万葉集 巻第十一 2538〜2541番
獨寢と 薦朽ちめやも
独り寝をしても薦が朽ちるものか、綾の筵が擦り切れて緒になるまで君を待とう。逢ってから千年も過ぎたのか、私がそう思うのか、君を待ちかねて。振分髪が短いので春草を髪に結っているであろう妹を思う。行き戻りして往箕の里に妹を置いて来て心はうつろ、土は踏んでも。正述心緒の歌四首。
場面イラスト(準備中)
題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1獨獨ひとり寢寢ぬととと獨寢等2538
- 2薦薦こも朽朽くちちちめめめやややももも茭朽目八方
- 3綾綾あや席席むしろ綾席
- 4緒緒をににに成成なるるるまでまでまでににに緒爾成及
- 5君君きみをををししし待待またたたむむん君乎之將待
- 6相相あい見見みてててははは相見者2539
- 7千千ち歲歲とせややや去去いぬるぬるぬる千歲八去流
- 8否否いなをををかもかもかも否乎鴨
- 9我我われややや然然しか念念おもふふう我哉然念
- 10君君きみ待待まちちち難難がてににに待公難爾
- 11振振ふり分分わけののの振別之2540
- 12髮髮かみををを短短みじかみみみ髮乎短彌
- 13春春はる草草くさををを青草乎
- 14髮髮かみににに綰綰たくくくらむらむらん髮爾多久濫
- 15妹妹いもをををしししぞぞぞおもふおもふおもう妹乎師曾於母布
- 16徘徊徘徊たもとおりりり徊俳2541
- 17往箕往箕ゆきみののの里里さとににに往箕之里爾
- 18妹妹いもををを置置おきききててて妹乎置而
- 19心心こころ空空そらなりなりなり心空在
- 20土土つちははは踏踏ふめめめどもどもども土者蹈鞆
現代語訳
〔2538〕独り寝をしたからといって、敷いた薦が朽ちるだろうか。綾の筵が擦り切れて緒になるまでも、あなたを待とう。
〔2539〕逢ってからもう千年も過ぎたのだろうか。いや違うのか、私がそう思うだけなのか。あなたを待ちかねて。
〔2540〕振分髪がまだ短いので、春草を髪に結い添えているであろう、いとしい子を思うことだ。
〔2541〕行きつ戻りつして往箕の里にいとしい人を置いて来たので、心はうつろだ。土は踏んで歩いていても。
意訳
正述心緒の歌の続きである。独り寝で薦が朽ちることはない、筵が擦り切れるまで待とうという女の歌、逢えない日々が千年にも感じられるという歌、髪がまだ短いので春草を結い添えているであろう幼い恋人を思う歌、恋人を里に残して来て心がうつろなまま歩く歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 綾席
- 綾織りの筵。
- 否をかも
- いや違うのか。
- 振分
- 振分髪。子どもの髪型。
- 綰く
- 「たく」。髪を結い上げる。
- 心空なり
- 心がうつろである。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2538〜2541番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 誇張
- 2538番の「緒に成るまでに」、2539番の「千歲や去ぬる」。
解説
2541番の「心空なり土は踏めども」は、上の空で足が地につかない心のさまをよく表している。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、438頁(コマ12)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、504頁(コマ16)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日