万葉集 巻第十一 2626〜2628番
古衣 打棄つる人は
古い衣を捨てるように私を捨てた人は、秋風の立つ頃に物思いをするだろう。はね蘰を着けたばかりの妹が初々しく、笑ったり怒ったりしながら紐を解く。古風な倭文機の帯を結び垂れて、誰という人も君には勝るまい。衣と帯に寄せた歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1古古ふる衣衣ごろも古衣2626
- 2打打うち棄棄すつるつるつる人人ひとははは打棄人者
- 3秋秋あき風風かぜののの秋風之
- 4立立たちちち來來くるるる時時ときににに立來時爾
- 5ものものもの念念もふふうものものものぞぞぞ物念物其
- 6はねはねはね蘰蘰かずら波禰蘰2627
- 7今今いまするするする妹妹いもががが今爲妹之
- 8うらうらうら若若わかみみみ浦若見
- 9咲咲えみみみみみみ慍慍いかりりりみみみ咲見慍見
- 10著著つけけけししし紐紐ひも解解とくくく著四紐解
- 11いにしへいにしへいにしえののの去家之2628
- 12倭文倭文しず機機はた帶帶おびををを倭文旗帶乎
- 13結結むすびびび垂垂たれれれ結垂
- 14誰誰たれとととふふふ人人ひとももも孰云人毛
- 15君君きみにににははは益益まさささじじじ君者不益
現代語訳
〔2626〕古い衣を捨てるように私を捨てた人は、秋風が吹き始める時には、きっと物思いをするものだ。
〔2627〕はね蘰を今着けたばかりのいとしい人が、初々しいので、笑ったり怒ったりしながら、着けていた紐を解くことだ。
〔2628〕古風な倭文機の帯を結び垂れて、誰という人も、あなたにはまさるまい。
意訳
衣と帯に寄せた歌が続く。古い衣のように自分を捨てた男も秋風の寒さには後悔するだろうという女の歌、成人の髪飾りを着けたばかりの初々しい娘が笑ったり怒ったりしながら紐を解く姿、どんな男もあなたにはかなわないという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 打棄つる
- 「うちすつる」。捨て去る。
- はね蘰
- 少女が成人のしるしに着けた髪飾りという。
- うら若み
- 初々しいので。
- 咲みみ慍りみ
- 笑ったり怒ったり。「み」は動作の反復を表す。
- 倭文機帶
- 「しづはたおび」。日本古来の織物の帯。
- 誰とふ人
- 誰という人。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2626〜2628番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(衣・帯に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 比喩
- 2626番は捨てられた身を「古衣」にたとえる。
- 序詞
- 2628番の上三句が、古風な帯を結び垂れる意から「誰」を導くとされる。
解説
2627番は、初めて男を迎える少女の恥じらいと甘えを、笑ったり怒ったりする表情で生き生きと描いている。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、445頁(コマ15)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、511頁(コマ19)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日