万葉集 巻第十一 2623〜2625番
くれなゐの 八鹽の衣
紅の何度も染めた衣を毎朝着て馴れても、ますます心ひかれる。紅の濃く染めた衣のように色深く心に染みたからか、忘れられない。逢えないので夕占を問うとて衣の端を幣に供えたので、衣手はまた継がなければならない。衣に寄せた歌三首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1くれなゐくれなゐくれないののの吳藍之2623
- 2八八や鹽鹽しおののの衣衣ころも八鹽乃衣
- 3朝朝あさ旦旦なさな朝旦
- 4穢穢なるるるとととはははすれすれすれどどど穢者雖爲
- 5いやいやいやめづらしめづらしめずらしももも益希將見裳
- 6くれなゐくれなゐくれないののの紅之2624
- 7濃濃こ染染ぞめののの衣衣ころも深染衣
- 8色色いろ深深ふかくくく色深
- 9染染しみみみにににしししかばかばかばかかか染西鹿齒蚊
- 10忘忘わすれれれかねかねかねつるつるつる遺不得鶴
- 11逢逢あははわなくなくなくににに不相爾2625
- 12夕夕ゆう占占けををを問問とふふうととと夕卜乎問常
- 13幣幣ぬさににに置置おくくくににに幣爾置爾
- 14吾吾わががが衣衣ころも手手でははは吾衣手者
- 15又又またぞぞぞ續續つぐぐぐべきべきべき又曾可續
現代語訳
〔2623〕紅に何度も染めた衣を毎朝着て、着馴れてはいるけれど、いよいよ心ひかれることだ。
〔2624〕紅の濃く染めた衣のように、色深く心に染みてしまったからか、忘れられないことだ。
〔2625〕逢えないので、夕占を問おうとして、袖を切って幣として供えたので、私の衣の袖は、また継ぎ足さなければならない。
意訳
衣に寄せた歌の続きである。何度も紅に染めた衣のように、馴れ親しむほどにいよいよ心ひかれる恋人、濃く染めた衣のように心に深く染みた恋、夕占のたびに袖を切って幣として供えるので袖が短くなってしまうという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 八鹽
- 「やしほ」。何度も染め汁に浸すこと。
- 朝旦
- 「あさなさな」。毎朝。
- 穢る
- 「なる」。着馴れる、馴れ親しむ。
- 濃染
- 「こぞめ」。濃く染めること。
- 幣
- 「ぬさ」。神に供える布など。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2623〜2625番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 寄物陳思(衣に寄せる)。作者未詳。
修辞
- 比喩
- 2623・2624番は紅に染めた衣を恋心にたとえる。
- 誇張
- 2625番は、幣に袖を切ったので袖を継がねばならないという。
解説
2625番は、夕占のたびに袖を幣として供えるほど占いをくり返す、恋の切実さをユーモラスに伝える。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、444頁(コマ15)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、511頁(コマ19)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日