万葉集 巻第十一 2682〜2685番
韓衣 君にうち著せ
韓衣を君に着せて見たいと恋い暮らした、雨の降る日を。向こうの土の小屋に小雨が降って床まで濡れた、身に寄り添っておくれ吾妹。笠がないと人には言って、雨宿りして留まった君の姿が思われる。妹の門を行き過ぎかねる、雨でも降らないか、それを口実にしよう。雨に寄せた歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1韓韓から衣衣ごろも辛衣2682
- 2君君きみにににうちうちうち著著きせせせ君爾內著
- 3見見みまくまくまく欲欲ほりりり欲見
- 4戀戀こひひいぞぞぞ暮暮くらしらしらしししし戀其晚師之
- 5雨雨あめののの零零ふるるる日日ひををを雨零日乎
- 6彼方彼方おちかたののの彼方之2683
- 7赤土赤土はにののの小小を屋屋やににに赤土少屋爾
- 8霡霂霡霂ひさめ零零ふりりり霡霂零
- 9床床とこさへさへさへ沾沾ぬれれれぬぬぬ床共所沾
- 10身身みににに副副そへへえ我我わぎ妹妹も於身副我妹
- 11笠笠かさ無無なみみみととと笠無登2684
- 12人人ひとにににははは言言いひひいててて人爾者言手
- 13雨雨あま障障づつみ雨乍見
- 14留留とまりりりししし君君きみががが留之君我
- 15容儀容儀すがたししし念念おもほゆほゆおゆ容儀志所念
- 16妹妹いもががが門門かど妹門2685
- 17行行ゆききき過過すぎぎぎかねかねかねつつつ去過不勝都
- 18ひさかたひさかたひさかたののの久方乃
- 19雨雨あめももも零零ふらららぬぬぬかかか雨毛零奴可
- 20其其そををを因因よしにににせせせむむん其乎因將爲
現代語訳
〔2682〕韓衣をあなたに着せて見たいと思って、恋しく思いながら暮らしたことだ。雨の降る日を。
〔2683〕向こうの赤土の小屋に小雨が降って、床まで濡れてしまった。身に寄り添っておくれ、いとしい人よ。
〔2684〕笠がないからと人には言って、雨宿りをして留まっていたあなたの姿が思い出される。
〔2685〕いとしい人の家の門を行き過ぎかねている。(ひさかたの)雨でも降ってくれないか。それを口実にしよう。
意訳
雨に寄せた歌である。雨の日に恋人に衣を着せたいと思い暮らす女の歌、雨漏りのする粗末な小屋で恋人に寄り添ってほしいと願う歌、笠がないと言い訳をして雨宿りに留まった恋人の姿を思い出す歌、恋人の家の前を通り過ぎかねて、雨でも降れば立ち寄る口実になるのにという男の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- うち著せ
- 着せて。
- 彼方
- 「をちかた」。向こうの方。
- 赤土の小屋
- 「はにのをや」。土で塗った粗末な小屋。
- 霡霂
- 「ひさめ」。小雨、また大雨とも。
- 雨障
- 「あまづつみ」。雨に降りこめられて家にこもること。
- 因
- 「よし」。口実。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2682〜2685番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(雨に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 2685番の「ひさかたの」が「雨」にかかる。
解説
2684・2685番は、雨を口実に恋人のもとに留まりたい、立ち寄りたいという男女の心を、ほほえましく描いている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、449頁(コマ17)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、516頁(コマ22)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日