万葉集 巻第十一 2679〜2681番
窓越しに 月おし照りて
窓越しに月が照りわたり、山おろしの吹く夜は君を思う。川千鳥の住む沢に立つ霧のように、言い交わし始めたら人目に立つだろう。背子の使いを待って笠もかぶらずに出て見た、雨が降るのに。月・霧・雨に寄せた歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1窓窓まど越越ごしししににに窓超爾2679
- 2月月つきおしおしおし照照てりりりててて月臨照而
- 3あしひきあしひきあしひきののの足檜乃
- 4嵐嵐あらし吹吹ふくくく夜夜よははは下風吹夜者
- 5君君きみをををしししぞぞぞ念念おもふふう公乎之其念
- 6河河かわ千千ち鳥鳥どり河千鳥2680
- 7住住すむむむ澤澤さわののの上上へににに住澤上爾
- 8立立たつつつ霧霧きりののの立霧之
- 9著著いちしろけけけむむんななな市白兼名
- 10相相あい言言いひひい始始そめめめてててばばば相言始而者
- 11吾吾わが背背せ子子こががが吾背子之2681
- 12使使つかいををを待待まつつつととと使乎待跡
- 13笠笠かさももも著著きずずず笠毛不著
- 14出出いでででつつつつつつぞぞぞ見見みししし出乍其見之
- 15雨雨あめののの降降ふらららくくくににに雨落久爾
現代語訳
〔2679〕窓越しに月が照りわたって、(あしひきの)山おろしの吹く夜は、あなたのことばかり思う。
〔2680〕川千鳥の住む沢のほとりに立つ霧のように、はっきりと人目に立つだろうな。互いに言い交わし始めたなら。
〔2681〕あの人の使いを待つとて、笠もかぶらずに何度も出て見たことだ。雨が降っているのに。
意訳
月・霧・雨に寄せた歌である。月の照る嵐の夜に恋人を思う歌、沢に立つ霧のように言い交わせばすぐに人に知られるだろうという不安、雨の中を笠もかぶらずに恋人の使いを待って何度も外に出る女の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- おし照りて
- 一面に照りわたって。
- 嵐
- 白文は「下風」と書く。山から吹きおろす風。
- 著けむな
- 「いちしろけむな」。はっきり目立つだろうな。
- 相言ひ始めてば
- 互いに言い交わし始めたなら。
- 降らくに
- 降っているのに。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2679〜2681番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(月・霧・雨に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 序詞
- 2680番の上三句が「著けむ」を導く。
- 枕詞
- 2679番の「あしひきの」が「嵐」にかかる。
解説
2681番は、雨に濡れるのもかまわず恋人の使いを待つ女の姿を、具体的な動作で描いている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、448頁(コマ17)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、516頁(コマ22)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日