万葉集 巻第七 1342〜1347番
山高み 夕日隱りぬ
山が高いので夕日が隠れてしまった。浅茅原に、後で見るために標を結っておけばよかった。石代の野の下草、卯名手の社の菅の根、秋津野の杜若、真田葛原、君に似る草。草に寄せた譬喩歌の続き六首。
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題詞譬喩歌 草に寄す(2)
- 1山山やま高高たかみみみ山高1342
- 2夕夕ゆう日日ひ隱隱かくりりりぬぬぬ夕日隱奴
- 3淺淺あさ茅茅じ原原はら淺茅原
- 4後後のち見見みむむむためためためににに後見多米爾
- 5標標しめ結結ゆははわましましましををを標結申尾
- 6言言こと痛痛いたくくくははは事痛者1343
- 7左左かももも右右かくももも爲爲せむむむををを左右將爲乎
- 8石代石代いわしろののの石代之
- 9野野ぬ邊邊べののの下下した草草くさ野邊之下草
- 10吾吾われししし刈刈かりりりてててばばば吾之苅而者
- 11眞眞ま鳥鳥とり住住すむむむ眞鳥住1344
- 12卯名手卯名手うなてののの神社神社もりののの卯名手之神社之
- 13菅菅すがののの根根ねををを菅根乎
- 14衣衣きぬにににかきかきかき著著つけけけ衣爾書付
- 15著著きせせせむむん子子こもがももがももがも令服兒欲得
- 16常常つねならならならぬぬぬ常不1345
- 17人國人國ひとくに山山やまののの人國山乃
- 18秋津秋津あきつ野野ぬののの秋津野乃
- 19杜若杜若かきつばたをををししし垣津幡鴛
- 20夢夢いめににに見見みしししかもかもかも夢見鴨
- 21をみなへしをみなへしおみなえし姬押1346
- 22生生おふるふるうる澤澤さわ邊邊べののの生澤邊之
- 23眞眞ま田葛田葛くず原原はら眞田葛原
- 24何何い時時つかもかもかも絡絡くりりりててて何時鴨絡而
- 25我我わががが衣衣きぬににに著著きむむむ我衣將服
- 26君君きみににに似似にるるる於君似1347
- 27草草くさととと見見みしししよりよりより草登見從
- 28我我わががが標標しめめめししし我標之
- 29野野ぬ山山やまののの淺淺あさ茅茅じ野山之淺茅
- 30人人ひとななな刈刈かりりりそそそねねね人莫苅根
現代語訳
〔1342〕山が高いので夕日が隠れてしまった。浅茅原に、後で見るために標を結っておけばよかったのに。
〔1343〕人の噂がうるさいなら、どうにでもしようものを。石代の野辺の下草を、私が刈ってしまったら。
〔1344〕(真鳥住む)卯名手の社の菅の根を衣に摺りつけて、着せてくれる娘がいればよいのに。
〔1345〕(常ならぬ)人国山の秋津野の杜若を、夢に見たことだ。
〔1346〕(をみなへし)生える沢辺の真葛原よ。いつかつるを繰って、私の衣にして着よう。
〔1347〕あなたに似る草だと見てから、私が標を結った野山の浅茅を、人よ刈らないでおくれ。
意訳
草に寄せた譬喩歌の続きである。日が暮れて見失った浅茅原(娘)に標を結っておけばよかったと悔やむ歌、娘と結ばれてしまえば噂などどうにでもしようという歌、神の社の菅で衣を染めてくれる妻がほしいという歌、人国山の杜若(人妻か)を夢に見る歌、真葛原のつるで衣を織るように、いつか娘を妻にしようという歌、恋人に似た草と思って標を結った浅茅を刈るなという歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 言痛くは
- 人の噂がうるさいなら。
- 眞鳥住む
- 鷲などが住む意で「卯名手」にかかる。
- をみなへし
- 「佐紀(咲き)」などにかかる。ここは「生ふる」にかかる。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1342〜1347番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「草に寄す」歌の続き六首。作者はわからない。
修辞
- 譬喩
- 娘を浅茅・下草・杜若・真葛にたとえる。
- 枕詞
- 1345番の「常ならぬ」が「人國山」に、1346番の「をみなへし」が「生ふる」にかかる。
解説
卯名手の社は奈良県橿原市の雲梯神社。秋津野は吉野の地名。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、281頁(コマ144)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、311頁(コマ161)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日