万葉集 巻第十一 2567〜2571番
相見ては 戀慰むと
逢えば恋が慰むと人は言うが、逢った後のほうが恋しさがまさる。いい加減に思うならこれほど出がたい御門を退出して来るものか。思ってくれるその人だからか、夜ごとに君が夢に見える。こうも恋うては死にそうなので母にも告げた、絶えず通って。ますらおは友と騒いで心を慰めもしよう、私は苦しい。正述心緒の歌五首。
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題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1相相あい見見みてててははは相見而者2567
- 2戀戀こい慰慰なぐさむむむととと戀名草六跡
- 3人人ひとははは言言いへへえどどど人者雖云
- 4見見みててて後後のちにににぞぞぞももも見後爾曾毛
- 5戀戀こひひいまさりまさりまさりけるけるける戀益家類
- 6おほろかおほろかおおろかににに凡2568
- 7吾吾われししし念念おもははわばばば吾之念者
- 8斯斯かくくくばかりばかりばかり如是許
- 9難難かたききき御御み門門かどををを難御門乎
- 10退退まかりりり出出でめめめやややももも退出米也母
- 11念念おもふふうらむらむらん將念2569
- 12其其そののの人人ひとなれなれなれややや其人有哉
- 13ぬばたまぬばたまぬばたまののの烏玉之
- 14夜夜よ每每ごとににに君君きみががが每夜君之
- 15夢夢いめにににししし見見みゆるゆるゆる夢西所見
- 16斯斯かくくくのみのみのみししし如是耳2570
- 17戀戀こひひいばばば死死しぬぬぬべみべみべみ戀者可死
- 18足乳根足乳根たらちねののの足乳根之
- 19母母ははにににももも告告つげげげつつつ母毛告都
- 20止止やまままずずず通通かよははわせせせ不止通爲
- 21丈夫丈夫ますらおははは大夫波2571
- 22友友ともののの騷騷さわぎににに友之騷爾
- 23慰慰なぐさもるもるもる名草溢
- 24心心こころもももあらあらあらむむん心毛將有
- 25我我われぞぞぞ苦苦くるしきしきしき我衣苦寸
現代語訳
〔2567〕逢えば恋は慰められると人は言うけれど、逢った後のほうが、恋しさはまさることだ。
〔2568〕いい加減に私が思っているのなら、これほど出るのが難しい御門を、退出して来たりするものか。
〔2569〕私を思っているというその人だからだろうか、(ぬばたまの)夜ごとにあなたが夢に見える。
〔2570〕これほど恋い続けていたら死んでしまいそうなので、(足乳根の)母にも告げた。絶えず通っておいでください。
〔2571〕ますらおは友との騒ぎで慰められる心もあるだろう。私は苦しいことだ。
意訳
正述心緒の歌の続きである。逢えば恋が慰むと言うのに逢った後のほうが恋しいという歌、宮仕えの身で出にくい御門を抜け出して来たのは本気だからだという男の歌、夜ごとに夢に見えるのは恋人が思ってくれているからかという歌、恋い死にしそうなので母にも打ち明けたから通って来てほしいと言う女の歌、男は友と騒いで気を紛らわせるだろうが自分は苦しいと嘆く女の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- おほろかに
- いい加減に。
- 退り出
- 「まかりで」。宮中から退出する。
- 騷
- 「さわぎ」。にぎやかに遊ぶこと。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2567〜2571番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 対照
- 2571番は、男の気晴らしと女の苦しみを対比する。
解説
夢に人が見えるのは、相手が自分を思っているからだという考え方が2569番にうかがえる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、440頁(コマ13)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、506頁(コマ17)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日