古典ライブラリー

万葉集 巻第十一 2675〜2678番

君が著る 三笠の山に

作者未詳

三笠の山にかかる雲が立てば続いて立つように、絶え間ない恋をする。空を飛ぶ雲であったなら、君に逢わない日はないのに。佐保の里から嵐が吹いたので、帰ることもできず嘆く夜が多い。吹かない風のせいで玉櫛笥のように戸を開けて寝た私が悔しい。雲と風に寄せた歌四首。

戸を開けたまま恋人を待って寝た女が、来なかった夜を悔やんでいる

題詞(物に寄せて思を陳ぶ)

  1. 1君きみ君きみきみががが著き著ききるるる君之服2675
  2. 2三笠みかさ三笠みかさみかさののの山やま山やまやまににに三笠之山爾
  3. 3居ゐ居ゐいるるる雲くも雲くもくもののの居雲乃
  4. 4立た立たたてててばばば繼つ繼つつがががるるるるるる立者繼流
  5. 5戀こひ戀こひこいもももするするするかもかもかも戀爲鴨
  6. 6ひさかたひさかたひさかたののの久堅之2676
  7. 7天あま天あまあま飛と飛ととぶぶぶ雲くも雲くもくもににに天飛雲爾
  8. 8ありありありてててしかしかしか在而然
  9. 9君きみ君きみきみににに相あひ相あひあい見み見みみむむむ君相見
  10. 10闕お闕おおつるつるつる日ひ日ひひ無な無ななしししににに落日莫死
  11. 11佐保さほ佐保さほさほののの內うち內うちうちゆゆゆ佐保乃內從2677
  12. 12嵐あらし嵐あらしあらしののの風かぜ風かぜかぜののの下風之
  13. 13吹ふ吹ふふきききぬれぬれぬればばば吹禮波
  14. 14還かへ還かへかえりりりははは知し知ししらららににに還者胡粉
  15. 15歎なげ歎なげなげくくく夜よ夜よよぞぞぞ多おほ多おほおおききき歎夜衣大寸
  16. 16愛は愛ははしきしきしきやしやしやし級寸八師2678
  17. 17吹ふ吹ふふかかかぬぬぬ風かぜ風かぜかぜゆゑゆゑゆえ不吹風故
  18. 18玉たま玉たまたま匣くしげ匣くしげくしげ玉匣
  19. 19開あ開ああけけけてててさささ宿ね宿ねねにににししし開而左宿之
  20. 20吾われ吾われわれぞぞぞ悔くや悔くやくやしきしきしき吾其悔寸

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔2675〕(君が著る)三笠の山にかかる雲が立てば次々に立ち続くように、絶え間なく続く恋をすることだ。

〔2676〕(ひさかたの)空を飛ぶ雲であったらよいのに。そうすれば、あなたに逢わない日は一日もないだろうに。

〔2677〕佐保の里の内から嵐が吹いてきたので、帰ることもできずに嘆く夜が多いことだ。

〔2678〕ああ、吹きもしない風のせいで、(玉匣)戸を開けたまま寝てしまった私が悔しいことだ。

意訳

雲と風に寄せた歌である。三笠山の雲のように次々に湧き起こる恋、空を飛ぶ雲になって毎日恋人に逢いたいという願い、嵐に帰り道を阻まれて嘆く夜、風の音を恋人の訪れと思って戸を開けて寝たのに来なかった悔しさを詠む歌が並ぶ。

語釈・文法注

文法・本文

君が著る
笠を着る意で「三笠」にかかる枕詞。
ありてしか
あったらよいのに。
闕つる日無しに
欠ける日もなく。
還りは知らに
帰ることもできずに。白文は「胡粉」(ごふん=知らに)と書く戯書という。
愛しきやし
「はしきやし」。ああ、いとしい。ここでは嘆きの声。
玉匣
「たまくしげ」。「開け」にかかる枕詞。

和歌

作者
作者未詳
出典
『万葉集』巻第十一・相聞・2675〜2678番
歌体
短歌(五七五七七)
時期
作者未詳(時代を問わない)
状況
寄物陳思(雲・風に寄せる)。作者未詳。

修辞

序詞
2675番の上三句が「立てば繼がるる」を導く。
枕詞
「君が著る」「ひさかたの」「玉匣」を用いる。

解説

2678番は、風の音に恋人の訪れを期待して戸を開けて寝たのに来なかった、女の悔しさを詠んでいる。

関連

出典

底本
佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、448頁(コマ17)。国立国会図書館デジタルコレクション
原文
佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、516頁(コマ22)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日