万葉集 巻第七 1376〜1380番
大和の 宇陀の眞赤土の
宇陀の赤土の色がついたら、それで人は私のことを噂するだろうか。三輪の神、越えてしまいそうな神社の垣、明日香川の流れ、しがらみのある明日香川の玉藻。赤土・神・河に寄せた譬喩歌五首。
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題詞譬喩歌 赤土に寄す・神に寄す・河に寄す(1)
- 1大和大和やまとののの山跡之1376 赤土
- 2宇陀宇陀うだののの眞眞ま赤土赤土はに宇陀乃眞赤土
- 3さささ丹丹に著著つかかかばばば左丹著者
- 4其其そこもももかかか人人ひとののの曾許裳香人之
- 5吾吾わををを言言ことなさなさなさむむん吾乎言將成
- 6木木ゆ綿綿ふ懸懸かけけけててて木綿懸而1377 神
- 7祭祭まつるるる御御み室室むろののの祭三諸乃
- 8神神かむさびさびさびててて神佐備而
- 9齋齋いわふふうにににはははあらあらあらずずず齋爾波不在
- 10人人ひと目目め多多おおみみみこそこそこそ人目多見許增
- 11木木ゆ綿綿ふ懸懸かけけけててて木綿懸而1378 神
- 12齋齋いわふふうこのこのこの神社神社もりももも齋此神社
- 13超超こえええぬぬぬべくべくべく可超
- 14念念おもほほおゆるゆるゆるかもかもかも所念可毛
- 15戀戀こいののの繁繁しげきききににに戀之繁爾
- 16絕絕たえええずずず逝逝ゆくくく不絕逝1379 河
- 17明日香明日香あすかののの川川かはののの明日香川之
- 18ゆかゆかゆかずずずあらあらあらばばば不逝有者
- 19故故ゆえしもしもしもあるあるあるごとごとごと故霜有如
- 20人人ひとののの見見みまくまくまくににに人之見國
- 21明日香明日香あすか川川がわ明日香川1380 河
- 22瀨瀨せ瀨瀨ぜににに玉玉たま藻藻もははは湍瀨爾玉藻者
- 23生生おひひいたれたれたれどどど雖生有
- 24しがらみしがらみしがらみあれあれあればばば四賀良美有者
- 25靡靡なびきききあはあはあわなくなくなくににに靡不相
現代語訳
〔1376〕大和の宇陀の真赤土の色がついたら、それで人は私のことを噂するだろうか。
〔1377〕木綿をかけて祭る三諸の神のように、神々しくして身を慎んでいるのではない。人目が多いからこそなのだ。
〔1378〕木綿をかけて祭るこの神社の垣さえも、越えてしまいそうに思われる。恋しさの激しさに。
〔1379〕絶えず流れていく明日香川が流れずにいたら、何かわけがあるように人は見るだろうに。
〔1380〕明日香川の瀬々に玉藻は生えているけれど、しがらみがあるので、寄り合ってなびくことができない。
意訳
赤土・神・河に寄せた譬喩歌である。赤土の色が衣につくように、関係が人に知られて噂されることを案じる歌、逢わずにいるのは神に仕えて身を慎んでいるからではなく、人目が多いからだという歌、神の禁忌さえ越えてしまいそうな激しい恋の歌、いつも通っていた人が通わなくなると人が怪しむだろうという歌、しがらみ(周囲の妨げ)のために寄り添えない玉藻の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 眞赤土
- 「まはに」。赤い粘土。
- 齋ふ
- 身を慎んで神に仕える。
- しがらみ
- 川の流れをせきとめるために杭に竹などを絡めたもの。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1376〜1380番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「赤土に寄す」一首、「神に寄す」二首、「河に寄す」歌の初めの二首。作者はわからない。
修辞
- 譬喩
- 恋の障害を神の禁忌やしがらみにたとえる。
解説
1378番は、神域の垣を越える恋という激しい表現で知られる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、284頁(コマ146)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、314頁(コマ163)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日