万葉集 巻第七 1387〜1391番
伏超ゆ 行かましものを
伏越の道を行けばよかったのに、波の間をうかがっているうちに打ち濡らされてしまった。岸に寄せる波、磯に寄っては返す白波、近江の海の風待ち、朝なぎに寄せる白波。海に寄せた譬喩歌五首。
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題詞譬喩歌 海に寄す
- 1伏伏ふし超超こえゆゆゆ伏超從1387
- 2行行ゆかかかましましましものものものををを去益物乎
- 3守守まもらひらひらいににに間守爾
- 4うちうちうちぬらさぬらさぬらさえええぬぬぬ所打沾
- 5浪浪なみ數數よまままずずずしてしてして浪不數爲而
- 6石石いわ灑灑そそぐぐぐ石灑1388
- 7岸岸きしののの浦浦うら廻廻みににに岸之浦廻爾
- 8寄寄よするするする浪浪なみ緣浪
- 9邊邊へににに來來き寄寄よらららばばばかかか邊爾來依者香
- 10言言ことののの繁繁しげけけけむむん言之將繁
- 11磯磯いそののの浦浦うらににに礒之浦爾1389
- 12來來き寄寄よるるる白白しら浪浪なみ來依白浪
- 13反反かえりりりつつつつつつ反乍
- 14過過すぎぎぎがてがてがてなくなくなくははは過不勝者
- 15誰誰たれにににたゆたへたゆたへたゆたえ誰爾絕多倍
- 16淡海淡海おうみののの海海うみ淡海之海1390
- 17浪浪なみかしこみかしこみかしこみととと浪恐登
- 18風風かぜ守守まもりりり風守
- 19年年としはははややや經經へなななむむん年者也將經去
- 20榜榜こぐぐぐとととはははなしなしなしににに榜者無二
- 21朝朝あさなぎなぎなぎににに朝奈藝爾1391
- 22來來き寄寄よるるる白白しら浪浪なみ來依白浪
- 23見見みまくまくまく欲欲ほりりり欲見
- 24吾吾われはははすれすれすれどもどもども吾雖爲
- 25風風かぜこそこそこそ寄寄よせせせねねね風許增不令依
現代語訳
〔1387〕伏越の道を通って行けばよかったのに。波の間をうかがっているうちに、打ち濡らされてしまった。波の数も数えないで。
〔1388〕岩に注ぐ岸の浦辺に寄せる波のように、岸辺に寄ってきたら、噂がうるさいだろうか。
〔1389〕磯の浦に寄せてくる白波が、返しては寄せて、通り過ぎかねているのは、誰のためにためらっているのか。
〔1390〕近江の海の波が恐ろしいと風待ちをして、年が過ぎてしまうのだろうか。漕ぎ出すこともなく。
〔1391〕朝なぎに寄せてくる白波を見たいと私は思うけれど、風が寄せてくれない。
意訳
海に寄せた譬喩歌である。安全な道を行けばよかったのに、波の間をうかがっているうちに濡れてしまったと、恋で失敗したことを悔やむ歌、近寄れば噂になることを案じる歌、通り過ぎかねる白波に恋人のためらいを見る歌、波(周囲の目)を恐れて漕ぎ出せないまま年が過ぎる歌、逢いたいのに機会(風)がない歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 守らひ
- 様子をうかがうこと。
- 浪數まずして
- 波の数も数えないで、波の間をよく見計らわないで。
- たゆたへ
- ためらっているのか。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1387〜1391番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「海に寄す」歌の続き五首。作者はわからない。
修辞
- 譬喩
- 恋の障害を波や風にたとえる。
解説
寄せては返す波は、ためらう恋心のたとえとしてよく用いられた。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、285頁(コマ146)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、316頁(コマ164)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日