、母は知っても。待ちかねて家の中には入るまい、袖に露が置いても。露のように消えやすい身が老いても、若返って君を待とう。露に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1夜夜ゆう占占け問問とふふう夜占問2686
- 2吾吾わががが袖袖そでににに置置おくくく吾袖爾置
- 3白白しら露露つゆををを白露乎
- 4君君きみににに見見みせせせむむんととと於公令視跡
- 5取取とれれればばば消消けにににつつつつつつ取者消管
- 6櫻櫻さくら麻麻あさののの櫻麻乃2687
- 7苧苧お原原うののの下下した草草くさ苧原之下草
- 8露露つゆしししあれあれあればばば露有者
- 9明明あかしししててていいい行行ゆけけけ令明而射去
- 10母母ははははは知知しるるるともともとも母者雖知
- 11待待まちちちかねかねかねててて待不得而2688
- 12內內うちへへへははは入入いらららじじじ內者不入
- 13白細布白細布しろたえののの白細布之
- 14吾吾わががが衣衣ころも手手でににに吾袖爾
- 15露露つゆははは置置おきききぬぬぬともともとも露者置奴鞆
- 16朝朝あさ露露つゆののの朝露之2689
- 17消消け易易やすききき吾吾わががが身身み消安吾身
- 18老老おいいいぬぬぬともともとも雖老
- 19またまたまた若若わかがへりがへりがえり又若反
- 20君君きみをををししし待待またたたむむん君乎思將待
現代語訳
〔2686〕夕占を問うて立つ私の袖に置いた白露を、あなたに見せようと思って手に取ると、消えてしまうことだ。
〔2687〕桜麻の苧原の下草に露がおりているから、夜を明かしてからお行きなさい。母は知ってしまっても。
〔2688〕待ちかねても、家の中へは入るまい。白妙の私の袖に露が置いてしまっても。
〔2689〕朝露のように消えやすい私の身が老いてしまっても、また若返って、あなたを待とう。
意訳
露に寄せた歌である。夕占に立って袖に置いた白露を恋人に見せようとしても消えてしまうという歌、露の深い夜道を帰る恋人を引き留めて、母に知られてもよいから夜を明かして行けという女の歌、露に濡れても家に入らず待ち続ける歌、露のようにはかない身が老いても若返って待とうという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 夜占
- 「ゆふけ」。夕方の辻占。
- 消につつ
- 消えてしまって。
- 苧原
- 「をふ」。麻の生えている所。
- 明していけ
- 夜を明かしてから行け。
- 若がへり
- 若返って。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2686〜2689番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(露に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 2689番の「朝露の」が「消易き」を導く。
- 誇張
- 2689番の、老いても若返って待とうという表現。
解説
2687番は、母に知られる危険を冒してでも恋人を引き留めようとする、大胆な女の歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、449頁(コマ17)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、516頁(コマ22)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日