万葉集 巻第八 1429〜1430番
をとめ等が 挿頭のために
少女たちの挿頭のため、風流な男たちの蘰のためにと、天皇が治める国の果てまで咲いた桜の花の美しさよ。去年の春に逢った君を恋しく思っていた桜が、迎えに出てきたらしい。若宮年魚麻呂が誦した桜の長歌と反歌。
場面イラスト(準備中)
題詞櫻花の歌一首并に短歌
- 1をとめをとめおとめ等等らががが挿頭挿頭かざしのののためためためににに嬬嬬等之 頭挿乃多米爾1429 長歌
- 2遊遊みや士士びおががが蘰蘰かずらのののためためためととと遊士之 蘰之多米等
- 3敷敷しききき坐坐ませせせるるる國國くにのののはたてはたてはたてににに敷座流 國乃波多弖爾
- 4咲咲さきききにににけるけるける櫻櫻さくらののの花花はなののの匂匂におひひいはははもももあなにあなにあなに開爾鷄類 櫻花能 丹穗日波母安奈爾
- 5去年去年こぞののの春春はる去年之春1430 反歌
- 6逢逢あへへえりりりししし君君きみににに相有之君爾
- 7戀戀こひひいにににてててししし戀爾手師
- 8櫻櫻さくらののの花花はなははは櫻花者
- 9迎迎むかへへえけらしけらしけらしももも迎來良之母
現代語訳
〔1429〕少女たちの挿頭のために、風流な男たちの蘰のためにと、(天皇が)お治めになる国の果てまで咲いた桜の花の、美しさは、ああ。
〔1430〕去年の春に逢ったあなたを恋しく思っていた桜の花は、あなたを迎えに出てきたらしい。
意訳
長歌は、少女の挿頭や若者の蘰にするためにと、国じゅうに咲き満ちた桜の美しさをたたえている。反歌は、去年の春に会った人を桜が恋しく思っていて、今年もまた咲いて迎えに出たのだろうと、桜を擬人化して歌っている。
語釈・文法注
文法・本文
- 國のはたて
- 国の果て。
- あなに
- 感動を表す語。ああ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第八・雑歌・1429〜1430番
- 歌体
- 長歌(五七をくり返し、五七七で結ぶ)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 桜の花の長歌と反歌。若宮年魚麻呂が誦したものと左注にある。
修辞
- 対句
- 「をとめ等が挿頭のために」と「遊士が蘰のためと」。
- 擬人法
- 反歌で、桜が君を恋い、迎えに出ると見る。
解説
若宮年魚麻呂は古歌を伝誦した人物とみられ、巻第三にも彼が誦した歌がある。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、304頁(コマ156)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、340頁(コマ176)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日