万葉集 巻第十一 2444〜2450番
白檀弓 石邊の山の
石辺の山の常磐のように永い命なのか恋い続ける。近江の海に沈む白玉のように知らずに恋した。白玉を手に巻いてから今がまさる。白玉を巻いてから忘れまいと思ったことはいつ終わるのか。ぬばたまの間を空けて貫いた緒のように後に逢おう。香具山に雲がたなびくように心にかかる子を後に恋う。雲間を渡る月のように見た子を見るよしもがな。白玉・雲・月に寄せた歌七首。
場面イラスト(準備中)
題詞(物に寄せて思を陳ぶ)
- 1白白しら檀檀ま弓弓ゆみ白檀2444
- 2石邊石邊いそべののの山山やまののの石邊山
- 3常磐常磐ときわなるなるなる常石有
- 4命命いのちなれなれなれやややももも命哉
- 5戀戀こひひいつつつつつつ居居おらららむむん戀乍居
- 6淡海淡海おうみののの海海うみ淡海海2445
- 7沈沈しずくくく白白しら玉玉たま沈白玉
- 8知知しらららずずずしてしてして不知
- 9戀戀こいせせせしししよりよりよりははは從戀者
- 10今今いまぞぞぞ益益まされれれるるる今益
- 11白白しら玉玉たまををを白玉2446
- 12纏纏まきききてててぞぞぞ持持もてててるるる纏持
- 13今今いまよりよりよりははは從今
- 14吾吾わががが玉玉たまにににせせせむむん吾玉爲
- 15知知しれれれるるる時時ときだにだにだに知時谷
- 16白白しら玉玉たまををを白玉2447
- 17手手てににに纏纏まきききしししよりよりより從手纏
- 18忘忘わすれれれじじじととと不忘
- 19念念おもひひいしししことことことははは念
- 20何時何時いつかかか畢畢おわらららむむん何畢
- 21ぬばたまぬばたまぬばたまののの烏玉2448
- 22間間あいだ開開あけけけつつつつつつ間開乍
- 23貫貫ぬけけけるるる緒緒をももも貫緒
- 24縛縛くくりりり依依よすれすれすればばば縛依
- 25後後のち逢逢あふふうものものものををを後相物
- 26香具山香具山かぐやまににに香山爾2449
- 27雲雲くも居居いたなびきたなびきたなびき雲位桁曳
- 28欝欝おほほしくしくしく於保保思久
- 29相相あい見見みししし子子こらららををを相見子等乎
- 30後後のち戀戀こひひいむむんかもかもかも後戀牟鴨
- 31雲雲くも間間まよりよりより雲間從2450
- 32さささ渡渡わたるるる月月つきののの狹徑月乃
- 33欝欝おほほしくしくしく於保保思久
- 34相相あい見見みししし子子こらららををを相見子等乎
- 35見見みむむむよしよしよしもがもがもがももも見因鴨
現代語訳
〔2444〕(白檀弓)石辺の山のように常磐に変わらぬ命だからだろうか、こうして恋い続けているのは。
〔2445〕近江の海に沈む白玉のように、人知れず恋をしていた時よりも、今のほうが恋しさはまさっている。
〔2446〕白玉を手に巻いて持っている。今からは私の玉にしよう。こうして手に入れた時だけでも。
〔2447〕白玉を手に巻いてから、忘れまいと思ったことは、いつ終わることがあろうか。
〔2448〕(ぬばたまの)玉と玉の間を空けて貫いた緒も、くくり寄せれば一つになるように、後に逢うのだから。
〔2449〕香具山に雲がたなびいているように、ぼんやりと逢ったあの子を、後になって恋しく思うのだろうか。
〔2450〕雲間を渡って行く月のように、ほのかに逢ったあの子を、また見る手立てがあればよいのに。
意訳
山・白玉・雲・月に寄せた恋の歌である。常磐の山のように変わらぬ命で恋い続ける歌、近江の海に沈む白玉に寄せて秘めた恋が今はまさると歌い、白玉を手に巻くように恋人を得た喜びを歌う。玉の緒をくくり寄せるように後には逢えると慰め、香具山の雲や雲間の月のように、ほのかに逢った人を後で恋しく思う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 白檀弓
- 「石邊」にかかる枕詞。
- 常磐
- 「ときは」。永遠に変わらないこと。
- 沈く
- 「しづく」。水底に沈んで見える。
- 欝しく
- 「おほほしく」。ぼんやりと。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2444〜2450番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 寄物陳思。山・白玉・雲・月に寄せた歌。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 序詞
- 2445番の上二句が「知らず」を、2449・2450番の上二句が「欝しく」を導く。
- 譬喩
- 白玉を恋人にたとえる。
解説
白玉は、恋人や大切な人をたとえる語として万葉集に多く用いられる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、431頁(コマ8)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、495頁(コマ11)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日