万葉集 巻第十一 2607〜2610番
敷妙の 衣手離れて
共寝の袖を離れて私を待っているであろう子が面影に見える。妹と袖を分かった日から衣を片敷いて恋い続けて寝る。妹の家のあたりで絶えず振ったので白妙の袖はほつれた。黒髪を引き解いて寝乱れて、ますます恋い続ける。正述心緒の歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1敷敷しき妙妙たえののの敷細之2607
- 2衣衣ころも手手で離離かれれれててて衣手可禮天
- 3吾吾わををを待待まつつつととと吾乎待登
- 4在在あるるるらむらむらん子子こらららははは在濫子等者
- 5面面おも影影かげににに見見みゆゆゆ面影爾見
- 6妹妹いもががが袖袖そで妹之袖2608
- 7別別わかれれれししし日日ひよりよりより別之日從
- 8白白しろ妙妙たえののの白細乃
- 9衣衣ころも片片かた敷敷しききき衣片敷
- 10戀戀こひひいつつつつつつぞぞぞ寐寐ぬるるる戀管曾寐留
- 11白白しろ妙妙たえののの白細之2609
- 12袖袖そでははは紕紕まゆひひいぬぬぬ袖者間結奴
- 13我我わぎ妹妹も子子こががが我妹子我
- 14家家いえのののあたりあたりあたりををを家當乎
- 15止止やまままずずず振振ふりりりしししににに不止振四二
- 16ぬばたまぬばたまぬばたまののの夜干玉之2610
- 17吾吾わががが黑黑くろ髮髮かみををを吾黑髮乎
- 18引引ひきききぬらしぬらしぬらし引奴良思
- 19亂亂みだれれれててて反反さらににに亂而反
- 20戀戀こひひいわたるわたるわたるかもかもかも戀度鴨
現代語訳
〔2607〕(敷妙の)共寝の袖を離れて、私を待っているであろうあの子が、面影に見えることだ。
〔2608〕いとしい人と袖を分かって別れた日から、白妙の衣を片敷いて、恋い続けて独り寝ることだ。
〔2609〕白妙の袖はほつれてしまった。いとしい人の家のあたりを、絶えず振り続けたので。
〔2610〕(ぬばたまの)私の黒髪を解き垂らして、寝乱れて、いっそう恋い続けることだ。
意訳
正述心緒の歌の続きである。共寝の床を離れて自分を待つ恋人の面影を見る歌、別れてから衣を片敷いて独り寝る歌、恋人の家のあたりで袖を振り続けて袖がほつれたという歌、黒髪を解いて寝乱れながら恋い続ける歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 衣手離れて
- 「ころもでかれて」。共寝の袖を離れて。
- 衣片敷き
- 自分の衣だけを敷いて、独り寝ること。
- 紕ひぬ
- 「まゆひぬ」。布がほつれた。
- 引きぬらし
- 髪を解き垂らして。
- 反に
- 「さらに」。いっそう。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2607〜2610番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 「敷妙の」「白妙の」「ぬばたまの」を用いる。
解説
2609番の袖を振る行為は、別れの際に魂を招き寄せる呪的なしぐさでもあった。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、443頁(コマ14)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、509頁(コマ18)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日