万葉集 巻第七 1284〜1289番
橋立の 倉椅川の 河のしづ菅
倉椅川の川辺の菅を、刈ったのに笠に編まなかった。春の日に田で疲れる妻のない君、久世の社の草、依網の原、水門の葦、垣を越えて鳥狩りをする君。柿本人麻呂歌集の旋頭歌の続き六首。
場面イラスト(準備中)
題詞旋頭歌(3)
- 1橋橋はし立立だてののの橋立1284
- 2倉椅倉椅くらはし川川がわののの倉椅川
- 3河河かはのののしづしづしず菅菅すげ河靜菅
- 4我我わががが刈刈かりりりててて余苅
- 5笠笠かさににに編編あまままなくなくなく笠裳不編
- 6川川かはのののしづしづしず菅菅すげ川靜菅
- 7春春はる日日ひすらすらすら春日尙1285
- 8田田たににに立立たちちち疲疲つかるるる田立羸
- 9君君きみははは哀哀かなしししももも公哀
- 10若若わか草草くさののの若草
- 11嬬嬬つま無無なききき君君きみががが孋無公
- 12田田たににに立立たちちち疲疲つかるるる田立羸
- 13山城山城やましろののの開木代1286
- 14久世久世くぜののの社社もりののの來背社
- 15草草くさななな手手た折折おりりりそそそ草勿手折
- 16己己おのががが時時ときととと己時
- 17立立たちちち榮榮さかゆゆゆともともとも立雖榮
- 18草草くさななな手手た折折おりりりそそそ草勿手折
- 19青青あお角角み髮髮ずら青角髮1287
- 20依網依網よさみののの原原はらににに依網原
- 21人人ひとももも逢逢あははわぬぬぬかもかもかも人相鴨
- 22石石いわ走走ばしるるる石走
- 23淡海淡海あうみ縣縣あがたののの淡海縣
- 24物物ものがたりがたりがたりせせせむむん物語爲
- 25水水みな門門とののの水門1288
- 26葦葦あしののの末末うら葉葉はををを葦末葉
- 27誰誰たれかかか手手た折折おりりりししし誰手折
- 28吾吾わが背背せ子子こががが吾背子
- 29振振ふるるる手手てををを見見みむむむととと振手見
- 30我我われぞぞぞ手手た折折おりりりししし我手折
- 31垣垣かき越越こゆるゆるゆる垣越1289
- 32犬犬いぬ呼呼よびびび越越こしししててて犬召越
- 33鳥鳥と獵獵がりするするする君君きみ鳥獵爲公
- 34青青あお山山やまととと青山等
- 35しげきしげきしげき山山やま邊邊べににに茂山邊
- 36馬馬うま息息やすめめめ君君きみ馬安君
現代語訳
〔1284〕(橋立の)倉椅川の川辺の菅よ。私が刈っておいて、笠に編まなかった、川辺の菅よ。
〔1285〕春の日でさえ、田に立って疲れているあなたは、かわいそうだ。(若草の)妻のいないあなたが、田に立って疲れている。
〔1286〕山城の久世の社の草を手折らないでおくれ。自分の時節だと茂り栄えていても、草を手折らないでおくれ。
〔1287〕(青角髪)依網の原で、人にも逢わないものか。(石走る)近江の国の話をしよう。
〔1288〕湊の葦の葉先を誰が手折ったのか。わが背子が振る手を見ようと、私が手折ったのです。
〔1289〕垣根を越える犬を呼び越させて鳥狩りをするあなたよ。青々と茂った山辺で、馬を休めなさい、あなた。
意訳
旋頭歌の続きである。刈ったまま編まずにおいた菅に、手に入れながら結ばれなかった恋人を重ねる歌、妻のいない若者が春の田で働く姿をあわれむ歌、神の社の草を手折るなという歌、近江の話をしようと旅人に会いたがる歌、恋人の振る手を見ようと葦を手折ったという歌、鳥狩りに夢中な男に馬を休めよと呼びかける歌が並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- しづ菅
- 水辺に生える菅。
- 開木代
- 「やましろ」。山城の古い表記。
- 青角髮
- 「依網」にかかる枕詞。
- 馬息め
- 馬を休ませよ。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第七・雑歌・1284〜1289番
- 歌体
- 旋頭歌(五七七五七七)
- 時期
- 第2期(672〜710年(壬申の乱〜平城京遷都))
- 状況
- 巻第七の雑歌のうち、「旋頭歌」の続き六首。柿本人麻呂歌集に出る。
修辞
- 反復
- 1284〜1286番で、第三句と第六句、第二句と第六句をくり返す。
- 問答
- 1288番は、前半が問い、後半が答えの形。
解説
依網の原は大阪市住吉区のあたり、久世の社は京都府城陽市の久世神社のあたりとされる。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』上巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、276頁(コマ142)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』上巻 岩波書店、昭和24年(1949)、304頁(コマ158)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日