万葉集 巻第七 1410〜1414番
世間は まこと二代は
人の世は本当に二度とは来ないらしい。亡くなった妻に逢えないことを思うと。黒髪が白くなるまで妻の声を聞く幸せな人、背を向けて寝たことの後悔、鶏の垂れ尾のように長く生きる気にもなれない思い、共寝をした妻がいたら惜しむ夜。挽歌の続き五首。
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題詞挽歌(2)
- 1世世よの間間なかははは世間者1410
- 2まことまことまこと二二ふた代代よははは信二代者
- 3行行ゆかかかざらざらざらししし不往有之
- 4過過すぎぎぎにににししし妹妹いもににに過妹爾
- 5逢逢あははわなくなくなく念念おもへへえばばば不相念者
- 6福福さきわいののの福1411
- 7いかなるいかなるいかなる人人ひとかかか何有人香
- 8黑黑くろ髮髮かみののの黑髮之
- 9白白しろくくくなるなるなるまでまでまで白成左右
- 10妹妹いもががが音音こえををを聞聞きくくく妹之音乎聞
- 11吾吾わが背背せ子子こををを吾背子乎1412
- 12何處何處いずく行行ゆかかかめめめととと何處行目跡
- 13さきさきさき竹竹たけののの辟竹之
- 14背背そ向向がいににに宿宿ねしくしくしく背向爾宿之久
- 15今今いまししし悔悔くやしししももも今思悔裳
- 16庭庭にはつつつ鳥鳥とり庭津鳥1413
- 17鷄鷄かけののの垂垂たり尾尾おののの可鷄乃垂尾乃
- 18亂亂みだれ尾尾おののの亂尾乃
- 19長長ながききき心心こころももも長心毛
- 20念念おもほほおえええぬぬぬかもかもかも不所念鴨
- 21薦薦こも枕枕まくら薦枕1414
- 22相相あい纏纏まきききししし兒兒こももも相卷之兒毛
- 23あらあらあらばばばこそこそこそ在者社
- 24夜夜よののの深深ふくくくらくらくらくももも夜乃深良久毛
- 25吾吾わががが惜惜おしみしみしみせせせめめめ吾惜責
現代語訳
〔1410〕人の世は、本当に二度とは来ないらしい。亡くなった妻に逢えないことを思うと。
〔1411〕どんな幸せな人なのだろうか。黒髪が白くなるまで、妻の声を聞いているのは。
〔1412〕わが夫が、どこへ行ってしまうものかと思って、(さき竹の)背中合わせに寝たことが、今は悔やまれる。
〔1413〕(庭つ鳥)鶏の垂れた尾の、乱れた尾のように長く生きようという心も、起こらないことだ。
〔1414〕薦の枕をして共寝をした妻がいたら、夜がふけていくのも、私は惜しむだろうに。
意訳
挽歌の続きである。この世に二度と生まれ変わることはなく、亡き妻にはもう逢えないと嘆く歌、白髪になるまで妻とともに暮らせる人をうらやむ歌、夫は決していなくならないと思い込んで、けんかをして背中合わせに寝たことを悔やむ妻の歌、妻を失って長生きする気にもなれない歌、共寝する妻がいたら夜ふけを惜しむだろうにという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 二代
- 「ふたよ」。二度の人生。
- さき竹の
- 割った竹のように、の意で「背向」にかかる。
- 背向
- 「そがひ」。背中合わせ。
- 庭つ鳥
- 「鷄(かけ)」にかかる枕詞。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・挽歌・1410〜1414番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の「挽歌」の続き五首。作者はわからない。
修辞
- 枕詞
- 「さき竹の」が「背向」に、「庭つ鳥」が「鷄」にかかる。
- 序詞
- 1413番の「庭つ鳥鷄の垂尾の亂尾の」が「長き」を導く。
解説
1412番は、夫を亡くした妻の、ささいなことへの悔いを率直に歌った歌として心を打つ。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、287頁(コマ147)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、318頁(コマ165)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日