万葉集 巻第七 1398〜1403番
さざなみの 志賀津の浦の
志賀津の浦の船に乗ってしまったように、あなたに心を寄せてしまって、いつも忘れられない。八十の島を漕ぐ船、足速の小舟の風待ち、沖の小島、湊の船、杉原の薪。船に寄せた譬喩歌五首と旋頭歌一首。
場面イラスト(準備中)
題詞譬喩歌 船に寄す・旋頭歌
- 1さざなみさざなみさざなみののの神樂聲浪乃1398 船
- 2志賀志賀しが津津つののの浦浦うらののの四賀津之浦能
- 3船船ふな乘乘のりににに船乘爾
- 4乘乘のりりりにににししし心心こころ乘西意
- 5常常つね忘忘わすらららえええずずず常不所忘
- 6百百もも傳傳ずたふふう百傳1399 船
- 7八十八十やそののの島島しま廻廻みををを八十之島廻乎
- 8榜榜こぐぐぐ船船ふねににに榜船爾
- 9乘乘のりりりにににししし情情こころ乘西情
- 10忘忘わすれれれかねかねかねつつつももも忘不得裳
- 11島島しまづたふづたふずたう島傳1400 船
- 12足足あし速速はやののの小小お舟舟ぶね足速乃小舟
- 13風風かぜ守守まもりりり風守
- 14年年としはははややや經經へなななむむん年者也經南
- 15逢逢あふふうとととはははなしなしなしににに相常齒無二
- 16みなぎらふみなぎらふみなぎらう水霧相1401 船
- 17沖沖おきつつつ小小こ島島じまににに奧津小島爾
- 18風風かぜををを疾疾いたみみみ風乎疾見
- 19船船ふね寄寄よせせせかねかねかねつつつ船緣金都
- 20心心こころははは念念おもへへえどどど心者念杼
- 21ことことこと放放さけけけばばば殊放者1402 船
- 22沖沖おきゆゆゆ放放さけけけなむなむなん奧從酒嘗
- 23湊湊みなとよりよりより湊自
- 24邊邊へ附附つかかかふふふ時時ときににに邊著經時爾
- 25放放さくくくべきべきべきものものものかかか可放鬼香
- 26御御み幣幣ぬ帛帛さ取取とりりり三幣帛取1403 旋頭歌
- 27神神かみののの祝祝ほうりががが神之祝我
- 28鎭鎭いわ齋齋ひふふう杉杉すぎ原原はら鎭齋杉原
- 29薪薪たきぎ伐伐こりりり燎木伐
- 30殆殆ほとほとしくしくしくににに殆之國
- 31手手て斧斧おの取取とらららえええぬぬぬ手斧所取奴
現代語訳
〔1398〕(さざなみの)志賀津の浦の船に乗るように、あなたに乗り移ってしまった私の心は、いつも忘れられない。
〔1399〕(百伝ふ)多くの島々をめぐって漕ぐ船に乗るように、乗り移ってしまった心は、忘れかねることだ。
〔1400〕島づたいに行く船足の速い小舟が風待ちをするように、年が過ぎてしまうのだろうか。逢うこともなく。
〔1401〕水しぶきに霞む沖の小島に、風が激しいので船を寄せかねた。心では思っているけれど。
〔1402〕どうせ離すのなら、沖で離してくれればよいのに。湊から岸辺に着こうとする時に、離してよいものか。
〔1403〕幣帛を手に取って神主が祭り清める杉の林で、薪を伐って、あやうく手斧を取り上げられるところだった。
意訳
船に寄せた譬喩歌と旋頭歌である。船に乗るように恋人に心が乗り移ってしまったという二首、風待ちの小舟のように逢う機会のないまま年が過ぎる歌、思いながらも近づけない恋の歌、結ばれる直前に捨てるくらいなら最初から捨ててほしかったと訴える歌が並ぶ。1403番の旋頭歌は、神域の杉(人妻、あるいは神に仕える女)に手を出して、あやうくとがめられかけたことをたとえている。
語釈・文法注
文法・本文
- 乘りにし心
- 相手に心が乗り移ってしまった。
- 足速
- 「あしはや」。船足が速い。
- みなぎらふ
- 水しぶきで霧がかかったようになる。
- 殆しくに
- あやうく。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1398〜1403番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「船に寄す」五首と「旋頭歌」一首。作者はわからない。
修辞
- 譬喩
- 恋を船旅に、恋人を神域の杉にたとえる。
- 枕詞
- 「さざなみの」が「志賀」に、「百傳ふ」が「八十」にかかる。
解説
1403番の旋頭歌で譬喩歌の部が終わり、次から挽歌になる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、286頁(コマ147)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、317頁(コマ164)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日