万葉集 巻第十一 2553〜2556番
夢のみに 見るすら幾許
夢で見るだけでもこれほど恋しいのに、現実に逢ったらどうなるだろう。逢えば恥ずかしくて顔を隠してしまうのに、続けて見たい君。朝戸を早く開けないで、なかなか逢えない君が今夜来ている。簾を行き来して寝はしなくても君は通ってきて。正述心緒の歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1夢夢いめのみのみのみににに夢耳2553
- 2見見みるるるすらすらすら幾許幾許ここだ見尙幾許
- 3戀戀こふるふるうる吾吾われははは戀吾者
- 4寤寤うつつににに見見みてててははは寤見者
- 5ましてましてまして如何如何いかならならならむむん益而如何有
- 6相相あい見見みてててははは對面者2554
- 7面面おも隱隱かくさるるさるるさるる面隱流
- 8ものものものののの故故からににに物柄爾
- 9繼繼つぎぎぎててて見見みまくまくまくののの繼而見卷能
- 10欲欲ほしきしきしき君君きみかもかもかも欲公毳
- 11朝朝あさ戸戸とををを旦戸乎2555
- 12早早はやくくくななな開開あけけけそそそ速莫開
- 13うまさはふうまさはふうまさわう味澤相
- 14見見みがががほるほるほる君君きみががが目之乏流君
- 15今今こ夜夜よい來來きませませませるるる今夜來座有
- 16玉玉たま垂垂だれののの玉垂之2556
- 17小小お簀簀すののの垂垂たれ簾簾すををを小簀之垂簾乎
- 18往往ゆきききがちがちがちににに往褐
- 19寐寐いはははなさなさなさずずずともともとも寐者不眠友
- 20君君きみははは通通かよははわせせせ君者通速爲
現代語訳
〔2553〕夢で見るだけでもこれほど恋しく思う私は、現実に逢ったなら、どれほどになることだろう。
〔2554〕逢うと恥ずかしくて顔を隠してしまうものなのに、それでも続けて見たいあなたであることよ。
〔2555〕朝の戸を早く開けないでおくれ。(うまさはふ)なかなか逢えないあなたが、今夜はおいでになっているのだから。
〔2556〕(玉垂の)小簾の垂れ簾を行き来しがちに、たとえ共寝はしなくても、あなたは通って来てください。
意訳
正述心緒の歌の続きである。夢で見るだけでこれほど恋しいのなら現実に逢えばどうなるかという歌、逢えば恥ずかしくて顔を隠すのに、それでも見たい恋人、たまに訪れた恋人と過ごす夜が明けないよう朝戸を開けるなという願い、共寝はしなくてもせめて通って来てほしいという女の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 幾許
- 「ここだ」。これほどに。
- うまさはふ
- 「目」にかかる枕詞。
- 見がほる
- 見たいと思う。
- 往きがち
- 行き来しがちに。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2553〜2556番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 対照
- 2553番は夢と現実を対比する。
- 枕詞
- 2555番の「うまさはふ」、2556番の「玉垂の」。
解説
2554番は、恋人の前で恥じらう女性の心を素直に描いた歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、439頁(コマ12)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、505頁(コマ16)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日