万葉集 巻第十一 2522〜2526番
恨みむと 思ひて背なは
恨もうと思っていた背子なのに、外からばかり見ていた心は思っていたのに。色には出さず少しも心の中で思わないことはない。君にじかに逢えば名が立つので言葉の通いにどうしてそれほど。ねんごろに片思いをするからか、この頃は正気もない。待っているだろう所に着いたら妹が喜んで笑む姿を早く見よう。正述心緒の歌五首。
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題詞(正に心緒を述ぶ)
- 1恨恨うらみみみむむんととと恨登2522
- 2思思おもひひいててて背背せなななははは思狹名盤
- 3ありありありしかしかしかばばば在之者
- 4外外よそのみのみのみぞぞぞ見見みししし外耳見之
- 5心心こころははは念念おもへへえどどど心者雖念
- 6さささ丹丹にづらふづらふずらう散頰相2523
- 7色色いろにににははは出出いでででずずず色者不出
- 8少少すくなくくくももも小文
- 9心心こころのののうちうちうちににに心中
- 10吾吾わががが念念おもははわなくなくなくににに吾念名君
- 11吾吾わが背背せ子子こににに吾背子爾2524
- 12直直ただににに逢逢あははわばばばこそこそこそ直相者社
- 13名名なははは立立たたたためめめ名者立米
- 14言言ことののの通通かよいににに事之通爾
- 15何何なにかかか其其そこ故故ゆえ何其故
- 16ねもころねもころねもころににに懃2525
- 17片片かた思思もいすれすれすれかかか片念爲歟
- 18此此こののの頃頃ごろののの比者之
- 19吾吾わががが心心こころ神神どののの吾情利乃
- 20生生いけけけりりりともともともなきなきなき生戸裳名寸
- 21待待まつつつらむらむらんににに將待爾2526
- 22到到いたらららばばば妹妹いもががが到者妹之
- 23懽懽うれしみしみしみととと懽跡
- 24咲咲えまままむむん姿姿すがたををを咲儀乎
- 25往往ゆきききててて早早はや見見みむむむ往而早見
現代語訳
〔2522〕恨もうと思って、あの人はいたので、よそからばかり見ていた。心では思っていたけれど。
〔2523〕(さ丹づらふ)顔色には出さないけれど、少しでも心の中で私が思わないことなどないのに。
〔2524〕あなたにじかに逢うのなら名が立ちもしようが、言葉が通い合うだけで、どうしてそのように噂になるのか。
〔2525〕ねんごろに片思いをしているからか、この頃の私の心は、生きている心地もしない。
〔2526〕待っているだろうから、着いたらいとしい人が、うれしいと笑むであろうその姿を、行って早く見よう。
意訳
正述心緒の歌の続きである。恨まれていると思ってよそから見るばかりだったが心では思っていたという歌、顔色には出さないが心では思い続けている歌、言葉を交わしただけで噂になるのを不審がる歌、片思いで生きた心地もしない歌、家で待つ妻の喜ぶ笑顔を早く見ようと家路を急ぐ歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 背な
- 夫、恋人の男。
- 少くも
- 少しでも。
- 心神
- 「こころど」。しっかりした心、正気。
- 懽しみと
- うれしいと思って。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2522〜2526番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 正述心緒。作者未詳。
修辞
- 枕詞
- 2523番の「さ丹づらふ」が「色」にかかる。
解説
2526番は、恋人の喜ぶ顔を思い描いて道を急ぐ、明るい情感の歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、437頁(コマ11)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、502頁(コマ15)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日