万葉集 巻第七 1348〜1352番
三島江の 玉江の薦を
三島江の玉江の薦に標を結ってから、自分のものだと思っている。まだ刈ってはいないけれど。大荒木野の小竹、矢橋の小竹、月草の衣、浮き草の蓴。草に寄せた譬喩歌の終わりの五首。
場面イラスト(準備中)
題詞譬喩歌 草に寄す(3)
- 1三島江三島江みしまえののの三島江之1348
- 2玉玉たま江江えののの薦薦こもををを玉江之薦乎
- 3標標しめめめしししよりよりより從標之
- 4己己おのがががとととぞぞぞ念念おもふふう已我跡曾念
- 5いまだいまだいまだ刈刈からららねねねどどど雖未苅
- 6斯斯かくくくしてしてしてややや如是爲而也1349
- 7なほなほなおややや老老おいいいなむなむなん尙哉將老
- 8みみみ雪雪ゆき零零ふるるる三雪零
- 9大大おお荒荒あら木木き野野ぬののの大荒木野之
- 10小竹小竹しぬにににあらあらあらなくなくなくににに小竹爾不有九二
- 11淡海淡海おうみのののややや淡海之哉1350
- 12矢矢や橋橋ばせののの小竹小竹しぬををを八橋乃小竹乎
- 13矢矢や著著はかかかずずずててて不造矢而
- 14信信まことありありありえええめめめややや信有得哉
- 15戀戀こいしきしきしきものものものををを戀敷鬼乎
- 16鴨頭草鴨頭草つきくさににに月草爾1351
- 17衣衣ころもははは摺摺すらららむむん衣者將摺
- 18朝朝あさ露露つゆににに朝露爾
- 19ぬれぬれぬれててて後後のちにににははは所沾而後者
- 20變變うつろひひいぬぬぬともともとも徙去友
- 21吾吾わががが情情こころ吾情1352
- 22ゆたゆたゆたにににたゆたたゆたたゆたににに湯谷絕谷
- 23浮浮うき蓴蓴ぬなわ浮蓴
- 24邊邊へにににももも奧奧おきにににももも邊毛奧毛
- 25依依よりりりかつかつかつましじましじましじ依勝益士
現代語訳
〔1348〕三島江の玉江の薦に標を結ってから、自分のものだと思っている。まだ刈ってはいないけれど。
〔1349〕こうしてまた年老いていくのだろうか。雪の降る大荒木野の小竹でもないのに。
〔1350〕近江の矢橋の小竹を矢に作らないで、本当にいられるだろうか。恋しいのに。
〔1351〕月草で衣を摺り染めよう。朝露に濡れた後には、色があせてしまうとしても。
〔1352〕私の心は、ゆらゆらと揺れ動いて、浮き草の蓴のように、岸辺にも沖にも寄りつけそうにない。
意訳
草に寄せた譬喩歌の終わりの五首である。標を結った薦(娘)はもう自分のものだと思う歌、刈られずに老いていく大荒木野の小竹に結ばれない身を重ねる歌、矢橋の小竹を矢にせずにはいられないように恋しい人と結ばれずにはいられないという歌、たとえ色があせても月草で衣を染めよう(恋を遂げよう)という歌、そして水に浮く蓴のように心が揺れ動いて定まらない恋の歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 己がとぞ念ふ
- 自分のものだと思う。
- 矢著かずて
- 矢羽をつけないで、矢に作らないで。
- ゆたにたゆたに
- ゆらゆらと揺れ動くさま。
- 依りかつましじ
- 寄ることができそうにない。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1348〜1352番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「草に寄す」歌の終わりの五首。作者はわからない。
修辞
- 譬喩
- 娘を薦・小竹にたとえ、心を浮き草にたとえる。
- 序詞
- 1350番の「淡海のや矢橋の小竹を」が「矢著かず」を導く。
解説
1352番の「ゆたにたゆたに」は、恋に揺れる心を音の響きで表した名高い表現である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、281頁(コマ144)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、311頁(コマ161)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日