万葉集 巻第十一 2533〜2537番
面忘れ 如何なる人の
面影を忘れるとはどんな人がすることか、私は絶えず思うのでできない。思ってくれない人のために長い年月恋い続けるのか。並の行いとは思わない、私のために人にひどく噂されたのに。命をかけて思うので年月の過ぎるのもわからない。母に知られずに持つ心は、ままよ、あなたのままに。正述心緒の歌五首。
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題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1面面おも忘忘わすれれれ面忘2533
- 2如何如何いかなるなるなる人人ひとののの何有人之
- 3爲爲するるるものものものぞぞぞ爲物焉
- 4吾吾われははは爲爲しかねかねかねつつつ言者爲金津
- 5繼繼つぎぎぎてててししし念念おもへへえばばば繼手志念者
- 6相相あい思思おもははわぬぬぬ不相思2534
- 7人人ひとののの故故ゆえにににかかか人之故可
- 8あらたまあらたまあらたまののの璞之
- 9年年としののの緒緒を長長ながくくく年緒長
- 10吾吾わががが戀戀こひひい居居おらららむむん言戀將居
- 11凡凡おおよそののの凡乃2535
- 12行行わざははは念念おもははわじじじ行者不念
- 13吾吾われ故故ゆえににに言故
- 14人人ひとににに言言こち痛痛たくくく人爾事痛
- 15云云いははわれれれしししものものものををを所云物乎
- 16氣氣いきののの緒緒をににに氣緒爾2536
- 17妹妹いもをををししし思思おもへへえばばば妹乎思念者
- 18年年とし月月つきののの年月之
- 19往往ゆくくくらむらむらん別別わきももも往覽別毛
- 20念念おもほえほえおえぬぬぬかもかもかも不所念鳧
- 21垂乳根垂乳根たらちねののの足千根乃2537
- 22母母ははににに知知しらえらえらえずずず母爾不所知
- 23吾吾わががが持持もたたたるるる吾持留
- 24心心こころはははよしゑよしゑよしえ心者吉惠
- 25君君きみがががまにまにまにまにまにまに君之隨意
現代語訳
〔2533〕面影を忘れるなどということは、どんな人がするものなのか。私にはできない。絶えず思っているので。
〔2534〕思ってもくれない人のために、(あらたまの)長い年月、私は恋い続けるのだろうか。
〔2535〕いい加減な行いだとは思うまい。私のために、人にひどく噂を立てられたのだから。
〔2536〕命をかけていとしい人を思っているので、年月が過ぎていく区別も感じられないことだ。
〔2537〕(垂乳根の)母に知られずに私が持っている心は、ええままよ、あなたの思いのままに。
意訳
正述心緒の歌の続きである。恋人の顔を忘れることなどできないという歌、思ってくれない人を長く恋い続ける嘆き、自分のために噂を立てられた恋人の思いを軽く見まいという歌、命をかけて思うので年月の過ぎるのも気づかない歌、母に隠した恋心をすべて恋人にゆだねる女の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 面忘れ
- 顔を忘れること。
- 言痛く
- 「こちたく」。うるさく、ひどく。
- 氣の緒に
- 命をかけて。
- よしゑ
- ええままよ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2533〜2537番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 「あらたまの」「垂乳根の」を用いる。
解説
母に知られない恋は、万葉集の女性の恋の歌にくり返し現れる主題である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、438頁(コマ12)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、503頁(コマ15)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日