万葉集 巻第十一 2363〜2367番
岡崎の たみたる道を
岡崎の曲がった道を人よ通るな、君が来る避け道にしよう。玉垂れの簾の隙から入り通って来て、母が尋ねたら風だと言おう。宮道で逢った人妻ゆえに思い乱れて寝る夜が多い。見たいと思う妹に逢えないものか、絶えた恋のしげきこの頃。海原の路に乗ったのか恋い続ける、ゆったりとした人の子ゆえに。古歌集の旋頭歌五首。
場面イラスト(準備中)
題詞(旋頭歌)
- 1岡岡おか崎崎ざきののの崗前2363
- 2たみたみたみたるたるたる道道みちををを多未足道乎
- 3人人ひとななな通通かよひひいそそそ人莫通
- 4在在ありりりつつつつつつももも在乍毛
- 5君君きみががが來來きまさまさまさむむん公之來
- 6避避よき道道みちにににせせせむむん曲道爲
- 7玉玉たま垂垂だれののの玉垂2364
- 8小小お簾簾すののの隙隙すけきににに小簾之寸鶏吉仁
- 9入入いりりり通通かよひひい來來こねねね入通來根
- 10垂乳根垂乳根たらちねののの足乳根之
- 11母母ははががが問問とはははさささばばば母我問者
- 12風風かぜととと申申まおさささむむん風跡將申
- 13うちうちうち日日ひさすさすさす內日左須2365
- 14宮宮みや道道じににに逢逢あひひいししし宮道爾相之
- 15人人ひと妻妻ずま故故ゆえににに人妻姤
- 16玉玉たまののの緒緒をののの玉緒之
- 17念念おもひひい亂亂みだれれれててて念亂而
- 18寢寢ぬるるる夜夜よしししぞぞぞ多多おおききき宿夜四曾多寸
- 19まそまそまそ鏡鏡かがみ眞十鏡2366
- 20見見みしししがががととと念念おもふふう見之賀登念
- 21妹妹いもににに逢逢あははわぬぬぬかもかもかも妹相可聞
- 22玉玉たまののの緒緒をののの玉緒之
- 23絕絕たえええたるたるたる戀戀こいののの絕有戀之
- 24繁繁しげききき此此こののの頃頃ごろ繁比者
- 25海海うな原原はらののの海原乃2367
- 26路路みちににに乘乘のれれれれれれややや路爾乘哉
- 27吾吾わががが戀戀こひひい居居おらららむむん吾戀居
- 28大大おお船船ぶねののの大舟之
- 29ゆたゆたゆたにににあるあるあるらむらむらん由多爾將有
- 30人人ひとののの兒兒こゆゑゆゑゆえににに人兒由惠爾
現代語訳
〔2363〕岡崎の曲がりくねった道を、人よ通らないでおくれ。このままずっと、あの方がおいでになる避け道にしよう。
〔2364〕(玉垂の)簾の隙間から入って通っておいで。(垂乳根の)母が尋ねたら、風ですと申しましょう。
〔2365〕(うち日さす)宮へ向かう道で逢った人妻のせいで、(玉の緒の)思い乱れて寝る夜が多いことだ。
〔2366〕(まそ鏡)見たいと思ういとしい人に逢えないものか。(玉の緒の)絶えてしまった恋の思いの、しきりなこの頃よ。
〔2367〕海原の路に乗っているかのように、私は恋い続けているのだろうか。(大船の)ゆったりとしているであろう、あの人の子のために。
意訳
古歌集の旋頭歌五首である。恋人が人目を避けて通う曲がり道を他の人に通らせまいとする歌、簾の隙から忍んで来てほしい、母に問われたら風だと言おうという娘の歌、宮道で見かけた人妻に心を乱す男、逢えない恋人を思う歌、海原の路に乗ったように揺れる心で、ゆったりと構えている人を恋う歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- たみたる
- 曲がりくねった。
- 避道
- 「よきみち」。人目を避けて通る道。
- 隙
- 「すけき」。すきま。
- ゆたに
- ゆったりと。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2363〜2367番
- 歌体
- 旋頭歌(五七七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 旋頭歌。古歌集に出る。
修辞
- 枕詞
- 「玉垂の」「垂乳根の」「うち日さす」「玉の緒の」「まそ鏡」「大船の」などの枕詞を用いる。
解説
2364番は、娘のもとへ忍ぶ男を風と偽るという、民謡らしい機知に富んだ歌である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、426頁(コマ6)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、488頁(コマ8)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日