万葉集 巻第十一 2415〜2420番
處女等を 袖布留山の
布留山の瑞垣のように久しい昔から思い続けてきた。神の持つ命を誰のために長く望もうか。布留の神杉のように古びた恋を改めてする。どんな名の神に幣を奉れば夢にでも妹を見られるか。天地という名が絶えない限り二人の逢瀬はやまない。月を見れば国は同じなのに山が隔てている。山・神・月に寄せた人麻呂歌集の歌六首。
場面イラスト(準備中)
題詞物に寄せて思を陳ぶ
- 1處女處女おとめ等等らををを處女等乎2415
- 2袖袖そで布留布留ふる山山やまののの袖振山
- 3瑞瑞みず垣垣かきののの水垣
- 4久久ひさしきしきしき時時ときゆゆゆ久時由
- 5念念おもひひいけりけりけり吾吾われははは念來吾等者
- 6ちはやぶるちはやぶるちはやぶる千早振2416
- 7神神かみののの持持もたせたせたせるるる神持在
- 8命命いのちをををばばば命
- 9誰誰たががが爲爲ためにににかもかもかも誰爲
- 10長長ながくくく欲欲ほりりりせせせむむん長欲爲
- 11石上石上いそのかみ石上2417
- 12布留布留ふるののの神神かむ杉杉すぎ振神杉
- 13神神かむさびさびさびししし神成
- 14戀戀こいをををももも我我われははは戀我
- 15更更さらにににするするするかもかもかも更爲鴨
- 16如何如何いかならならならむむん何2418
- 17名名なををを負負おふふう神神かみににに名負神
- 18手向手向たむけせせせばばば幣嚮奉者
- 19吾吾わががが念念おもふふう妹妹いもををを吾念妹
- 20夢夢いめにににだにだにだに見見みむむむ夢谷見
- 21天天あめ地地つちととと天地2419
- 22いふいふいう名名なののの絕絕たえええててて言名絶
- 23あらあらあらばばばこそこそこそ有
- 24汝汝いましととと吾吾われととと汝吾
- 25逢逢あふふうことことこと止止やまままめめめ相事止
- 26月月つき見見みれれればばば月見2420
- 27國國くにははは同同おなじじじををを國同
- 28山山やま隔隔へなりりり山隔
- 29愛愛うつくししし妹妹いもははは愛妹
- 30隔隔へなりりりたるたるたるかもかもかも隔有鴨
現代語訳
〔2415〕(處女等を袖)布留山の瑞垣のように、久しい昔から思い続けてきた、私は。
〔2416〕(ちはやぶる)神が授けてくださった命を、誰のために長くあれと願うのだろうか。
〔2417〕(石上)布留の神杉のように古びた私が、このような恋を改めてすることだ。
〔2418〕どのような名を持つ神に手向けをしたら、私の思うあの人を、せめて夢にでも見られるだろうか。
〔2419〕天地という名が絶えてしまうのならば、あなたと私が逢うこともやむだろうが。
〔2420〕月を見ると国は同じなのに、山が隔てていて、いとしい人とは離れていることよ。
意訳
寄物陳思は、物に寄せて思いを述べた恋の歌で、その初めに人麻呂歌集の歌が並ぶ。布留山の瑞垣に寄せて久しい恋を歌い、神から授かった命を恋人のために長く願い、布留の神杉に寄せて年老いてからの恋を歌い、夢で恋人に逢えるよう神に祈る。天地が続く限り二人の仲はやまないと誓い、同じ月を見ているのに山に隔てられた恋人を思う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 處女等を袖
- 少女たちが袖を「振る」ことから「布留」にかかる序。
- 瑞垣
- 神域の垣根。
- 神さびし
- 古びて神々しくなった、年老いた。
- 隔り
- 「へなり」。隔たって。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2415〜2420番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 寄物陳思。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 序詞
- 2415番の上三句が「久しき」を、2417番の上二句が「神さび」を導く。
- 枕詞
- 2416番の「ちはやぶる」が「神」にかかる。
解説
2420番は、離れていても同じ月を見ているという発想の早い例である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、429頁(コマ7)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、493頁(コマ10)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日