万葉集 巻第七 1296〜1303番
今つくる 斑の衣
今作っている斑の衣が目について、私の心にかかる。まだ着てはいないけれど。紅の衣、白麻衣、海の白玉。衣や玉に恋人をたとえた譬喩歌八首で、柿本人麻呂歌集の歌。
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題詞譬喩歌 衣に寄す・玉に寄す
- 1今今いまつくるつくるつくる今造1296 衣
- 2斑斑まだらののの衣衣ころも斑衣服
- 3目目めにににつきつきつきててて面就
- 4吾吾われににに念念おもほほおゆゆゆ吾爾所念
- 5いまだいまだいまだ著著きねねねどもどもども未服友
- 6くれなゐくれなゐくれないににに紅1297 衣
- 7衣衣ころも染染しめめめまくまくまく衣染
- 8欲欲ほしけしけしけどもどもども雖欲
- 9著著しるくくくにほはばにほはばにおわばかかか著丹穗哉
- 10人人ひとののの知知しるるるべきべきべき人可知
- 11かにかくかにかくかにかくににに干各1298 衣
- 12人人ひとはははいふいふいうともともとも人雖云
- 13織織おりりり次次つがががむむん織次
- 14我我わががが織織はた物物ものののの我二十物
- 15白白しろ麻麻あさ衣衣ごろも白麻衣
- 16あぢあぢあじ群群むらののの安治村1299 玉
- 17とをとをとをよるよるよる海海うみににに十依海
- 18船船ふね浮浮うけけけててて船浮
- 19白白しら玉玉たま採採とるるるととと白玉採
- 20人人ひとににに知知しらららゆゆゆななな人所知勿
- 21遠遠おち近近こちののの遠近1300 玉
- 22磯磯いそののの中中なかなるなるなる礒中在
- 23白白しら玉玉たまををを白玉
- 24人人ひとににに知知しらららえええずずず人不知
- 25見見みむむむよしよしよしもがももがももがも見依鴨
- 26海海わた神神つみののの海神1301 玉
- 27手手てににに纏纏まききき持持もたるたるたる手纒持在
- 28玉玉たまゆゑゆゑゆえににに玉故
- 29磯磯いそののの浦浦うら廻廻みににに石浦廻
- 30潛潛かずきするするするかもかもかも潛爲鴨
- 31海海わた神神つみののの海神1302 玉
- 32持持もたるたるたる白白しら玉玉たま持在白玉
- 33見見みまくまくまく欲欲ほりりり見欲
- 34千千ち遍遍たびぞぞぞ告告のりりりししし千遍告
- 35潛潛かずきするするする海海あ人人ま潛爲海子
- 36潛潛かずきするするする潛爲1303 玉
- 37海海あ人人まははは告告のるるるともともとも海子雖告
- 38海海わた神神つみののの海神
- 39心心こころししし得得えねねねばばば心不得
- 40見見みゆゆゆととといはいはいわなくなくなくににに所見不云
現代語訳
〔1296〕今作っている斑の衣が目について、私の心にかかる。まだ着てはいないけれど。
〔1297〕紅色に衣を染めたいと思うけれど、色がはっきり映えたら、人が気づくだろうか。
〔1298〕あれこれと人は言っても、織り続けよう。私の織物の白い麻の衣を。
〔1299〕あじ鴨の群れが揺れ寄る海に船を浮かべて、白玉を採ろうとしていると、人に知られるな。
〔1300〕あちこちの磯の中にある白玉を、人に知られずに見る方法があればよいのに。
〔1301〕海の神が手に巻いて持っている玉のために、磯の浦辺で潜りをすることだ。
〔1302〕海の神が持っている白玉を見たいと、千度も祈った、潜りをする海人は。
〔1303〕潜りをする海人は祈っても、海の神の心を得なければ、見えるとは言わないのに。
意訳
物に寄せて恋を歌う譬喩歌である。衣の歌は、まだ手に入れていない恋人を「まだ着ていない衣」に、人目に立つ恋を「色の映える紅の衣」にたとえ、人が何と言おうと恋を貫こうと歌う。玉の歌は、恋人を海の底の白玉にたとえ、人知れず手に入れたい思いや、親(海の神)の許しが得られなければ逢えない恋の難しさを歌っている。
語釈・文法注
文法・本文
- にほはばか
- 色が映えたら…か。
- とをよる
- たわみ寄る、揺れ寄る。
- 海神
- 「わたつみ」。海の神。娘を守る親のたとえ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・譬喩歌・1296〜1303番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 巻第七の譬喩歌のうち、「衣に寄す」三首と「玉に寄す」五首。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 譬喩
- 恋人を衣や白玉にたとえ、その親を海の神にたとえる。
解説
譬喩歌は、表向きは物を詠みながら、裏に恋の思いをこめる歌の部立である。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、277頁(コマ142)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、306頁(コマ159)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日